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第五十二話 謎

「ところで、他力本願ついでですいませんが、実は折り入ってお尋ねしたい儀がございまして……」


「あら、急に改まって、どういう風の吹き回し?」


 俺は平身低頭しながら、コミケ会場で聡子に聞いた話をかいつまんで伝えた。


「つまり、謎のサイトでおっぱいの大きくなる薬を購入した女性たちが、次々に失踪しているかもしれないということ? 


 それってあなたの脳内エロ妄想じゃないの?」


 彼女は三文雑誌でも読んだような、胡散臭げな表情で、マウスの餌やりを続けた。


「さすがにそんな妄想しないって! 


 でも、彼女の話を総合すると、そういうことになるんだよ。


 俺もあの後ネットの掲示板などで、そんな噂が流れているのを目にした。


 問題のサイトは陰も形も無くなっていたけど」


 俺も、自分でやれるだけの調査はしたのだ。


 行方不明になっているらしい女性が、この近辺の県に数人いるらしいという情報は、ネットのあちこちで、かなり信憑性を持って囁かれていた。


 中野さんももちろんその一人で、死因についても色々取りざたされていた。


 また、中野さんの知人の留年仲間に俺からもさりげなく聞いてみたのだが、どうも彼女は、以前留年した後、付き合っていた元同級生の男に振られ、どんどん引きこもりがちになっていったようだ。


 実際同級生同士の恋愛ではよくある話で、片方が留年すると、そのカップルはほぼ100パーセント破局すると言われる。


 他にも、縁結びのメッカ・出雲大社にカップルが行くと、「新たな縁を作りに来たんだな。よっしゃ任せろ」と神様が勘違いして破局するだの、島根県松江市の水郷祭に行ったカップルは翌年破局するだの、山陰ローカルの破局ジンクスは多々あるが、そちらは現在検証中であり、ていうかどうでもいい。


「なるほど、彼女は別れた彼氏とよりを戻そうとして、悪のフォースに導かれてしまったわけね。


 それって雪嵐さんと同じじゃないの?」


「そ、そんなことないやい! 


 俺たちはそもそも別れてなんかいないやい!」


 俺は子供のように駄々をこねた。


「でも、中野さんの場合は、単に自殺で亡くなったんじゃないの? 


 動機は十分あるし、財布だって残っていたんだし、事件性は薄いと考えられるわ。


 もっとも私は警察じゃないから、あまり細かいことは分からないけど」


「俺も十中八九そうだろうとは思うんだけど、なんか引っかかるんだよね。


 例えば首を吊って死んだんなら、すぐ側にロープなり縄なり落ちているはずだし、枝振りのいい木が近くに生えているとかいう情報があってしかるべきだが、そんなことは一切記事に書いてなかった。


 警察が報道規制しているだけかもしれないけど、遺族から直接聞いた雪嵐も、その手の話は警察から報告されていなかったと言っていたし、結局どうやって具体的に死んだのかは、謎のままっぽい」


「なるほど、確かに不審な点はあるわね。


 変質者に拉致されて、あなたの好きなレイプをされた後に殺された可能性もあるわけ?」


「誰がレイプマン好きじゃ! 


 いや、それは置いといて、変質者が連れ込むにはちょっと山奥過ぎる気もするけどね。


 車道から数キロも離れていたそうだよ。


 それに、そこまで用意周到な犯人が、身元が分かるものをわざわざ現場に残すかな?」


「あちらを立てればこちらが立たずってわけか……推理って存外難しいものね」


「ああ……」


 俺と早百合は同時に深い溜息をついた。


 結局、俺より賢い彼女にも、分からないものだってあるということだろうか。


 最初は、「自分一人で解決してやる!」と熱く燃えていた俺も、どうにもこうにも行き詰まり、彼女が最後の頼みの綱だったのだが、こうなっては本当に打つ手がない。


「せめて、中野さんの使っていたという薬が手に入れば……」


 独り言のように、早百合がぽつんと呟く。


 俺は目から鱗だった。


「そうか、そっちの線から進めていけば、新たな発見があるかも知れないな。


 さっすが師匠!」


「でも、雪嵐さんは、中野さんに貰った薬をまだ持っているの?」


「いや、全部とっくに飲んでしまったらしい。どうしたものか……」


「せんぱーい、やっぱりここにいましたかー!」


 ドアの向こうから、やけに明るい声が響いてくる。


「あら、噂をすれば、あなたの大事なお姫様が現れたようね。


 もうプラグチェックしちゃったの?」


「してねーよ! てか意味わかんねー!」


 俺が、どうしてこのご令嬢はどんどんお下品になるのだろうかと思案していたとき、ドアが勢いよく開かれ、室内に風が巻き起こった。


「あ、さーちゃん、この前はどーも。


 元気してたー?」


「お久し振りね、ユッキーちゃん。


 おかげ様で元気よ、こんにちは」


「さ、さーちゃんとユッキーちゃん!? 


 あんた方、いつの間にそんなに親しくなったの?」


「そりゃ、この前海で一緒に遊んだときからですよー。


 ねー、さーちゃん?」


「そうだね、ユッキーちゃん」


「……」


 二人のラブラブファイヤーワールドに、部外者の俺はもはや立ち入ることは出来なかった。


 俺、一応彼氏なのに……。


「じゃ、あたしもいっちょマウスの餌やり手伝いますから、早く終わらせましょう! 


 そして、皆でミスドでもしません?」


「お、いいねー。


 師匠も行く?」


「そうね……もやし付きでもよければ行くわ」


「もやしって……まさか!?」


「お呼びですかお嬢様。僭越ながら小生、ミスドでしたらキッズセットを所望致します。


 最近はまって収集していますので」


「うわ、どっから湧いた、明星!」


 ゾンビ並みの緩やかさで、何時の間にか背後から出現した彼は、やはり寝癖がついていた。


「それじゃ、明星さんもご一緒しましょう! 


 ついでに皆で先輩のお部屋の抜き打ち検査でもしません? 


 最近お掃除してませんし、新学期だからパーッとやっちゃいましょうよー」


「噂の魔窟がついに拝めるわけね、興味深い……」


「我が研究室を越える、人類未踏の伝説の腐海に、お嬢様方だけで生かせるわけには参りません。


 小生ももちろんお供します、ガスマスク持参で」


「来んなおめーら!」


「あら、そんなことを言っていいの? 


 誰が哀れな子羊の勉強を見てやっていると思っているのかしら?」


「そーですよ、先輩。


 それに、コミケ会場で、格好良く、『君を守る!』って言ったのは、どこの誰でしたっけー? 


 お部屋に入れてくれないような人に、いざって時に守ってもらえますかねー?」


「うぐぐ、女性って汚い……」


 というわけで、俺は嫌々ながら一同を部屋に上げることと相成った。


 足の踏み場もなくエログッズが散乱し、壁にグラビアアイドル水着カレンダーが貼られ、奥にS子2号ちゃんが微笑んで待っている我が家へ……。

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