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母、出会う




 リンダリンダには、人間の血が流れている。といっても四分の一であり、リンダリンダ自身を構成するのは、ほぼ妖精族の血である。

 妖精族は、モンスター族の中でもとりわけ気まぐれである。他のモンスター族の種族のように、血統なんて気にしない。そしてその場限りの逢瀬が大好きだ。

 だから、なのか。彼女の祖父にあたる妖精は、永き時を生きる不老の魔女と逢瀬を幾度か過ごし……一応は人間の枠内に入る魔女は、半分モンスター族、半分ニンゲンの赤ん坊を生んだ。

 魔女は、そのあとモンスター族とニンゲンとの争い事で、ニンゲンの見方をした。そしてふたりは別れ、赤ん坊は父親である妖精族が引き取った。やがて成長した赤ん坊は、母から受け継いだ美貌で女たらしの名を欲しいままにした。

 魔女の息子である女たらしは、同族から何名かの妻を迎えた。そうして誕生したのたくさんの兄妹たち。リンダリンダとターリアはそのうちの二名である。

 なのでリンダリンダは祖母の顔が見たことがない。けれども、わからないでもない。何故なら、リンダリンダは父親似だ。リンダリンダの父親は母親似だ。つまり、自分に似通った顔だからすぐにわかるのだ。


「…………」


 アステリアのスキル・ムーヴァーにより、リンダリンダが転移した場所は最下層、死の島の底部と隣り合わせの場所。

 そこは全てが闇で覆い隠され、自分の姿さえ朧気にしか確認できない。


「……………」


 しかしリンダリンダには通じない。リンダリンダは火の妖精、火は自ら光を放つもの。ゆえに、決して闇に覆われない。だからリンダリンダは、闇の中でも昼間のように辺りを見渡せる。


(あの方、思いっきり干渉していますわね?!)


 リンダリンダは周囲を見渡した。見渡せど、どこまでも闇が広がっていた。この闇は、アステリアのスキル・ラビリントが作り出した闇ではない。スキル・ラビリントの例外、上位者の干渉(身内に限る)による闇である。

 ―――なら、誰の闇か?


(あちらに、いますわね)


 リンダリンダは、左斜め前方を見た。閉じていた羽を開き、念のためにいつでも戦闘にうつれるように見構えながら、ゆっくりゆっくりと移動を開始する。


(まだ寝ていますの、阿呆は!!)


 リンダリンダは足音に縁がない。羽の力で地面から浮いているからだ。リンダリンダの背の羽は、常に魔力をまとっており、リンダリンダは羽を動かさずとも浮遊していられる。だから、歩かなくてもよい。……健康のために普段は歩くときもあるけれど。


(あぁ、でも。起きていたら、格好つけたがりますわね、あたくしの前ではやたら。ならちょうどいいですわね。起きていないのは情けないですけど、起きていたら起きていたで邪魔ですもの)


 リンダリンダの目に、気を失っている夫がうつっていた。あれだけの勢いで落下したというのに、リンダリンダの夫はとくに傷を負っている様子がない。ミノタウロスは頑丈なのだ。


(あ、いましたわ)


 倒れているリンダリンダの夫のすぐ近くに、巻き込まれて落下した魔女の姿があった。

 ふらふらと起き上がろうとしている魔女を見て、リンダリンダは己の予測が的中していたことを知り、にやりと笑った。

 肌に吸い付くような湿気と濃厚な水の匂いの中、足の先まである長い髪を鬱陶しげにかきあげる女は、黒かった。周囲を覆い隠す闇より黒かった。

 身にまとう衣も、髪も、瞳も、闇より暗い。

 その姿は、不老不死の魔女ピアレイン・アーレイ・オリンピア。先代の魔女王。

 リンダリンダの父親と、リンダリンダ本人、そしてアステリアによく似通った面立ちの美貌。間違いなく、彼女の血縁。


(あら、アステリアと瓜二つ)


 近づいているモンスター(リンダリンダ)に気付いていない、かつての魔女王。年を経て気付かないのか、それとも咄嗟の落下で体を守るために無意識に魔力を使いすぎたか、どちらでも良かった。リンダリンダには好都合だった。

 リンダリンダはすーっと、音もなく夫のそばへ移動する。夫を守る位置に移動して、もう一度魔女を見た。

 魔女は、落下の衝撃で呆然としているのか、髪を指でつまんで「……戻っちゃった……」と呟いている。それを見て、リンダリンダはより確信を強めた。よし、気付かれていないと意気込む。

 そして、リンダリンダは呟いた。


「初めましてでございますわ、おばあさま」


 リンダリンダはにっこりと笑った。

 魔女が、素早く顔をあげ、リンダリンダを見て―――固まった。








「あぁ、出会っちゃったねぇ。まぁ、ここまでは我の予測通りだけどねぇ?」


 ひとつの出会いを、より深い闇の中で見つめるものがひとり。リンダリンダのいる深い深い闇よりも、さらに深い闇の中、流れる水音しか音がない世界で、彼女はいた。


「さぁ、リンダリンダ、ピアレイン。楽しい楽しい余興を我に見せておくれ」


 彼女が見つめるのは、流れる水面。そこに映し出されるのは、火の妖精とかつての魔女王の出会い。


「ふふふ、ふふ。我の千を見通す力を裏切るかな? どうかな?」


 彼女は、黒いローブのフードを外した。そして、よくよく見ようと水面に顔を近付ける。

 さらり、と白銀の明かりが辺りにこぼれる。その明かりは、彼女の短い巻き毛。彼女の髪は、淡く光を放っていた。


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