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娘、眠る



「で、魔女」

「はぁいー?」

「死の島は方角どっちなのヨ」


 うるうると大きな目で美人神官を見つめる、一見すれば幼い美少女姿の魔女(年齢不詳)。先程から神官に話しかけられているというのに、どこか上の空である。神官は何度目かわからない溜め息を吐き、首を横に振った。


「狩人ォー、あんた知らなァい?」


 顔にかかる長い髪を、鬱陶しそうにかきあげながら神官は狩人に問うた。その仕種だけ見れば、先程の男言葉が想像できない。テスは本当に同一人物かと疑いたくなった。


「場所はわかるんですがね、行く手段を持たないんですよ」


 だから案内もできないんです申し訳ないと、狩人は頭を下げた。本当に申し訳なさそうである。


「はァ、もゥ」


 色気たっぷりに神官はもう一度溜め息を吐いた。


「なら仕方がないわネェ」


 ちっ、と舌打ちして神官は目を閉じた。しばらく唸り、目をかっと開く。


「魔女!」

「はいっ!?」


 神官のテノールの美声にようやく魔女が現実に戻ってきた。ように見えた。


「何でしょう……?」


 魔女は変わらず目をうるうるとさせて神官を見上げた。口調まで異なっているようだ。


「おまえ、もう一度ドラゴンを呼べ。そんでオレ様たちを運べ」


 オネェキャラからオレ様キャラに路線変更した美人神官は、うっとりと見つめてくる魔女にうっとうしそうに告げた。魔女は「はぁーい」と語尾にハートマークを付けて答えた。大きな目もハートマークでピカピカに輝いていた。

 神官はどこか疲れた表情で、片手で顔を覆ったのだった。そんな神官が「はァ、うざい」と三度溜め息を吐いたのをテスは聞いたのだった。







―――そして一行は再び空の上の旅をするはめになったのだが。


「うふふ」

「…………」


 テス、盗賊、狩人はにゃーちゃん(ブラックドラゴン、オス3歳)に運ばれているのだが、神官は違った。


「………………」


 神官は疲労に満ちた青白い顔でぐったりとしていた――馬上で。神官は、魔女の呼んだぴょんくん(ペガサス、オス2歳)に乗り、後ろから魔女に支えられていた。

 落ちないためだろう、その腕はしっかりとペガサスの首にしがみついている。下を見ないように必死に目を瞑っているために、閉じたまぶたはふるふると小刻みに震えていた。お口と耳と鼻から魂が抜け出ているような様であった。美人神官は実は、高所恐怖症だったのである。


「うふふ」


 対して、魔女は神官に抱きついてたいへん幸せそうだった。幸福感の絶頂期にいるようだった。こちらは目とお口からハートが飛び出しているようだ。

 こうして、討伐隊ご一行は死の島へと向かったのであった。うち二名が再びリバースの犠牲になったのはいうまでもない。

 







「あらまぁたいへん……」

 その頃、死の島ではアステリアの叔母がプチパニックに陥っていた。


「あらまぁ、あらまぁ」


 岩場に置かれた水晶球に写し出されているのは、眠れる美人ことアステリア、彼女の姪である。ミノタウロス族初のメスで、牛頭人身のモンスターのはずなのだが、何故か眠る姿はヒトにしか見えない――そう、何故か本来なら頭が牛のはずなのに、今は何故かヒトなのである。豊かな髪まである。しかも深紅のストレートロングである。


「姉さん義兄さんに知らせなきゃ」


 背の羽をはためかせながら、あっち行きこっち行きを繰り返していたアステリアの叔母は、ようやくその考えに思い至った。自分の屋敷に戻って伝書鳩型モンスターを魔界へ向けて放たねばならない。ちんたらと水浴びをしている場合ではなくなったのだから。


「でも変よねぇ」


 アステリアの叔母は、移動すべく水晶球を抱えて首をかしげた。


「アステリアが眠った途端に頭がヒトガタになるなんて……」


 アステリアはずっと頭が牛だった。黒く光る毛並みは美しく、赤く光る瞳はルビーのようだった。それが、どうだ。今の寝姿の頭は母親に瓜二つである――背中に羽は無いが。

 そもそも、アステリアは初の、史上初のミノタウロスのメスだ。

 何かがきっかけで、もしかしたらずっと頭がヒトガタでいられるかもしれない。ならば、彼女も別に引きこもらなくてもすむはずだ。あれだけ美しかったら、どんなモンスターの種族からも嫁にと引っ張りだこだろう――年齢なんて関係なくなるはず美しくさだ。


「でもきっかけは――あ」


 そこで、アステリアの叔母は大切なことを思い出した。


「あ、……ニンゲン忘れてた……ダンジョン内部に跋扈させる以上にちから入れなきゃ! あれだけ美人なんだから、性的な意味で襲われたらたいへん!」


 彼女は思わず両手で口を覆ってしまったため、水晶球が落ちてしまい、ぼちゃんという水音がした。続いてばきんと割れる音が水中から聞こえた。


「ああっ! わたしのお給料三ヶ月分がぁあああああ!!!」


―――その日、死の島では雇われ主の悲鳴が島中にこだましたという。






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