↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/110

第五十九話「弟子」

「……さっぱりなのです」


 イノシシ料理で満腹になった俺は、二階にあるマリリンの部屋にお邪魔した。

 約束通り、魔術の手ほどきをしているのだが……。


「マリリンって魔術をかじったことは?」

「全然なのですよ」


 究極のど素人だった。

 魔術を習いたい。

 それなりに魔術の修練を積んできている。

 そう思っていた。

 ところがどっこい。

 マリリンは魔術師を夢見る、ただの乙女だった。


「いいかい? この指先を見ててごらん」

「はい!」


 俺の指先に小さな火球が揺らいだ。


「これが初級の火魔術なんだよ」

「おー! 凄いのですっ!」


 目を丸くしてマリリンが驚く。 

 本来、魔術は呪文を詠唱することで発動する。

 単に朗読したら誰でもと言う訳でもないのだが、ど素人なら呪文詠唱は必須だろう。

 しかし残念なことに無詠唱で魔術の発動ができる俺は、ただの一つも呪文を丸暗記していなかった。


 ここに魔術教本でもあればいいのだが……。

 参ったなぁ……。

 折角、魔術を教えるのだ。

 一つぐらいは習得させたい。

 本人も初めて見る魔術に胸を、ときめかしている。


「魔術の発動はイメージ力が大切なんだよ」

「イメージなのですか……」


 脳内で火球をイメージし、そのイメージに魔力を注ぎ込んで着火する。

 俺には容易いことなのだが、マリリンにとってはそうではないようだ。


「イメージ……イメージ……なのです! 火の玉をイメージするのです!」


 ブツブツと繰り返しては、失敗している。

 もっと噛み砕けば俺の場合は、イメージと言うよりアニメやマンガで鍛えた妄想力だろうな。

 実際に火球を見せたことにより、コツを掴んでもらえるとも思ったが、そう易々とはいかないようだ。


 それでも根気よく魔術発動に至るまでの、妄想ロジックをマリリンに伝える。


「わぁぁぁん、マリリンには魔術の才はないのでしょうか……」


 そんなことはない。

 マリリンが誰が誰に恋してるのか敏感に察知できるように、俺には相手の魔力総量が何となく察知できる。


 今まで出会ってきた魔術師の中で、最強の魔術総量を持ってると俺が感じた者。

 一番はやはり、俺の師匠のビディだ。

 しかし、それはあくまでも、俺の直感でしかない。


 何故なら、相手の魔力総量が読み取れる俺でも、相手が魔術を発動させない限り、底が見えない。

 見えないと言うか、正確には読みとりにくい。

 なので、ビディの魔力総量は俺の中でも、未だ謎のままではある。

 謎ではあるが……底しれぬ何かを感じている。


 次に知り合った中では、シャーロットの魔力総量が断トツで抜きんでていた。

 伝説の六英雄で、精霊使い。

 精霊の使役に消費する魔力量。

 召喚してる時間に比例し魔力を消費し続ける。

 魔力を遮断したら、精霊は直ぐにも精霊界にお帰りになられる。

 シャーロットはこれまでに、木の精霊ドリアードや、風の精霊シルフなどを召喚しているが、いずれも精霊の中では下位の精霊らしい。


 そのうち上位精霊とやらも見てみたいものだ。


 次に魔力総量が高く感じた人物。

 間宮、一条、ラルフ、ドロシー、ソーニャって感じだ。

 間宮祐介と一条春瑠の二人は賢者適正だけあって、内包してる魔力総量はクラスメートの中でもずば抜けていた。

 

 無修行でそんだけあれば、修行次第で今後はもっと伸びるかもしれない。

 ……が、法王庁の管理下にある召喚勇者達は、俺とは今後も友好的な関係は築きにくいだろう。

 彼らが成長するのは、俺としては複雑な気分でしかない。


「あー! もう! 全然ダメなのです!」

「ほえ?」

「お師匠様、お願いがあります!」

「へ……? なんだい?」

「ぺたぺたしていいですか?」

「ぺたぺたって?」

「お師匠様が魔術を発動させてる時に、触れていたいのです!」


 どうやらマリリンは俺の身体に直接触れることによって、魔力を循環させるコツを掴みたいらしい。


「そんなんでよければ……」

「ありがとうござます!」


 今のマリリンは風呂上がりで、パジャマに着替えている。

 そして俺におんぶり抱っこのように、後ろから抱きついてきた。


「お師匠様、お願いします!」


 マリリンから石鹸の香が漂ってきた。

 

