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千里眼と英雄、英雄(仮)―2



「なンッ、じャあコリャああ?!」


 変質した周囲を見て、ミナは声のあらんかぎり叫んでしまった。

 ダンジョン内部がこのように突如変質するのは、ミノタウロスの迷宮なら普通にあり得ることらしい……が、それ以上にミナが驚いたのは、変質した内容に、だった。

 見下ろした足元にある床は、豪雨が降ったあとのぬかるみのような地面になっている。さぞかしねちょねちょして動きをとられることだろう。

 しかもねちょねちょしているだけでなく、急カーブつきの、極端な角度の傾斜のアップダウンの激しい階段地形ときたものだ。

 そこへ向けて、俯瞰しているからこそ見えるものがあったのだが――階段地形には所々に肥溜めの落とし穴が散見される。


「えげつネェ……」


 ミナは苦虫を噛み潰したような顔で呻いた。誠にえげつない変化だった。


「しかも湿気つきと来たもンだ……」


 ミナは肌にまとわりつく湿気の高さに辟易した。豪雨が降る前のような濃厚な湿気は、まるでミナの故郷の雨季を連想させる。

 髪や服の布地が水気を吸って重くなり、肌に吸い付いてくるあの忌々しさが特に。

 不愉快さを隠さずに、ミナはおもいっきり顔をしかめた。ダンジョンマスターのゲオルダンデウスの娘は、よっぽど腹に据えかねているようだ。


「あはは、何だいこのフィールド! あははは! こ、肥溜めって、肥溜めって!」


 腹を抱えて笑い転げる侵入者とは真逆である。変化したダンジョンに何か笑うツボがあったらしく、ミナと合流してからの一番の笑いだった。ひぃひぃとたいへん息苦しそうである。


「おィ……何ィ笑ってンデェ……」


 下を見下ろしたミナは、眉間の溝をさらに増やし、深めた。

 変化したダンジョンの床に干渉することで、変化から逃れていたエウアーラ・ユリディークは、不機嫌さマックスのミナと正反対に、いまだに笑い続けていたのだ。


「肥溜めだけデもイヤだッてェのにィよゥ……」


 変化する前のダンジョンと同じように会話をしているミナとエウアーラ・ユリディークであるが、周囲の環境はとても「普通に会話ができる」状態の環境ではなかった。

 床の、空気の変化ではない。壁と天井の変化がそのような普通ではない状態の環境を形作っていた。


「アンタ、ヨォく平気デェいられるねーェ……」


 はあ、とミナは大きく息を吐いた。

 怒りやら不機嫌を通り越して、エウアーラ・ユリディークの常識はずれさ加減にいちいち反応しているのが馬鹿らしくなってきたのだ……それが何度目の呆れかと数えてみれば、よりいっそう馬鹿らしくなってきた。


「ンマに……、何なンだァ、こリャア……」


 ミナは周囲の壁と天井を改めて見回した。

 壁と天井は、変化前をゼロとすれば、今は百万くらいの強さの輝きを放っていた。

 とにかく無駄にきらきらだった。

 とんでもない光度の光苔が壁と天井を覆い隠すように這いつくばり、なおかつ光苔のあいだあいだに無駄に透明度の高い水晶の塊が角のように生えている。

 単独でも陽光より眩しい光苔の光の強さを、水晶がさらにとんでもないレベルに高めており、ミナやエウアーラ・ユリディーク以外の通常のレベルの冒険者さえ一発で失明するだろう強さだった。

 エウアーラ・ユリディークはそもそもありえない身体の頑強さを誇っているために、この――まるで成金貴族の宝物庫のような――ギラギラさ加減を前にしても、陽光の下のように活動できる。

 ミナはといえば、半分ニンゲンではなくなっている影響で耐性がついているうえに、もとより纏っていたある種の結界が功を奏していた。



 アステリアが全力を注いだ泥沼湿地キラキラ地獄ではあるが、アステリアにとっては悲しいことに……彼女たちには全く効果がなかった。

 彼女たちが、自分たちに変化の効果が全く意味がなかったことを証明している間にも、神官はシャボン玉のごとき結界で、着実に変化した階層を上へ上へと進んでいた。こちらもギラギラには何らかの対抗策をしているようだった。

 そしてついに、彼女たちの階層の入り口へとたどり着き――。




「何で意味ないのぉおお!?」


 ――彼らの変化した階層への対処に、アステリアは脱力しながら吠えた。


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