外戚の男④
「様子がおかしいですね。発狂でもしたのでしょうか?」
「かもしれない」
「『かもしれない』じゃないですよ、趙汝愚様。ぼけっとしてないで、何か命令してくださいよ」
「命令?」
「……ああ、もう。この人までぼけてしまったのか。もういいです。とりあえず俺が彼から理由を聞いてまいります」
「大丈夫なのか、李明。お前はさっき屋敷で韓侂冑と顔を合わせているだろう。ばれる可能性が大きくないか?」
「向こうは家柄を鼻に欠ける男ですよ。下の者なんて髪の毛一本すら覚えてないでしょう」
言われてみるとそうかもしれなかった。ここは李明を信用するのも悪くなかった。頷いた趙汝愚は彼を韓侂冑のもとまで行かせた。
一方、韓侂冑はまだ行ったり来たりしているが、李明に呼び止められてようやく動きを止めた。二人はしばらく何かを話していた。その様子から本当に李明のことを覚えてないようだった。
動作から韓侂冑は悪態を突いているように見えないこともなかった。何か悪いことでもあったのだろうか。
耳を傾けている李明はただ頷いていた。
やがて話が終わったのか、李明はぺこりと頭を下げてその場をあとにした。その場に残されたのは韓侂冑一人だった。
李明が戻ってきた。
「奴は何を話していたんだ、李明?」
「どうやら待ち合わせをしていた張宗尹がいつまでたっても来ないようなのです。もはや結論は出ています。すっぽかされたのですよ」
「なんだと!」
趙汝愚は驚きを隠せなかった。重華宮に勤めている張宗尹が現れないということは、下手をすると韓侂冑と太后が会うことができない。すなわち、皇太子の嘉王の即位ができないことだった。
「韓侂冑めっ!偉そうなことを人前で言っておいて、結局何もできないじゃないか!やっぱり私が行くべきだった」
「落ち着いてください。さっきも言ったでしょう。太后と血筋が近いのは彼だけだと。あなたが行ったところで、太后は嘉王様の即位を認めるわけがありません。ここは辛抱してください」
「しかし、張宗尹は約束をすっぽかしたのだぞ。もはや絶望じゃないか」
「太后に会う方法は張宗尹を介するだけとは限りますまい。他にもあるはずです。とにかく今は待ちましょう」
そんな悠長なことを言ってる場合だろうか。韓侂冑がいる方に目を向けた趙汝愚は、唸った。




