娘、改変する
立ち上がったアステリアは、姿見の前に仁王立ちになり、画面を切り替えた。
姿見に映し出された先は、アステリアが今いる自室であり、ダンジョンの心臓部でもある最奥部の目の前のフロアだった。
このフロアは、規格外のニンゲン他二名と、ゲオルダンデウス・アステリア親子が戦った場所である。
そして、今から行うアステリアの作戦にはかかせない場所となる。
「……しくじることは、できない」
アステリアが行おうとしていることは、ハイリスク・ハイリターンだ。代償も、その結果得る効果も大きい。同時に、失敗すればもう打つ手は切り札しか残されていない。
失敗は、許されない。 多大なプレッシャーに、アステリアの胃がギリギリと悲鳴をあげ、締め付けるような激痛が襲い、アステリアは思わず叫びだしたい衝動にかられた。
アステリアのストレスが許容量を越えようとしていた。
「だぁあ、もうう……」
我慢も、ストレスも既に限界を超えた。
アステリア生来の許容力を越えたそれらは、アステリアに焦りとさらなる
今すぐ、切り札を行使してしまいたい。けれども、行使して失敗でもしてしまえば、これからやろうとしていること以上のハイリスクが待っている。
(…………駄目よ、我慢よ、我慢よアステリア)
アステリアは、核の姿見をわしっと掴んだ。
ラビリントスキルは、ダンジョン内部を様々な内装に変化させることが可能だ。洞窟風から、雲上の世界、海中の世界、だだっ広い草原の世界、そしてニンゲンの国の王宮など、意外に何でもござれである。
ただ、それも残された魔力量による。変化させる内容によって消費する量が異なるため、アステリアのいま現在残っている量によって施す内容は限られてくる。
後先も考えずにこの死の島へ引っ越したため、魔力量が既に半分しかないのだ。魔力回復薬もあるにはあるが、神族がいるためにいまは使いたくない。
だから、アステリアはアレを迷わず選択する。
「――“千変万化”」
がっちり掴んだ姿見の枠に、きっちりと使用するだけの分を流し込み、四字熟語のキーとなる言葉を魔力を込めて発する。ちなみにこのワードはスキル保持者本人によって選択可であり、ゲオルダンデウスは“筋肉一番”だ。
キーとなる言葉を発した後、アステリアはすぐにイメージを魔力で形にして練り込む――それは生地が冷え、固まり定まるまで、熱いままのうちに捏ねてしまうのと同じだ。
アステリアは迷いもなくひとつのイメージを練りあげ、固定する。
――床は、どしゃ降りの雨が上がり、足元の地面がぬめっとねちょねちょと足に絡み付いてくる、あの嫌な感じを。
――空気は、雨が降る前の独特の湿気の高さ。肌に吸い付いてくるあの、ねっとりとまとわりつく湿潤さを。
――壁と天井は、目を開けてはいられないくらいの光量を放つ明るさの光苔の間に、キラキラとした高水準の透明さの水晶を挟んでより反射させて。
それらを、極端な角度――八十度あたりの傾斜のアップダウンの激しい階段地形を、肥溜めの落とし穴をプラスして、さらに急なカーブもおまけつきで。
「“泥沼湿地キラキラ地獄”!」
一瞬にして、彼らのいる階層上下あわせて五つくらいをその地獄に変える。
そして、極めつけは。
「――“千変万化”、“ギミック”!!」
千変万化の対象は、アステリアの部屋の前のフロア。
ここまでは、失敗はない。ここからが、特に失敗が許されない。
神族なら、あの階層を難なく越えてしまうだろう。ここのフロアに、難なく到達するだろう。
だから、このフロアをとことんギミックだらけにする。
まず、床をなくす。
次に、それを隠すための濃霧を張り巡らす。
そして、とどめにソレをアレを張り巡らす。
ソレは別にして、アレを張り巡らすのにかなり魔力を消耗する。だから、あとは魔力回復薬をギリギリまで使わないことが一番だ。
アレは、「干渉」対策だ。
「さあ、どこまでも来やがれってのよ!」
さて、吉と出るか、凶と出るか。




