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第三十話 人生の師匠

「そうか、お前さんも相変わらず大変だな」


「いや、先輩に比べればまだまだですよ」


 昼休みの間、俺は先輩に誘われ保健所を抜け出し、近くの牛丼屋で昼食をゴチになることになった。


 先輩の分の講義は午前中で終わりで、彼はこの後大学に帰って夜まで実験だという。


「とある新種のウイルスの塩基配列の同定及び、様々な実験動物における血清疫学的ならびにウイルス学的研究」というのが彼の実験テーマのようだが、長すぎて、何がなんだかちんぷんかんぷんだ。


「だから、制限酵素でDNAを部分的に切断して、そいつを逆転写酵素でcDNAに変換してだな……」


「いえ、そこまででもう十分です。


 さ、メガ盛り食べましょ、いただきまーす」


 俺は無理矢理会話をぶったぎって、てんこ盛りの牛丼に箸をつけた。


「お前さん、これくらい理解できないと、とてもじゃないけどウイルス学に受かんないぜよ」


 先輩が哀れみの眼差しで俺を見つめる。


 俺は気付かないふりをして、湯気の立つつゆだくだくの牛丼をかっこんだ。


「とにかくシーケンスに至るまでには、膨大な時間と手間がかかるわけじゃよ。


 更に動物実験も並行して行っている。


 あと一歩で論文自体は完成しそうなんじゃがのぅ。


 教授のチェックが厳しくて、なかなか思うようにいかん。


 あいつは学生ばかりでなく、院生に対しても鬼なんじゃ。


 また、それとは別に、土日にはこんな雑務をさせられるし、他の病院にバイトにも行かされる。


 バイトというのは、緊急手術もせにゃならんのだぞ。


 夜中に叩き起こされ、眠い頭で開腹手術なんぞやらされた日には、とてもじゃないけど身体がもたん。


 最近じゃ家に帰ってもオナニーする元気すらないんじゃよ」


「えっ、嘘でしょ、先輩に限って!」


 俺は驚愕のあまり、七味にまみれた紅生姜を鼻の孔から噴出した。


 とても痛い。


 人には、人生において、師匠と呼べる目上の人が必ず存在する。


 後藤先輩は、俺のオナニーの師匠だった。


 彼は、高校時代からチャレンジャーで、様々な試みに挑戦していた。


「バットとボールをいっしょに握ってはいけない。


 始めにそれをやって死にそうな目にあった」とか、


「うどん玉を人肌に暖めるとよい」とか、


「戦前は、『ハンドポンプ』とも言った」とか、


「聖書でオナンのやったのは、オナニーではなく単なる外出しだ」、


「賢者タイムでも好きだと思う女性がいるなら、その思いは本物だ」、


「初めちょろちょろ中ぱっぱ」、


「風呂場で親に行為を見つかった時は、咄嗟にシャンプー代わりにしてごまかせ」、


「鹿尾菜は、『しかおな』ではなく、『ひじき』と呼ぶ」などなど、役に立ったり役に立たなかったりする様々なオナ知識を教えてくれ、いわゆるオナホールに関しても造詣が深く、自作するほどだった。


 俺は彼の勧めに従い、時にはベストフレンドを、時にはパラダイスを購入し、やがてTENGAへと至るオナロードが開かれた。


 そんな365日、食事を欠いてもオナニーをかかしたことのない(オナニーだけに)彼が、よりにもよってオナニーが出来ないだなんて!


「分かるか、錦織。


 たとえ医者になっても、決して楽しいバラ色の日々が訪れるわけではないのじゃよ。


 美女との合コンなんか、こんな田舎のどこでやっとるんじゃって話だ。


 むしろどんどん急勾配な坂道になっていく。


 毎日が試験のようなものなんじゃ」


「先輩……」


 俺はティッシュで鼻を押さえながら、深い溜息をついた。


 今日は帰ったら、S子2号ちゃんを心行くまでメンテナンスしてやろうと決意しながら。

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