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千里眼と英雄、英雄(仮)―3



「うっ、わぁー……こら、降りられねぇ」


 ふよふよ浮かぶ球状の結界の中で、神官は下を見下ろして呟いた。

 トリッキーな変化を見せたダンジョンは、とてもではないが足を下ろすことができない。

 滅茶苦茶な傾斜、落とし穴、そして地を這うようにうろつく魔物たち。

 飛行タイプの蝙蝠のような魔物は、キラキラギラギラ輝く壁と天井にやられ地面へ落下、肥溜めに落ちるという悲劇にみまわれた。

 地を歩行するタイプの狼のような魔物は、傾斜のきつい坂から滑り落ち、やはり肥溜めに以下略。

 地を這うタイプのスライムのような魔物も、傾斜の以下略。

 ……なんとも、味方敵関係ない、無差別でえげつない仕様だった。

 ダンジョンの主は、配置した魔物はどうでもよいらしい。そのあたりに、神官は違和感を覚えた。魔物は侵入者対策ではないのだろうか――それこそ、この変化のトラップのように。

 魔物たちが苦しむ光景を俯瞰しつつ、神官は結界を操作し、次の階層へと進め――


「げっ」


 まさか、次の階層も同じように変化しているとは思わなかった。まさか、まさか――


「横に長く先端が尖った耳、エルフ……それにこれは」


 次の階層には、伝説のエルフに厄介な存在がひとり。

 エルフは文字どおり伝説にしか出てこないため、強さは未知数。しかし存在感のプレッシャーが半端ない。

 エルフともう一名、こちらも厄介さが半端ない。

 その厄介さとエルフのプレッシャーに、神官は思わず唾を飲んだ。

 エルフではないもう一名は、ぱっと見たところは異国の人間。しかし醸す空気は“半魔”。

 半魔、それは半分人間、半分魔に属するもの。そして別名は人間を捨てた者――。

 しかも、エルフ+半魔。半魔は人間を見限った者、もしくは魔にみいられた者がなる。

 人間であったときに世に絶望した者がなる場合が多く、また圧倒的に強い者が多い。エルフ同様半ば伝説と化した存在だ。

 神官は、一度だけ半魔を討伐した。吸血鬼の僕となり、街をひとつ滅ぼした半魔を。その半魔はかなり強く、一人百戦の異名を轟かせる神官であっても、倒すのに一日かかった存在。

 しかも、あの半魔より圧倒的に強い気配を放っていた。

 そのうえに、この二名はどうやらにじみ出ている気配を押さえているらしく、それで神官は気づくことができなかった。

 その気配のおさえかたといえば、あまりにも自然であり、狩人でさえ気づけないかもしれない。

 半魔、という存在は特殊であり、ほぼ九割で神に仕える職種のものがその討伐の任に当たる。半魔は、聖属性や光属性に弱く、そのふたつの属性を同時に仕えるものは、神に仕える職種のものが多いからだ。

 そのため、狩人のような冒険者は会ったことはおろか、存在さえ知らないだろう。そもそも半魔はあまり数も多くなく、天災のようなものなのだ。

 だからこそ――日頃から仕事柄魔の気配に敏感でさとい、巫女や神官のような神に仕える神職――それも上位のものでしか――探知できない。

 ちなみに、神官は神に仕える職種としては――個人の強さは置いておいて――中の下くらいだ。よって、すぐには探知できないのも無理はない。神に仕える職種のものの上位とかのレベルは、経験してきた年数がものをいうのだから。

 ――なので、神官はすぐに対応できなかったりした。


「どうしろっ、ってぇえおお?!」


 やたら大きい煙管に座り空に浮かぶ半魔と目があったとたんに、半魔は神官に雷撃を放った。詠唱もなく、指を一瞬すごい速度で複雑に動かしただけで。


「ぎゃあああ?!」


 神官を包む結界は強度が凄い。なので、雷撃を阻みはした。しかし、みしみしとやばそうな音をたてた。


「……オレ様、久々のピンチ?」


 ――神官、本当にピンチだった。


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