夏の終わりの声
それから、私は、毎日毎日、彼のお見舞いに行くようになった。
彼は、元気そうに見える。
でも…
彼といられる時間は少なくなっている。
彼は、私が来るたびに、私に甘える。
運ばれてくる食事を食べさせてと言っているように、
「あーん!」と彼は口を開ける。私は、
「自分で食べてください。」
と言うと拗ねる。少ししてから、再び
「あーん!」と口を開ける。私は、照れながら、彼の口に運ぶと彼は、食べる。その後に無邪気な子どものように、私にくっついてくる。
「もう一回!」
と「あーん!」と口を開く。私の照れた顔を見ながら、彼は楽しんでいる。彼は、
「口移しして!」
と言ったりして、私は、無邪気な子どものような彼を見て、
「一回だけだよ。」
と言うと、
「うん!」と言い、頷く。私は自分の口に入れると、彼は私の口に合わせ、食べた。私は顔が真っ赤になった。彼は、
「おいしかった!」
と普通に言う。彼は、私から離れなかった。
そんな日々を繰り返していた。
夏祭りの日のこと。
私は彼のお見舞いに行った。彼は、窓の外を見ながら、
「いいなー!」
と言う。私は、なにも言えない。私は、話を逸らし、彼に
「はい!あーん!」
と食事を運ばせると彼は口に入れた。すると彼は食べ物がまだ口に入ったまま、私の口にキスをし、彼の食べていたものが入ってきた。私は顔が真っ赤になった。彼は、
「おいしかった?」
と聞く。私は、顔を真っ赤にしたまま、「うん!」と頷いた。
少しすると、彼は、
「夏祭り、行きたいな…」
と言う。私は、にこっとしかできなかった。すると、彼は、
「ねえ、行こうよ!今から!」
と言う。私は、
「なに言ってるの?」
と言うと、彼は、
「行くんだよ!お祭りに!」
と言い、ベットの上から、立とうとしている。私は、
「え?ダメだよ!」
と言うと、彼は、
「行く!絶対に行く!」
と言う。私は彼のわがままを聞いてあげたかった。
「ちょっと待って!」
と彼に言い、看護師さんを呼んだ。看護師さんに言うと、
「なに言ってるですか?」
と言う。それはそうだ。だって、彼は、病人だ。いつ、何があってもおかしくない状態だ。私は、何度も何度も頼んだ。彼は、
「行きたい!彼女と!」
と真剣な顔で看護師さんに言うと、看護師は
「確認してきますので」
と言い、先生のところに行くと、先生は、
「いいですよ!後悔のないように過ごしてください。」
と言う。彼は、
「やったー!」と大喜びだった。浴衣には、さすがに着替えられず、そのままで行った。
お祭りの会場は人で溢れていた。子どもずれの家族、友達と来ている人たち、何かの団体で来ている人たち、恋人同士でしている人たちと様々な人たちが集まっている。
彼は、私の手を握った。引っ張りながら、人混みの中に行く。私は、
「そんなに焦らなくても!」
と言うと、彼は、
「あれ、やろ!」
と言う。私は、「うん!」と言った。彼の手は暖かい。彼は私の手をぎゅっとしている。私は、
「綿あめ、食べたい!」
と言うと、
「いいよ!」
と彼は、綿あめの屋台まで行った。私が綿あめを買うと、
「次、何したい?」
と言う。その後に、彼は、私の綿あめを食べた。
「おいしい!」
と彼は言う。彼が、
「金魚、救いは?」
と言う。私は、
「やろー!」
と言って、金魚救いのところに並ぶと、「ヒューパーん!ヒューパーん!」と夜空に花が咲く。私は、
「え?」
と言うと、彼は、
「なんで?花…?」
と言う。この町は、3年に一度だけ上がる。去年上がったのに今年もなぜか、上がる花に見とれていた。彼は、私を抱きしめた。強く強く。そして、私の口にキスした。その後に彼は、花が上がっている間に私に
「好き!大好き!」
と言う。私は、
「私も好き!大好き!」
と言うと、
「愛してる!」
と私を再び抱きしめた。彼は、泣いている感じがした。私は、彼をそっと抱きしめた。再び、口にキスをし始めた。空に上がる花はまぶしく私たちを包んだ。
私は、その夜、彼とずっといた。彼の手をぎゅっとずっと握っていた。彼も私の手をぎゅっとずっと握っていた。
しかし、夏の終わりが近づいていた。




