閑話―討伐隊の裏で
かつて眼力殺しと異名を轟かせたミノタウロスが、再び残虐非道をなすが為に、再び姿を現した――。
そんな噂がエウローパ諸島に飛び交い、広まるのはあっという間だった。
噂の出所ははっきりしてはいない。けれども、ただの噂で片付けてしまうには危険すぎる噂であった。
眼力殺しは、対峙した冒険者たちをたった一匹で相手取り、軒並み命を奪っていった危険度が計り知れない存在。かつて眼力殺しと文字通り命懸けで戦った英雄の消息を探し出している暇もない。
表向きは、英雄は行方不明、消息などわからないといわれているけれど、実際は違う。
英雄ミナ・サキョウは、眼力殺しと戦ったあと瀕死の重症を負い、生死をさ迷った。けれども、彼女はその命をモンスター族に助けられていたのだ。若い女性の生気を夢の中で奪うとされるモンスター、インキュバスに。
インキュバスに助け出された英雄は、インキュバスより力を分け与えられることで命を長らえ、半分人間、半分モンスター族となり、不老に近い頑丈な肉体を得たのだ。
人間の世界では生きられない肉体となった英雄は、それでもその性格は人間のままで、人間とモンスター族の架け橋のような存在になり始めた。
人間はモンスター族と魔物をごっちゃにし、モンスター族の全てが危険と見なし、一方的に「見かけたら倒す」スタンスだ。
しかしモンスター族の皆が皆そうではなく、本当にヤバいモンスター族はそもそも人間を蟻以下と見なしているし、そもそも魔界から出ては来ない。
地上にて生活しているモンスター族は、魔界のヤバいやつから逃げてきた戦闘を好まない「平和主義で穏やか」なモンスター族なのだ。
眼力殺しだって、己の住居に勝手に侵入してきた冒険者に勝手に攻撃され、身を守るべく戦ったに過ぎなかった。
ミノタウロスは、皆が皆脳筋なので「話し合いは口ではなく拳」のために、冒険者たちと話し合いをするという考えにいたらないのだ。
英雄は、両種族にまたがるふかーい溝を埋めるため、冒険者たちのギルドや狩人組織、魔女互助組合や教会のお偉方に「英雄という権力」を使って働きかけてきた。
時には拳で。
時には魔法で。
時には口でねじ伏せて。
交渉という名の脅迫もあったけれど、最近はようやく「理解も得られ」てきたのだ。
けれども、酒の席で口が滑った。
ミーノース島に、眼力殺しの身内がいるとぽろりとこぼしてしまったのだ、エウローパ諸島のお偉方を相手に。
そして、あれよとあれよと噂に尾ひれが背びれが尾っぽがつき、瞬く間に危機感が高まり、討伐隊の結成と相成った。
サンタモード島からは“史上最高”の年齢不詳の魔女、魔女アーレイの再来(というか本人)と謳われるピアが。
クレストリアーナ島からは、防護魔法、結界魔法が半端なく素晴らしい“一人百戦”のオネニーサン(実はノーマルな俺様)な神官リウスが。
ロレッタ島からは、司法取引でメンバーに加わった、影の薄さとすばしっこさと危機回避能力(野生動物並み)と瞬間記憶力はピカイチの(はずの)盗賊ラースが。
クレーテア島からは、モンスター(実は魔物)相手に毎日何戦も何戦も繰り返す実力者である剣闘士テスが。
スパリュトス島からは、狩人組織の実力者である(腹黒笑顔)狩人ゼスが。
――素面に戻った英雄ミナ・サキョウは、ゲオルダンデウスとリンダリンダ夫婦の訪問をうけ、己のしでかしたことに顔が真っ青になった。
今は良き(笑)呑み友達である眼力殺し・ゲオルダンデウスの娘を討伐するメンバーを派遣させてしまったのだから。ゲオルダンデウスの娘は、父親とは違い、大人しくなーんにもしでかしてもいない引きこもりであるのに。
だから、ミナは慌ててお偉方に「とっとと討伐隊の派遣を撤回しろ白紙に戻せ」と告げてまわり、討伐隊のメンバーを回収するべく現場へ向かったのだった。