「よし、魔術を使うよ」

「どんな魔術を使うのですか?」

「何か希望あるかい?」

「お師匠様は自由自在に空が飛べるんですよね!」

「おーけ!」


 天井を見上げた。

 軽く浮くとするか。


 床から足が離れた。

 マリリンは俺にしがみつきながらも、何かを感じ取ろうと必死だ。

 俺も彼女に伝わりやすいように努力する。


「お師匠様……」

「なんだい?」

「お腹いっぱいになると、眠たくなりますね!」


 こんがりと焼けたイノシシステーキをたらふく食った。

 気持ちは分かる。


「ふぁぁぁ……あくびがでるのです……」


 マリリンがあくびをした。

 

「……うっ!」


 や、やばい……。

 ――――お、落ちる!


 ズデンッ!

 

 俺とマリリンは床へと落下した。

 軽く浮いた程度だったので、怪我ない。

 ちょっと痛かった程度だ。


「マリリン大丈夫か?」

「お師匠様こそ、どうされたのですか?」


 マリリンがあくびをした瞬間、激しい眠気に襲われた。

 落下したショックがなかったら、そのまま寝入ってしまったかもしれない。


 でも……これって、何かしらの魔術が発動したんじゃないだろうか?

 猛烈な眠気。

 そうだ、相手を眠らせる魔術。


 究極の眠り魔法じゃないか!


「マリリン!」

「はいなのです!」


 マリリンも理解していた。

 己の眠気が、俺に伝染したと。


「その眠くなる魔術、最高だよ!」

「え、え、本当ですか?」

「ああ、相手を眠らせてしまえば恐いもんないだろ? ある意味、最強かもな!」


 マリリンを褒めながらも、ちょっと悔しかった。

 俺には眠り魔法が真似できなかった。

 真似できないどころか、先ほどの眠気。

 想定外の出来事だったとはいえ、抗えることなく眠気に支配されていた。


 彼女は淫魔族の血を受け継いでいる。

 淫魔と言えば、夜な夜な人の夢の中に現れては夢を喰らう。

 そして……精気も。


 精霊魔法がエルフの専売特許のように、眠り魔法も種族の特性なのかもしれない。


 よし! マリリンは眠り魔法のエキスパートに育てよう!

 

「さっきの眠気を誘う、魔術。遠隔でもできそうか?」

「あ、はい! 試してみるのです!」


 マリリンが座りながらすり寄ってきた。


「……ん? どうしたんだい?」

「眠ったら頭を打ちそうなのです……」


 自分自身に使うつもりだったのだろうか?


「遠慮なく、僕に試してみなよ?」

「い、いいのですか?」

「全然、構わないよ」


 俺の言葉でマリリンは決心したようだ。

 俺の正面に座り直し、真剣にじっと見つめてきた。

 我が弟子ながら、可愛いかもしれない。

 そんなことを思いながら、俺も気を引き締める!


 今度こそ、マリリンには悪いが抗ってやる!

 そう……息巻いてみた。

 

 マリリンが魔術を発動させた。

 魔力の流れを感じる。


 ……く、くるぞ!

 俺も自身の魔力で対魔障壁を張る。

 俺は俺で、マリリンの眠り魔術をレジストしようと試みたのだが……。

 魔力とは別のモノが俺を襲う。


 術者のマリリンの目がとろんとし、俺に圧し掛かって来たのだ。


「あわわ……」


 対魔障壁で防御するどころか、マリリンの唇に襲われた。


「あ、あああ――――」


 ――――柔らかい感触。



 

 ◆◆◆




 窓から差し込む陽射しで目が覚めた。

 俺はベットに寝かされていた。


「お腹いっぱいなのです……」


 なんだろうと頭を動かすと、隣で寝てるマリリンの寝言だった。

 眠ってしまった俺達をメアリーがベットに運んでくれたに違いない。

 それにしても……俺ですら抗えない破壊力とは……末恐ろしい弟子かもしれない。




 朝食を済ませた俺達一行は、村長さんの家の前で軽く挨拶を交わした。

 

「お師匠様、いってらしゃいませなのです!」


 マリリンには、眠り魔術の特訓に励むようにと伝えた。

 強力な魔術だが、術者当人までが眠ってしまっては話にならない。


「はい、マリリンは頑張って特訓に励んで師匠の帰りを待ってるのです!」


 イノシシ料理を振舞ってくれた夫婦にもお礼を伝える。

 その光景を、にこやかに村長さんは眺めていた。


「村長さん、ありがとう。行ってきます!」

「ルーシェリア王子、良き旅を。そしてご武運を祈ってますぞ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。