娘と母
娘――アステリアは頭に来ていた。
母――リンダリンダも娘同様頭に来ていた。
アステリアは、父と討伐隊と―――理不尽なこの状況に。
リンダリンダは、アステリアと同じ相手に加え、余計な手出しをした妹に。
アステリアの叔母であるターリアは、自身よりランク下の魔物、つまりアステリアと同等の魔物をダンジョンに配置したのだ。
ダンジョンマスターであるアステリアと同等に強い魔物を、ラビリントの例外を利用して。
ミノタウロス族特有スキルのラビリントの例外は、ダンジョンマスターよりランクが上のモンスター(身内に限る)からの干渉を受けてしまうこと。
アステリアの母方の叔母であるターリアはその条件を満たす。
そして、可愛いたった一匹の姪のために、ダンジョン内部にモンスターを放った……もちろん、事後承諾で。
それらのモンスターは、アステリアよりランクが低かった。だから良かった。
しかし、あの死のドラゴンはいけなかった。
「アステリア、少しお待ちなさい」
「何、母さん。手助けもしてくれるんでしょ? 何で止めるの」
アステリアの問いも最もだ。
「死のドラゴン、アレが倒されてからにしなさい」
「何で」
首をかしげ、今すぐ突撃したい娘を見て、リンダリンダは自分にそっくりだと思いながら答えた。
自分にそっくりだな娘がキレていると、自然と母である自分は落ち着いてくるのが――リンダリンダには新鮮だった。
「あれのランクはわかる?」
「私より下?」
悲しいかな、アステリアは相手の力量をはかり間違えることがたまにあった。
「違いますわよ。あなたと同ランク、Xランクですわよ。これがどういう意味かわかりますわよね」
ダンジョンマスターと同ランク。もしくは、自身より上のランクの魔物ないしモンスター(身内以外に限る)が、自作のダンジョンにいるということ。それはあることを意味する。
「下剋上!」
―――乗っ取りが発生するということだ。
「だから、討伐隊のニンゲンに倒されるまで待ちなさい」
母の言葉に、一気に血の気がひいて真っ青な顔になったアステリアは、壊れた玩具のようにかくかくと首を上下に振って頷いた。
「あなただって、出ていってドラゴンと戦闘して負けて――この住まいが乗っ取られてしまったら嫌でしょう?」
乗っ取り、それは文字通りダンジョンが乗っ取られること。
条件は、ダンジョンマスターと同等のランクにあるか、もしくは上のランクにあるモンスター(身内以外)ないし魔物が、ダンジョンマスターとの戦いに勝つこと。
ダンジョンマスターに勝った場合、乗っ取りは成功となる。そうなってしまえば、ダンジョンマスターの権利はそのモンスターないし魔物に移ってしまうのだ。
乗っ取りは、ダンジョンマスターとして、それは絶対に回避しなくてはいけないものだった。
乗っ取りなどされた暁には、“宝の持ち腐れ”のレッテルが貼られてしまう。宝の持ち腐れというのは、スキルがあっても全く使いこなせない未熟者に贈られる称号であり、それを贈られるということはとてつもなく不名誉である。
そして、この乗っ取り、まだ恐ろしい結果をもたらす。
「そうなってしまえば、ラビリントスキルが消えちゃうじゃない! 待つわ、待つ! ……悔しいけど」
乗っ取り=スキルの消失を意味していたから。
「牛の眼光を失った今のあなたなら、勝率も下がってしまってるも同然ですわよ。だからちょうど良かったですわ」
母の言葉に、アステリアは絶句した。そんなアステリアに、母が追い討ちをかける。
「気付いていませんでしたの、まさか?」
アステリアは気付いていなかった。頭部が牛からヒトガタになったことで――もうひとつのミノタウロス族特有スキル、“眼光のひと睨み”を失ったことを!
「じゃあ、わたしは」
「あのまま戦闘に向かっていたら、ヤバかったですわね。ひと睨みしたつもりが効果がない……と驚いたところを一撃で倒されますわよ」
「………………………」
アステリアは固まった。




