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第二話「もしかして異世界?」

※改稿済み(2017/3/25)

 目覚めると亜麻色髪の少女が俺をのぞき込んでいた。

 琥珀色の瞳がきらきらと輝いてる。可愛らしい少女だ。

 7,8歳ぐらいな気がする。

 

 少女は花が咲いたような笑顔を見せると、誰かを呼ぶように声を張った。


「メアリー! ルーくんが、ルーくんが目を覚ましたよ!」


 ――――メアリー? ルーくん? 

 知らない名だ。まったく思考が追いつかない。

 

「マリー、本当ですかっ!」

「うん!」


 喜びに満ちた声とともにもう一人、違う少女が俺をのぞき見る。

 その少女は口をへの字にしつつ、瞳を涙で濡らしていた。

 どうして彼女は泣いているのだろうか。


「よ、良かった……本当に良かった。嬉しい……」

 

 その子は涙目のまま、やんわりと微笑んだ。


 ひょっとして、この子がメアリーって子なのかな?


 最初の少女と同じ髪色なのだが、こちらの少女はとてつもない美少女で、歳も15,6歳ぐらいだろうか? そう、高校生ぐらいのような気がする。


 肌も透き通るように白く、キモオタが好みそうなゴシック系の衣装。

 いやいや、メイド服を着用している。でも何故? さっぱり状況が掴めないぞ?


 しかも俺を見てもイヤな顔をせずに笑顔でにっこりと微笑みかけてくれる。

 俺は死んだのではなかったのか? 彼女は天使? ……ここは天国なの?

 

「マリー、今すぐ旦那様と奥方様に知らせてきてください!」

「は~いっ!」


 元気良く返事した少女がマリーで、メイド服を着用している子が、メアリーという名のようである。

 マリーは、にぱとっ微笑むと、とたとたと部屋のドアを開け出ていった。


 その様子を意味もわからず俺は目で追う。

 天国かなって思ってみたものの、どうやらそうじゃない気がしてきた。

 ……本当に何がどうなっているんだ?


 ――――助かった? ……ってことなのか?


 俺はベッドに寝かされているのか?


 たしか激突したのはトラックだ。

 撥ねられた反動で顔面を地面に激しく打ちつけた。

 イヤな予感が脳裏を掠める。

 深く考えず、もう一度死にたいと激しく思った。

 きっと俺の身体は全身不随で顔は包帯でぐるぐる巻きなのだ。

 だから彼女達は俺を見てもイヤな顔をしない。


 身体の部位もどこか欠損しているかもしれない。

 その状態で生かされるのはある意味拷問だ。

 疑う余地もなく俺はそう思った。

 

 ところが両手両足に力を込めてみると、感覚がある。

 痛みもない。

 

 恐る恐る顔にも触れてみる。

 包帯も巻かれてなく怪我をしてるような様子もない。


 最悪の結果だけは回避してるようで、少しばかりほっとした。

 若干、気持ちに余裕がでてきたが、意味のわからない状況に思考はまったく追いつてくれないが。

 

 でも、目の前に優しい笑みを浮かべる美少女がいる現実。

 こんな美少女がなんで俺の目の前にいるの?


 昔、告白し土下座された子よりも遙かに可愛い。

 おのずと興味がわいた。


「君は……誰なの?」

「ルーシェ様、お忘れなのですか? メアリーですよ」

「……メアリー?」

「まさか……お記憶を?」


 明るかったメアリーの表情が陰りはじめ、深刻な表情に刻々と変化してゆく。


 ……そうだった……俺は究極のブサメンなのだ。

 きっと彼女の頭の中は嫌悪感でいっぱいなのだろう。


 悲しいことに俺は次の展開を予測し、覚悟を決めた。

 恐らく魔物でも見るかのような不快な表情に変化する。

 ところが、メアリーの態度は豹変しなかった。


「ルーシェ様、メアリーですよ? 本当に覚えてないのですか?」


 メアリーは心配そうな表情を浮かべると、俺のおでこに手をそっと添えた。


「お熱はもう完全に下がってると思えるのですが……」


 彼女から悲しみの色が感じられた。

 ひょっとして本気で俺のことを心配してくれてるのだろうか?

