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第二十一話「精霊使い」

※改稿済み(2017/4/2)

 郷田とシャーロットが対峙した。


 郷田は鋭い眼光でシャーロットを睨みつけるが、シャーロットの目は笑っている。


「あなた程度の実力では私に勝つことは到底無理よ。戦わなくてもわかりますわ」

「な、にゃにおー!」


 さすが伝説の六英雄の一人だ。その佇まいは流麗かつ威風堂々としている。

 千年ほど前に魔神戦争があった。その魔神戦争時代から生き残っている六英雄、最後の一人なのだ。精霊魔法と細剣を巧みに操り戦ったとされている。


 郷田の武器は鉄の塊だ。それは長く太い重厚な両手剣である。


 武器の破壊力は断然、郷田の方に分があるだろう。


 そして、火ぶたが切られた。郷田が猛突進し、シャーロットに大剣を振るう。

 しかし華奢で身軽なシャーロットはステップを踏み、軽々と郷田の猛攻撃を避けていく。


「くっそ! ちょろちょと逃げ回りやがって!」


 そう伝説の六英雄なのだ。召喚されて二週間ほどしか修行してない郷田に、シャーロットの動きを捉えられるはずがない。シャーロットの細身の剣は、着実に郷田の身体に傷を与え、ヤツの体力を徐々に奪っていく。


 シャーロットが負ける気がしない。ほっとしていたら隣にフィルが来ていた。

 そしてフィルが恥ずかしそうに顔を染め、小さな声で呟く。


「ルーシェリア、僕……本当は少しばかり恐かったんだ……」


 彼はそう告白した。次期国王としての英才教育を受けているとはいえ、10歳の少年なのだ。それに対し、相手の体格は高校生。恐くて当たり前だ。俺のように無駄に29年間の経験がある訳じゃないからな。


「ルーシェリアは僕のことが情けないと思ったか?」


 気にしているようだ。


「そんなことないよ。フィルは誰よりも勇敢だよ」

「そ、そかな? ルーシェリアに言われても褒められてるような気がしないな……」


 フィルはしゅんとした。

 彼はきっと俺に対し劣等感を抱いているんだろうな。フィルは年上だけど、俺の方が目立ってるみたいだし……弟に負けたくないってのが彼の口癖らしい。困った。


 すると、メアリーがしゅんと落ち込んでいるフィルに励ましの言葉をかけた。


「フィリップ王子、とても御立派でしたよ。でも、もう今後は無茶してはいけませんよ。後はシャーロットさんに、お任せしましょうね」

「う、うん……」


 国王のエイブラハムも安堵しているようだ。このままシャーロットがケリをつけてくれるだろう。


 それにしても周囲に巻き上がる砂埃が酷い。郷田が大地を穿つ度に砂埃を巻き上げているのだ。口に入った砂埃をぺっぺっと吐きつつ戦いの方に視線を戻すと、少々不安になってきた。


 郷田が大剣で叩きつけた大地は衝撃で、無残にもクレーターのように抉れてゆくのだ。

 ――――凄まじい剛腕。

 

 あんな膂力ある攻撃を一撃でも受けたら、シャーロットに限らず誰でも重傷を負いかねない。

 そう考えると心配になる。でも伝説の人なのだ。負けるわけがないよな。


「うおおおおおお! 当たりさえ、当たりさえすれば!!!」


 郷田が叫ぶ。それに対し、シャーロットが余裕の笑みで、


「もう勝負はついてるんじゃなくって?」

「ぶ、ぶっ殺してやる!」


 郷田は顔を真っ赤にし、がむしゃらに大剣を縦横無尽に振り回す。

 その姿はまさに鬼神だ。怒りの精霊が憑依した狂戦士のようだ。


 でも、シャーロットには掠りもしないしな。そろそろ終わりそうだな。


 郷田は苦しそうに「はあはあ」と、肩で息をしている。圧倒的な実力差だ。


 それでも郷田の闘争心は凄まじい。その眼光に衰えは感じない。が、しかし――――

 郷田の鎧はボロボロだ。地肌が露出し、出血も酷い。


 ――――勝負あったな。


 それでも郷田は剣を振るう。その郷田の潜在能力は魔王級との噂もあった。

 だが、技量がまったく追いついていない。


 そろそろ決着がつく。そう思った。

 ――その時、だ。



 シャーロットが剣で何かを払いのけた。石だ。誰かが石を投げたのだ。

 郷田はその一瞬の隙を見逃さなかった。

 シャーロットは咄嗟に郷田の大剣を細身の剣で受けとめた。


 ――――パキーン!

