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千里眼と英雄、英雄(仮)―4


「何っで、意味ないのぉ……」


 ダンジョン内部の自室にて、アステリアは項垂れていた。

 何とも表現しがたいやるせなさ、悔しさ、悔しさ、悔しさ――アステリアは寝台にダイブした。

 うつ伏せになったアステリアは、寝台に顔を埋めながら、叫び出したい衝動が込み上げてくるのを感じていた。

 先程行ったダンジョンの変化は、ハイリスク、ハイリターンすぎるものだった。そのために、アステリアはキリキリと痛む胃に堪えていたというのに……現実はあまりにも、アステリアに優しくなかった。

 ニンゲンも、神も、モンスター族の気配を帯びたニンゲンも、あの変化後の階層を見事にスルーした。被害にあっているのは、ターリアが設置したモンスターだけというのはこれいかに。

 アステリアが打った手は見事に失敗した。赤字だ。

 同時に、失敗すればもう打つ手は切り札しか残されていないということになる。失敗は許されないというのに、だ。

 本当に、現実というものはアステリアに以下略。


「何でよぉ……」


 顔をあげたアステリアの顔は、真っ赤に染まり怒気もあらわだった。

 その真紅の唇から、咆哮が放たれた。言葉にもならない、ただただ感情がむき出しになった叫びだ。



「あたしは別にニンゲンには迷惑などかけていないのにぃいいい!?」


 そしてその叫びのあとに、アステリアは本日もう何度目か最早わからない悲鳴をあげたのだった。





「随分たァ、頑丈に拵えてあるモンだァネェ?」


 にたり、と半魔は人の――元・人か――悪い笑みを浮かべた。彼女は、出会い頭に雷撃をぶっ放したあと、さらに何発も雷撃を神官の球状結界にぶち込んでいく。

 ――現在進行形で。


(何て出力してやがんだよ!?)


 一人百戦と謳われ、恐れられ、実力ならばかなりの上位に入っているはずの神官でさえ、顔面真っ青になるくらいのヤバかった。何がヤバいかって、半魔の実力とこの球状結界の耐久性が、だ。

 神官は現在、球状結界を維持するだけで精一杯だった。一人百戦の実力者の神官が、だ。たった一人でオーガの五千匹くらいの団体を十分で殲滅した神官が、一匹でみっつくらいの小国なら破壊できるドラゴンの群れ(六頭くらい)も一時間で殲滅した神官が、である。

 ――下手したら、神官初めての大ピンチである。小さなピンチなら幾つか体験済みではあるが、こんな可笑しいレベルの大ピンチなど……本当に、未経験かもしれない。

 だって、神官は状況の打開策が全く見つかっていないのだから。

 そんな詰んだ状況の神官に、半魔は一言告げた。


「てメェが神官リウスだな?」


 それは、確認だった。

 ――何で半魔が自分の肩書きと名を知っているのか、神官は全くもって理解ができない。


「アテシはミナ。ミナ・サキョウ」


 半魔は、“ミーノース島の英雄”の名前を名乗った。そのことに、神官はフリーズした。


(半魔が、英雄?)


 “ミーノース島の英雄”は有名な、伝説と化した人物。その名を、半魔が名乗った。


「アテシに対する疑問はナァ、お偉方にでも聞くこって」


 半魔は、神官に指を突きつけた。


『――野郎に告ぐ』


 その口から出たのは、神官の知らない異国の言葉。


『クズはとっととウチに引っ込んでろ!』


 半魔はぎっと神官を睨み、四文字の言葉を放った。


『強制退場っっ!!』


 ――神官は、球状結界が破綻してすわ肥溜め行きか? と覚悟した。しかし、彼は真っ白な光に包まれ――気付けば、別の場所に転移していた。球状結界に入ったまま。


「おや、君が先に来ましたか。後は魔女殿だけですね」


 木の天井、数々の冒険譚が描かれた石造りの壁、タイルの床。

 その中心に大きな円卓が置かれ、各島のお偉方と狩人が円卓を囲んでいた。


「神官リウス、現状を説明しましょう。意味不明でしょうから」


 神官は、最早何もいえなかった――らしくもなく。





 叫んだ後、叫びすぎて疲れたアステリアは床に横たわっていた。寝台にあがる気力すら湧いてこなかった。


「え?」


 そんなアステリアの目の前で、姿見に信じがたい光景が映し出された。

 ――ニンゲンが、光に包まれて消えた。その光は、あのモンスターの気配を帯びたニンゲンが発したもの。

 ダンジョン内にそのニンゲンの気配がどこにもないと、アステリアは確かめた上で青ざめた。


「何なの、何が目的なの?」


 ――まさか味方とは思わなかったため、アステリアは自分の置かれた状況に泣き出した。


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