外戚の男②
「コネで入ったのか?」
趙汝愚が尋ねた。
「ええ。父親のコネです」
李明がまた菓子に手を伸ばした。
「使えるのか、そんな奴?」
「使えるはずです。なぜなら今のところ彼が太后と血筋が限りなく近いのですから」
趙汝愚は唸った。筋が通っているので、納得するしかなかった。もはやこれしか方法がないようだ。
とりあえず頭をすっきりさせようと思い菓子に手を伸ばしたが、空を切った。なんだろうと思い菓子のある位置に目を移した。
無かった。さっきまで大量にあったはずの菓子が無い。
「あっ、全部俺が食べました」
「…………」
「もしかして、いけなかったですか?じゃあ、もう少し多めに用意しといてくださいよ。こう見えても俺は育ちざかりなんですよ」
自信あり気に笑いながら言い張る李明だったが、何がおかしいのだろうか。こっちはちっとも面白くなかった。
人が買ってきた菓子をあっさりと胃袋に収めやがって。
この大食漢め。
食い物の恨みを忘れないことを誓った趙汝愚だった。
***
李明を使者にたてて韓侂冑を呼び出した。一体どんな男なのか確認だけはしておきたかった。
面会してみると趙汝愚より頭一つ大きいことが分かった。
「お任せください。この私にかかれば伯母を説き伏せるなんて簡単なことですよ。なんといっても私と伯母はその昔から……」
さっきからぺらぺらとよくしゃべる男だった。まるで口から生まれたような奴である。
何を食って生活していればこうなるのだろうか、と趙汝愚は首をかしげた。
「……そなたと太后様が親しいのは、よく分かった。だから今すぐ重華宮まで行って太后様に嘉王様即位の承諾をとってきてくれ」
「はいはい、大丈夫です。重華宮には張宗尹という知り合いがいますので彼に頼めば、すぐに伯母に面会させてもらえるでしょう。実は張宗尹とは数年前に……」
「分かった。後で聞くから行ってくれ」
追い出すのに苦労したが、重華宮には向かってくれたのでほっとした。だが、どっと疲れが押し寄せてきた。
「なんだあの男は?なんだか不安になってきたぞ」
「そうですね。俺も同じ意見です」
顔を見合わせた二人は心中で同じ意見だったのか、立ち上がった。
目指す場所はたった一つしかなかった。




