集まるときまで―魔女と神官
「“凍れ”!」
魔女が指で差せば、溶けた金属の体を持つ巨大な蛇体の魔物が一瞬にして氷に包まれる。そして魔女がそれを確認すればすぐさま次の魔法を放つ。
「“消えろ”!」
一瞬にして姿を消失した氷に包まれた魔物。しかしその他にも次から次へと魔物が襲い来る。
「“凍れ”!」
もはや、呪文ではなかった。魔女は魔力を込めた言葉を一言放つだけでいい。ちんたらちんたら呪文を介して魔力を練って魔法の形にする時間が惜しかった。
「“消えろ”!」
魔女は、己の背後に一体の召喚獣を従えていた。モフモフの毛皮を持つ白黒熊だ。普通の白黒熊と違うのは、毛が異様にモッサモサでふっさりとしている点と、南方の大陸に存在するというカンガルーという動物と同じように腹部に袋がある点、そして――そこには気を失ったっきりの神官が一名入っていること。
神官は、穴に落ちた魔女を助けるために身を投じたのだが、助ける相手の魔女はすぐさま箒にまたがり事なきを得ていたので、残念ことに落ち損だったのである。
そして、そのまま真っ逆さまに――建物二階分の高さから落ちた高所恐怖症の神官は、落ちている間に気絶。怪我は魔女がウキウキと治したが、魔女は気絶する美人を堪能したかったので、気絶したまま放置し、挙げ句睡眠の魔法までかけたのである……だから神官は眠っているのだ。否、眠らされたのだ。
眠れる美人神官を召喚獣の腹ポケットに入れ、魔女は迫り来る弱い(←※魔女にとって)魔物をばったばった倒していたのだが。
「――きりがなぁいーっ!!」
きりがなかったのである。きりがなさすぎて、魔女はイライラしていた。
「むー……っ!」
魔女は神官をちらっと見て、群れる魔物を見て――周囲もちらちらっと確認し、一言。
「だぁれーも見てない、見てない☆」
魔女は魔物に上機嫌で対峙した。所々天井から吊るされたランタンで、石造りの回廊にはまだ四ダースくらい様々な魔物が蠢いていることが容易に知れた。
「さぁっ☆ 覚悟はイーかなぁ?」
可愛らしく謎のポーズ(恥ずかしいあまり描写不可能)とともに台詞を叫び、魔女はウキウキと小さな可愛らしいお口を開けた――もちろん、魔物に向かって。
「ではいっくぞー☆」
小さな可愛らしい両手をお口に添えて、ひと叫び。
「きゃるん☆★ 砲ーっ!! with怒りのほ・の・おーっ!!」
脱力感たっぷりのお間抜けな決め台詞の後、魔女の口から真っ青に燃える炎の柱が、地面に対し平行にのびていく!!
「あ゛ーーあぁあー☆」
とある密林の王者と同じ雄叫びを(可愛らしく?)あげながら、炎の柱をお口から噴き出す魔女。とても愉快そうである。どこが愉快かまったく理解できないが――魔女はこの時も魔女だった。
魔女のお口から発射された炎の柱により、四ダースくらいいた魔物は一気に殲滅されたのである。
「さーっ、邪魔モノは散らしちゃったから〜、うふふ☆ ふったりっきりぃー」
魔女はスキップしながら石畳を進んでいく。追うのは白黒熊のちゃっぴー(オス・5歳)。そして、強制睡眠中の神官はその揺れに顔が真っ青だった。