 ブサメンの俺がこんな美少女に心配されるなんて、まるで夢のようだ。


 甘い香りがする。女の子特有の包容力が感じられる優しい香り。

 なんだか懐かしくも感じた。

 

「ルーシェ様、メアリーのことがわからないのですか?」


 メアリーはずっと涙目だ。返事をしてあげたいが状況が呑みこめないのだ。

 彼女は繰り返し「ルーシェ様」と、俺の知らない名を繰り返す。

 

 できることならば、俺はその「ルーシェ様」と、呼ばれている人物に成り変わりたいものだ。


 でも……その羨ましい人物は誰なのだろうか? ……疑問に思った俺は、それとなく小さく呟いた。

 

「……ルーシェ? ……って……誰なの?」

「ルーシェ様……」


 彼女は困惑するだけだ。普通に考えればその「ルーシェ」たる人物は俺なのだろうが、残念ながら俺の名はそんな名では無い。


「……ルーシェ様は二週間も目覚めなかったのです。記憶が混濁してるのでしょう。でも心配いりませんよ。きっとルーシェ様は元気になられます」


 俺は二週間も眠っていたのか……。いやまて、彼女はルーシェという人物の名を呼んでいるのであって俺では無い。そう俺はお呼びじゃない。だが、この場の空気は彼女の勘違いというムードでもない。

 

 トラックに轢かれた日までの記憶はある。だから記憶喪失ではないという確固たる自信もある。俺は俺だ。その自覚はある。


 ――――しかし……ここは何処なんだ?


 それとなく首を動かして部屋の様子を窺って見た。

 落ち着いた雰囲気が漂う木造の家のようだ。部屋を飾る装飾品の品々に高級感がある。

 まるで中世ヨーロッパ貴族のお邸のような感じだ。

 石造りの大きな暖炉もあるし、つがいのダチョウが王冠を掲げたような紋章が描かれた壁掛まである。

 

 明らかに病院ではない。

 

 それに……そう……言葉だ。彼女達の言語は日本語ではない。それは英語でも広東語でもないのだ。しかし、俺は自然と理解できる。



 ひょっとして異世界だったりして?



 ラノベやネット小説で良くある展開だ。トラックに轢かれ女神様と遭遇し、チートを授かったりする展開のアレだ。しかしそれは、あくまで創作であり、現実に起こり得るようなことではない。


 そもそも女神様と遭遇した記憶は一切ないのだから。


 異世界転生だとか異世界転移などという、安易な妄想は避けた方が無難だろう。


 とは思いつつも、この部屋に高度な文明らしき物が見当たらない。

 パソコンはともかくテレビすら見当たらないのだ。


 考えを巡らせている間も、メアリーがずっと心配そうに俺を見つめている。

 

 なんだか照れくさく、小鼻を掻いた。


 その時、視界に入ったものを見た俺は、この身に起こった異変に気がついた。


 これって誰の手なの? まさかと思うけど俺の手?


 小さい……まるで子どもの手だ。

 さっきは動揺していた為、気がつかなかった。


 さらに全身を確かめてみると、何もかもが小さい気がする。大事なものまで……。 


 でも赤ん坊ではない。全体的に身体が縮んでいるのだ。

 

 そう……7歳児か8歳児ぐらいの身体のような気がする。


 仮に転生したと考えたら、赤ちゃんからだよね?

 転移ならそのままだよね?

 なのにどうして、俺はこんな中途半端な成長を遂げているんだ?

 ――――別の何かなのか?

 

「ルーシェ様、何か思いだされたのですか? 驚いたように手のひらなんか見て?」

「あ、うん……ちょ、ちょっと……頭が混乱してて……」


 発声もだ……明らかに子どもの声になっている。

 また、どう考えても「ルーシェ」とは、俺のことのようだ。

 

 俺は別人になったのか? 誰かの身体に乗り移ったパターンなのか?

