↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/110

第十一話「空白の7年間の記憶・前編」

※改稿済み(2017/3/29)

 召喚勇者の称号授与式は昼前に終わった。自室に戻って来た俺は部屋でメアリーとのんびりしていた。彼女がほっとな紅茶を入れてくれたので、一緒に愉しんでいるのだ。


「美味しいね、この紅茶」

「はい、その紅茶は南方の砂漠の国、カシュナール王国から奥様が特別に取り寄せたものなんですよ」

「へ~そうなんだ」


 ミッドガル王国から海を挟んで、西にかつての栄華を極めたファリアス帝国があり、南の海を渡ればカシュナール王国。遙か東には神聖王国ヴァンミリオンがあるようだ。


 まぁそこは置いとくとして、未来で俺や俺の家族を殺しに来るかもしれない召喚勇者の顔ぶれを見てきた。彼らの身体能力や魔力は異常に高いと評判で、魔大陸を支配する魔王に匹敵するらしいのだ。

 ただ、彼らには実戦経験がない為、実際に魔王や闇の者達と戦うにはまだまだ準備不足のようだが、将来俺の脅威になり得るのは容易に想像できた。


 これから一年間、召喚勇者達はミッドガル王国のアリスティア神殿で法王庁の指導の元、実践を交えた訓練をしていくようなのだ。魔逢星襲来に備えて。


 魔逢星とは千年に一度の周期で大接近する彗星のようで、その時、邪神が地上に降臨すると叙事詩などで伝承されているのだ。

 また、邪神が地上に降臨すると闇の因子を持つ種族は、その邪神の支配下に置かれるという。邪神の力は絶大で、魔大陸を統治する魔王ですら抗えないという話のようだ。


 つまり召喚勇者達は、邪神に挑む光因子の勇者として、異世界より召喚されたらしいのだ。ミッドガル王国を建国した初代の英雄王も異世界からの来訪者と伝えられている。


 それなのに未来で俺達が殺される理由とはなんだろう? 未来から来たドロシーにも分からなかったのだ。今の俺に分かるはずもない。


 召喚勇者達の顔ぶれを見ることによって、過去の記憶が偽りの記憶ではないということは再認識できたのだが――――そもそも俺自身は何者なんだ? 


 この身体の7歳までの記憶がない。もしかしたらその空白の記憶の中に、何かしらのヒントがあるのかもしれないのだ。


 そう空白の7年間の記憶――――それを知る者。

 それは目の前で紅茶を啜っている彼女だ。


「メアリー、ちょっと聞きにくいことがあるんだけど……」

「え? なんですか?」

「実は……僕の記憶の事なんだけど、ところどころ抜け落ちてる気がするんだ」


 メアリーはハッとし、すぐさま複雑な表情を見せた。


「もしかしたらと思ってたのです……で、どの辺りの記憶が曖昧なのでしょうか?」

「……ん~ん」


 少し間を置いて、俺は全部だとメアリーに伝えた。


「え? ぜ、全部なのですか?」

「う、うん……最初から全部って言ったらメアリーがびっくりすると思って……」

「で、ですね……ですけど……念のために確認しますがルーシェ様。それは物心ついてからつい最近まで記憶が一切ないということなのですか?」

「うん、目覚めた後、全部忘れちゃってたよ……だから凄く戸惑った……」


 メアリーは絶句した後、深呼吸し、胸に手を当てた。


「ルーシェ様、私の名前や奥様のお名前、覚えていらしゃいましたよね?」

「いや何と言うか……会話の節々で皆の名前は出ていたし……そこは何となく分かったんだ。本当は誰にも話さない方がいいと思ったんだけど……僕は僕自身の過去が知りたくて……」

「と、とうぜんです……で、でも、どうしたことでしょ! やはり高熱のため? いえいえ、旦那様と奥様に直ぐにでもご報告しなければ」

「父君と母君には心配かけたくない。メアリーにだけ話したんだ。内緒にしておいてくれないかな?」


 そう言って俺はメアリーに真剣な眼差しを向けた。


「わ、わかりました……ルーシェ様のお願いですもん。内緒にしますよ」

「ほんと?」

「はい、もちろんですよ」


 そう言ってメアリーはにっこり微笑んでくれた。良かった。親父達が知ると色々と面倒なことになりそうだし、母親のエミリーが知ったらショックで寝込んでしまいそうだからだ。


「で、メアリーは僕のこと、どれぐらい前から知ってるんだい?」

「えっと、私がこのお邸で働きはじめたのは、ルーシェ様が生まれる一週間前からですので、ルーシェ様のことは生まれた日より知ってますよ」


 そうか……そうなのか。それは心強い。


「ちなみに……メアリーって何歳なの?」

「私は16ですよ」

「って……ことは……メアリーは9歳の頃からここに住んでるんだね?」

「ええ、そうですね」


 メアリーは昔を思い出したのか、懐かしむように、目を細めた。


「僕ってさ……エミリーの子どもなんだよね?」

「も、もちろんですよ!」


 エミリーから生まれたのは間違いないようだ。でも……この身体の身体的特徴のほとんどは、前の母さんが生んでくれた身体のまんまなんだよな……。マジでどうなってるんだ?

 いやいや、まずは空白の7年間の記憶を知ることが先決だ。


「僕が生まれた日から、今日までどんな人生を歩んで来たのか話してくれないかな?」

「はい、わかりました。生まれた日から順を追ってお話しますね」

「うん、頼むよ」

「ルーシェ様はこのお邸で、お生まれになりました。それはもうこの世のものとは思えないほど可愛い赤ちゃんだったんですよ」


 ほうほう……俺は可愛い赤ちゃんか。


「……ただ」

「……ただ?」

「ルーシェ様は……赤ちゃんの頃よりスケベでした……」

「え? 赤ちゃんの頃から? スケベ? なにそれ?」

「……私がルーシェ様をあやしますと、胸を……もみもみするのです。しかも、私の胸に吸いつきたいって駄々をこねるんです……乳だってでないのに……あ、申し訳ありません。私ったらなんて失言を……不敬なこと言ってごめんなさい……」


 メアリーは頬を染め、俺も恥ずかしくなった。なぜなら……過去の記憶がその頃からあったらやりかねないからだ……。

 

「と、とりあえず赤ちゃんの頃のことはだいたい分かったよ。それからの僕はどう成長したんだい?」

「はい、ルーシェ様はとても利発な子でした。1歳の頃には読み書きができるようになってました。私も含めご両親もたいそうびっくりされてましたよ。この部屋は私の部屋と旦那様の書斎を左右に挟んでるのですが、ルーシェ様は私が読み聞かせる絵本では飽き足らず、自ら旦那様の書斎にある魔術書を読み漁っておいででした」


 まじか異常なまでの天才児ではないか……いや……ちょっと違うかな……。

 でも、俺は幼少のころから魔術に興味を示したってことなんだな。


 国王の息子が俺のことを魔術師と言っていた。


 真実味を帯びてきた。はやり俺は魔術師なんだ。

 そして、メアリーが俺の心の扉を開く鍵のような気がした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。