 

 シャーロットの剣の刀身が折れ、弾け飛んだ。その刀身は手裏剣のように宙を舞い地面にぶすっと突き刺さる。


 骨山だ。骨山が石を投げたんだ。しかもシャーロットは今の攻撃で、少しばかり傷を負ってしまったようだ。彼女が押さえる肩に血が滴っていた。


 シャーロットは「ちっ」と、舌打ちし骨山を睨む。骨山はわなわなと震え、尻もちをついた。シャーロットは折れた細身の剣を投げ捨て、郷田と瞬時に距離を取る。その時、郷田の大剣がシャーロットの髪をほんの少し掠めた。


 旗色が悪くなってきた。しかもシャーロットに武器が無い。


 ……あ、あの野郎っ! 骨山の野郎! 卑怯な真似しやがって…………。

 

「形勢逆転だな。負けを認めろ! 奴隷として可愛がってやるぜ!」


 郷田が勝ち誇った。大剣をシャーロットに突き出し、笑いだした。

 

「約束は守ってもらうからな。エルフのお姉様よ」


 しかし、シャーロットの双眸は笑っていた。負傷した肩の痛みに堪えながらも、シャーロットの瞳は輝きを増していた。


「もう勝った気でいるの? 甘いわよ」


 シャーロットが突如、奏でるように調律を紡ぐ。それは呪文というよりも歌である。

 華美な音色に純真な声音。歌姫だ。その歌声を聴いていると、戦いを忘れ去りそうな想いに駆られた。

 

 にょきにょきと、樹の根が地面から生え出してきた。樹の根が郷田の全身に絡みつく。


「く、くっそ! ふざけやがってっ!」

「もがけばもがくほど絡みつくわよ。もう負けを認めなさい!」


 フィルは安心したように表情を、ほころばせ自慢げに語る。


「師匠は精霊使い。あれは樹木の精霊ドリアードの力さ」


 魔術書『黄金の夜明け』にも精霊魔法の記述はあった。精霊魔法は術を行使している間中、常に言葉を紡ぎ、精霊と心を通わせなくてはならない。精霊に最も近い妖精族であるエルフの専売特許ともいえる魔法である。

 

 樹木の根は容赦なく郷田の全身を締め上げ、郷田は手に持つ大剣をついに手放した。

 その表情は苦痛で歪んでいた。

 

 完全に勝負あった。国王の表情に喜びの色が感じられ、ほっとしているご様子だ。

 

「さあ、降伏し負けを認めなさい!」

「ふ、ふざけるな……こんなもの、こんなもの……」

「もう、しょうがないわね……」

「うぎゃああああああ! い、痛い痛い痛い、し……死ぬ……た、助け……」


 シメオンが膝を付き、悔しがっていた。しかしオースティン公爵と、ヴィンセント王子の両名は、気を抜くことなくその様子を、窺っている。


「ご、郷田くん……ど、どうしたらいいの? 郷田君が死んじゃうよ!」


 骨山が泣きそうな声をあげ、清家と間宮を交互に見た。

 間宮は諦めたように、蹲るシメオン司祭のところへと駆け寄った。

 清家は呆然とし、瞳に涙を浮かべるだけだ。


 郷田の意識はもうすぐ堕ちるだろう。シャーロットが忠告したにも関わらず、郷田は最後の最後まで負けを認めなかった。


 フィルもメアリーもウルベルトも勝利を確信し、肩の力が抜け安堵しているようだ。


 これで終わる。金髪野郎はこの世界から永久追放されるのだ。


 あばよ、郷田。


 そう心の中で呟いた、その時だ。



 俺はある異変を瞬時に感じ取った。



 ――――こいつらはどこまで卑劣で卑怯なのだろうか。


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