 で、でも……そうじゃない。断言できる。


 この手だ。この手相は子どもの頃より見慣れている。

 けして他人のものじゃない。人差し指の付け根にあるホクロまで、ちゃんとあるのだ。


 やはり転生した訳じゃないのか? でも、想像の及ばない何かが起きている。

 

 確実に言えること。それは間違いなく若返っているということだ。


 神の悪戯なのか? 俺は再度、部屋の様子を窺う。


 床には高級そうな真紅の絨毯が敷かれており、テーブルの上にある燭台の炎が部屋を明るく照らしている。やはりパソコンどころか電気すらなさそうな世界だ。


 部屋を窺っていると、メアリーが心配そうに声をかけてきた。


「ルーシェ様、何か思い出せましたか?」

「うん、ごめん……やっぱりわからない」


 俺はそう呟き、彼女の視線から目を逸らした。


 ブサメンなのだ。子どもの頃は若干マシだったかもしれないが、俺の顔は成長につれて酷く変貌を遂げてゆく。気が引けて彼女の顔を直視できないのだ。


 ラノベのように異世界転生し、容姿も別人になっているならまだしも、酷いことにこの身体は幼少の頃の俺の身体なのだ。


 これからまた辛い日々の繰り返しになるだけだ。これだと若返っていても悲しみしか生まれない。


 何か奇跡が起こったのなら、チートはともかく見た目ぐらいは変えてほしかった。仮に女神様の仕業だとしたらあまりにも残酷じゃないか。俺はショックを受けるしかなかった。また辛い日々の繰り返しなのかと。


 知らぬ間に俺は涙を流していた。耳の穴に涙が流れ込んでくる。

 その涙をメアリーがハンカチで優しく拭ってくれた。

 

 この子はどうしてこんなにも優しくしてくれるのだろうか? 俺は……もう傷つきたくないよ?

 だからもう変な期待は抱かない。意識を失っていたのなら、目覚めなければよかったのに……。


「ルーシェ様……もう泣かないのです。このまま目が覚めないのかと、ずっとずっと心配してたんですよ。もう大丈夫です。ルーシェ様は元気になります。喉が渇いていませんか? 何かお飲み物をお持ちしますね」


 椅子から腰を浮かせたメアリーの手を俺は咄嗟に掴んだ。無我夢中で彼女の手をぎゅっと握りしめた。


 どこにも行ってほしくなかった。ここに居てほしかったのだ。

 でも……その直後――――俺は激しく後悔した。


 過去の苦い記憶が鮮明に蘇る。土下座される……嫌悪感いっぱいの侮蔑の眼差しを向けられる。そして……彼女は逃げるようにこの場を立ち去るのだ。


 ところが……握ったメアリーの手に力がこもった。彼女も俺の手を強く握りしめ離さなかった……どうして? 見つめると彼女はそのまま俺を引き寄せ、ぎゅっと力強く抱きしめてくれた。


「ルーシェ様。もう大丈夫です。シメオン様も目覚めさえすれば時期に元気になるとおっしゃってました。ずっとずっとメアリーは心配で胸が張り裂けそうな想いでした」

  

 俺の頭は彼女の胸に埋もれ、彼女の亜麻色の髪から良い香りが漂ってくる。

 夢じゃないよね? 見上げると彼女は優しく微笑んでくれていた。


 メアリーは俺のことがキモくないのだろうか? 

 

 俺は小学生の頃から執拗にイジメられてきた。幼少期だからといって可愛い容姿をしてる訳でもない。若干マシなだけだ。


 石を投げられることもあった。その程度のことはまだ生ぬるいことだった。

 酷い時は犬の糞を顔に擦り付けられゴブリンだのオークだのとバカにされた。


 メアリーに抱擁されながら、俺は過去の幼少時代から続いた地獄の日々を思いだし、そのギャップに困惑し、不思議な気分に陥った。

 


 夢なら覚めないでほしい。



 俺はそう願いつつメアリーに甘えるのだった。





この作品は初めて書いた作品で初めてなろうに投稿した作品でもあります。

ですので、当初と文体も随分と変わったと思い書き直してる感じです。

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