死闘の行方は――1
ミノタウロス族特有スキル、ラビリント。迷宮を造り出すミノタウロスだけしか持ち得ないスキルであり、これほど住居作成に向いたスキルもなかった。
内装、思うがまま。
大きさ、思うがまま。
魔物を闊歩させてもよし(ただしマスター自身より低ランクに限る)。
魔物を門番に据えてもよし。
しかし、ひとつだけ大きな欠陥ともいえる例外がある。
それは“干渉”だ。
ラビリントで作成された迷宮ダンジョンをいじったりできるのは、作成したダンジョンマスターのみ。
しかし、アステリアの父はそれを可能にした。
それは“マスター”より高位のモンスター族(身内に限る)が手を加えることが可能――ようするに干渉されてしまうのを許すスキルなのである。
アステリアの場合、自身より高位の(身内に限る)モンスター族はミノタウロスの父、炎と毒の妖精の母リンダリンダ、水と鏡の妖精の叔母ターリアとなる。
父は自身の作成したダンジョンを、アステリアのダンジョンにくっつけて侵入した(家族でなければ不法侵入一歩手前)。
叔母は、入り口と内部にたくさんの魔物を派遣した――普段ならば、魔物はアステリアの許可なしでは入れない(自身よりランクが上の魔物は除く)。
叔母は可愛い姪のためにたくさんたくさん派遣した。叔母は姪よりもふたつランクが上の“最上位”だった。最上位ランクは、“これ以上のランクはありませーん”というランクの頂点のこと。ピラミッドのてっぺんである。
だから、アステリアはターリアが呼べる魔物たちに対し少しびびってはいた。普段見ることのない“見たら逃げる”と噂の魔物たち。
今現在ホールにて、ニンゲン達が死闘を演じている相手、死を司る夜のドラゴンもその魔物のに他ならなかった。
盗賊は、どこまでいってもタイミングが悪かった。
すーっと、見事に気配を消し、尾に近付いたところまはでよかった。
しかし、思ったより鱗は固く、なかなか刺さらず――あっという間にドラゴンに気付かれてしまい、
「かはっ」
恍惚とした表情で、涙を流しながら盗賊はドラゴンの尾の餌食になった。
「ちっ」
それを見た狩人の行動は早かった。
中年とは思えない素早い動きで、尾に弾かれ空を飛ぶ武器をキャッチ。
ドラゴン退治専用の武器ではあるが、鱗はそれを受け付けなかった。つまり、
「幻種はやはりまぼろし、ですか!」
夜のドラゴン――夜空のようにキラキラした鱗を纏う死のドラゴン。遥か昔より“実在”を疑われる“幻種”という分類にある魔物であり、実在を疑われるだけあって、伝えられる特徴に真偽を疑う声が多い。
“その肌、夜空の如し。その肌、布のように柔らかい鱗である”
それが夜のドラゴンの特徴。
「一か八か、でしたが」
狩人はまさにカンで“刺さる”と思ったのだが――驕りが過ぎたらしい。
「なら、仕方ありませんね!」
狩人は左腕をひと振りし、ドラゴン退治専用のナイフを逆手に握った。
狩人は左利きであり、さらに右腕も同じように武器を扱えるが、左のスナップ使いには及ばない。
それでも、右手にいくつかの――羽ペンにしか見えない――何本かの短く細い木の矢を瞬時に装備した。あまりにもその動作は早く、狩人の後ろでいつでも動けるよう構えていた剣闘士の目には、矢の出所がわからなかったくらいだった。
「さぁ、殺りあいましょうか」
それが、死闘の幕開けの合図だった。




