第二十七話「竜王の城へ」
※改稿済み(2017/4/13)
お邸の前に広がる庭に出たメアリーは青く澄んだ空を見上げると、胸に手を当て緊張をほぐすように深呼吸。猛反対していたのに一度決心を固めたメアリーの行動は素早く、今では色めいていた。
そのメアリーの様子を窺うウルベルトが重い荷物を背に担ぎ、張りきったように声をあげた。
「では、坊ちゃん。竜王様の居城に向いましょうか」
にっと、白い歯を見せるウルベルト。とりあえず馬車の手配をするようなのだが、
「竜王様の城ってどこにあるんだい?」
素朴な疑問をウルベルトに投げかけた。
「竜王城はこのミッドガル王国より東の方角にありまして、馬車なら三日の道のりでございます」
「へっ……そんなに遠いの?」
「ええ、ですが心配はいりませんよ。道中に寝泊まりできる宿はございますゆえ」
そうか……割と遠いんだな……う~む。両親が不在の状況で三日も家を空にする訳にはいかないな。いやいや往復と考えると一週間ほど空けることになる。普通に向かうとね。
またそれとは別に法王庁の動向も気になる。謀略や陰謀は情報戦が鍵を握っていると言っても過言ではない。気がついた時には足元を掬われているのだ。
ウルベルトは親父が最も信頼する部下で腕も立つ。ウルベルトは残し、彼に情報を探らせた方が良さそうだ。
――――それに…………メアリーと二人で旅行気分を満喫するのも悪くないよな?
「あのさ、ウルベルト……ほんと張り切ってるようで悪いんだけどさ……」
「あ、はいっ! どうされました?」
「ウルベルトには留守番を任せようと思う……」
「えっ!? ……留守番でございますか?」
「ほら、あんなことがあったばかりだろ? お邸を空にする訳にはいかないし」
「し、しかし……このウルベルト。坊ちゃんの護衛も命じられてます。短絡的にホイホイ離れるわけもいかないのですよ」
「ホイホイとお邸をもぬけの殻にする訳にもいかないよね?」
そこまで言うとウルベルトは寂しげな眼差しを俺に向けてきた。
郷田と骨山に容赦なく引導を渡したウルベルトでも、こんな顔をすることがあるんだな。
するとメアリーが気を使ったように、
「で、でしたら……その間のお留守番は私がいたしましょうか?」
メアリーの提案は俺がすぐさま否定した。
「それはダメだよ」
「そうなのですか?」
「あんなことがあったんだ。お邸が安全とも言い難いだろ? それにさ……ウルベルトには公務もあるはずだ。そうだよね?」
「確かに少なからずありますが、お暇を頂きますゆえ、心配には及びませぬ……が、坊ちゃんがおっしゃられるように……お邸に危険が無いとも断言できかねます……しかし、だからと言って坊ちゃんから離れる訳にも……う~ん」
俺の身辺を警護するように、親父がウルベルトに厳命していたようだ。
ウルベルトを納得させる材料がいるな。
「ウルベルト」
「はい……」
「傍にいるだけが護衛じゃないよ?」
「……と、申されますと?」
「勝敗は戦う前から決まっているもんだよ。僕とメアリーが留守にしてる間、情報収拾をしてほしい。その情報が僕を守ることにも繋がるんだよ」
言葉にしてみて我ながら説得の材料には妙案だと思った。
今は黒幕もハッキリとは見えてこない。
見えない敵には策も講じようがないのだ。
ならば情報を集めることが最優先である。
牢獄に繋がれてる清家と間宮の様子も気になるしな。
それら一連のことを伝えるとウルベルトは納得してくれた。
「よっし! 出発しようか!」
メアリーが明るく「はい」と、頷いた。
「では、港で定期便の馬車を探しましょう」
「馬車は必要ないよ?」
「え、歩いて行かれるのですか?」
「いいや、飛んでいく」
メアリーとウルベルトが首をかしげる。
お忍びだし王宮ご用達の馬車は使えない。最初から使う気もなかったのだが。
「メアリー、僕の後ろから腕を回してくれないか?」
「こ、こんな感じですか?」
少女が後ろから子どもに抱きついているような絵になった。
そして脳裏に風魔術の術式を思い描く。
「しっかり掴まっててね! 飛ぶよっ!」
「と、とぶっ? で、ございますか?」
「ああ、空を飛ぶんだよ。じゃあ、ウルベルト後はよろしく頼んだよ!」
「はっ! お任せください坊ちゃん!」
メアリーが恐がらないように、俺はゆっくりと大地を蹴った。
ふわりと身体を上昇させていく。
メアリーの足が地面から離れ、俺を掴む手にぎゅっと力が籠る。
「ル、ルーシェ様……う、浮いてますよ!」
「な、なんとっ!」
二人とも驚いている。空中に浮いてるんだもんな。
「ゴホンっ!」
ウルベルトが真っ赤に頬を染め、咳払いした。
あっ! こんにゃろう!
瞬時に理解した。
メアリーのスカートの中を覗き見たに違いない。
戻ったらこいつはクビだ。なんちゃってな。
そして俺は無限に感じる魔力を解放。
街が一望できる高さまで上昇した。
こりゃあ……お忍びどころか目立ってしまったかな。
俺達の存在に気がついた街の人々が、空を見上げ驚きの声をあげた。
「す、凄いです! 凄すぎます! ルーシェ様ぁ!」
「そ、そうかな?」
「はい! メアリーは……様が……だい……好き♡」
風切り音で語尾が良く聞き取れなかった。
「最後なんて言ったの? 何が好きって?」
「いいえー! びっくりなのです!」
メアリーは恐がるどころか、興奮し大喜びのようだ。空に浮く魔術師は他にもいるらしいが、持続的に長時間浮いていられる魔術師の話は聞いたことがないらしい。
「ルーシェ様! 竜王様のお城はあっちの方角です!」
俺の肩のところにはメアリーの顔がある。
甘酸っぱい気持ちが込み上げてきて、とてもいい気分だ。
メアリーの豊満な胸の感触も伝わってくる。
俺達は青空の中、雲を突き抜けるように空を飛んだ。




