娘、驚愕する
一行はあっという間に、目的地・死の島へと辿り着いた。
やたらめったらハイテンションの魔女が、にゃーちゃんとぴょんくんを急かして、文字通り高速(最高記録更新)で飛ばさせたからである。
そうして到着した時刻とはいうと、まだ出発して半時間も経過していなかった。
そのため、犠牲者が前回以上に犠牲になっていた。 まず、犠牲者其の一は神官であった。
「うーふーふー……ついたわヨー……」
神官の結わずに流された髪は、上空の風により乱れに乱れ、何筋かお口に挟まってしまっていた。普段ならすぐに直しそうなものなのに、神官はそうしなかった。
「おや、大丈夫ですか?」
狩人の問いかけに、神官は土気色の顔を狩人に向けた。
「これが大丈夫に見えるのかよ、えぇ? 見えないわよねェ」
神官はお空の高さの恐怖からか、既にキャラ崩壊に陥っていた。
ドラゴンのにゃーちゃんの時は、自らすすんで気絶をすることで(気絶できるのが神官のたしなみだとか)、お空の高さの恐怖を回避し事なきを得ていたのである。
しかし、今回は迂闊にも気絶をすることを忘れてしまったのである。そうして神官にとって恐怖のお散歩の時間となった。結果はご覧の通りである。
「今じゃあ、あの二人にやったみたいなクスリなんざ受け付けはしねぇのよォアタシィ」
神官は既に男女の言葉が混ざり始めていた。ちなみに声の使い分けはきちんとしているので、あっぱれとしかいいようがなかった。
「困りましたねぇ」
狩人は腕を組んで溜め息を吐いた。ううむと唸り、メンバーを見やる。
―――犠牲者其の二、其の三はもちろん(常連犠牲者の)テス並びに盗賊であった。顔を猫のように洗うにゃーちゃんの背に、二人仲良くもたれかかっていた。
テスは口から魂を半分ほど飛ばしており、白目をむいていた。盗賊も似たようなものだが、ただ一点だけ違った――どことなく恍惚としているのだ。
「彼らもダメですね」
そして最後に、狩人は魔女を見た。
「ぐふふふ」
魔女を見た狩人は思わず視線を逸らした。見なかったことにしようと狩人は固く固く誓った。残してきた家族に危害が及ばないためにも、見なかった振りを決め込んだ。
「………」
魔女はぶつぶつと――神官にピーしてピーをピーしてとか呟きながら、爛々と光る欲望に満ちた目で、手を異様な動きをさせながら神官のピーを見つめていたなんて。
幼い十代前半の少女の容姿だったから、狩人はなおさら見なかったことにしたのだった。
―――唯一まともに治療術を使える魔女がそんなんだったので、一行は体力が回復できるまで身動きが取れなかったのである。
「がふっ」
余談ではあるが、島にいるはずの狂暴な魔物たちは、にゃーちゃん(ブラックドラゴン、オス3歳)とぴょんくん(ペガサス、オス2歳)の一睨みで近付けなかった。決して、魔女が得体が知れずに怖かったからではない―――と追記しておこう。
「むー………」
討伐隊ご一行が自業自得(?)なことで足止めをくらっていた頃、彼らの討伐対象といえば浅い眠りから目覚めたところだった。まだ寝たばかりなのに、なかなか寝付けないのだ。中途半端に眠っていた思考回路は、普段の半分しか機能していなかった。
「むー……?」
ふかふかの布団の上で、小人社製の抱き枕にしがみついていたアステリアは違和感を覚えていた。
小人社は、抱き枕の中に詰める羽に、各地で人里へ降りてきては討伐された魔鳥の羽を採用している。魔物である魔鳥はそうそう人里へ降りてこないので、常に一定の供給がなされていない流通数が限られた一品である。アステリアは何ヵ月も前に予約してようやく手に入れたのだ。魔鳥は例外なくふかふかの羽なので、違和感など抱くはずがない。
「むー……」
アステリアは寝惚け眼を擦りながら首を傾げた。なら何に違和感を感じたというのか。引っ越したからか?
否、違うだろう。存在する場所は違えど、スキルで作成したダンジョンを移し変えただけだから、ダンジョンの中身は一緒、今まで通りなのだから。
目をこすり終えて、伸びをしたアステリアはようやく違和感の招待に気付き、一気に目が覚め、思考が澄み渡る。
「むー………っ?!」
髪が、生えていた。視界にチラチラと映る赤い糸――否、長い深紅の直毛は明らかに黒い牛の毛並みではない。ヒトガタの毛だ。もっといえば、この色と真っ直ぐな髪質は母のそれと同じである。
「か、み……」
毛ではなく、髪だ。さらさらの髪だ。かなり長く、毛先は腰辺りにある。眠る前は牛の毛だったのに、起きたら髪ができていた。そんなアホな。
「鏡!」
少しずつ焦り始めたアステリアは、寝台から落ちそうになりながらも、どうにか壁に立て掛けた姿見の前まで移動した。
そして、映りこむ己の姿に絶句する。
「誰、これ」
―――全身を映す姿見の中には、深紅の豊かなストレートヘアをした妙齢の美女がいた。
「嘘ぉおお!!」
ダンジョン内に、アステリアの悲鳴が響いたのはいうまでもない。




