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魔女、戻る






 種族スキル・ラビリントには、マスターとマスターが任意で選んだ命あるものを、マスターが指定した場所へ転送するムーヴァーと呼ばれる移動手段が存在する。

 ムーヴァーは、ラビリントの例外パターンである、マスターよりの上位者(身内に限る)の例外は対応しない。

 今回リンダリンダが提案した移動手段はムーヴァーだった。リンダリンダはマスターであるアステリアの上位者(=母)に当たるので、ムーヴァーには干渉はできない。


「ムーヴァーは、基本マスターが移動可能な場所ならば、どこでも移動できますのよ」


 だから、アステリアは地下を指し示し、アステリアが行くのではないといったのだ。


「でも、母さん」


 アステリアは渋った。


「ムーヴァーは、相手に直接触れないと移動させられないのよ。母さんを移動させた後、母さんはどうやって戻るの?」


 一見して、万能に見える移動手段、ムーヴァー。しかしムーヴァーは、マスターが移動させる相手に、“手で”直接触れないと移動させることはできない。


「あたしが移動して迎えに行けたらだけど、あたしはここを離れることができないわ」


 少し青い顔、微かに震える手で、アステリアは扉を指す。この部屋とホールとを隔てる扉、その向こうには規格外の討伐隊。

 いま彼女らがいる場所は、ダンジョンの最奥。ダンジョンの要がある場所であり、他の場所はある程度変更が可能でも、この場所―――ホールとこの部屋は位置を変更できない。


「大丈夫ですわよ」


 リンダリンダは自信満々ににんまりと笑った。何かを企んでる笑みだ、とアステリアは嫌な予感しかしなかった。


「干渉できる上位者がいることを忘れていましたの? アスティ」


 母の企みを聞いて、アステリアは頭を抱えたくなった。







「っつ〜……」


 何かの滴がぴちょん、ぴちょんと跳ねる音が辺りに響く。この辺りは真っ暗で、夜目なり何なりがないと何も見えないくらいに深淵の闇だった。

 闇以外に存在するのは、どこまでも続く、肌に吸い付くような湿気と濃厚な水の匂い。

 灯りがあれば、夜目がなくとも見ることが出来ただろう―――この闇に負けないくらいに黒い、烏の濡れ羽色の長い長い髪と、同じ色の瞳を持つ妙齢の女を。

 その瞳が向ける先には、赤い瞳を閉ざし、気を失う牛頭人身のモンスターを。そして、見るも無残なドラゴンの成れの果てを。


「……戻っちゃった……」

 漆黒の色を纏う女は、艶のある声で呟いた。自分自身を頭から爪先まで見つめ、確認とばかりに髪を摘まむ。

 幼い頃は明るい色だった髪と瞳。しかし成長をするにつれ、魔力が膨大になってゆけば、いつしか暗色に染まっていった髪。余りにも多い魔力は、彼女を不老にした。多すぎる魔力に耐えるために、身体が異質に変質した原因だ。

 暗色に染まり、ついに闇より暗い色に染まった髪と瞳は不死の魔女、ピアレイン・アーレイ・オリンピア。先代の魔女王。

 自由を謳歌するために幼い頃の姿に擬態し、死に行くドラゴンの力をまともに浴びて、擬態の術が解けてしまった魔女の姿は、最奥部にいるアステリアと同じ顔形をしていた。


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