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真夏の夜に  作者: 裕
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メランコリー

「日常生活で謝らずに会話するって結構難しい」

 侑莉が先週の連休にあった経緯をし終えると、オーナーと希海、頼は顔を見合わせた。

「侑莉ちゃん問題はそこじゃないよ……押し倒されたんでしょ!?」

「ああ、でも前々から注意されてたのにそれだけで済んで、実は香坂さんって優し――」

「なわけねぇし! 侑莉さん騙されてるって」

 大きな声で言った頼の言葉にうんうんとオーナーが頷く。だが当人は「そうですか?」とあくまでも悠長だ。

 もしもあの時、凌がもっと怒り出して乱暴されたとしても、それは自業自得だ。

 でも凌はしなかった。あれ以上一緒にいたくなかったという事もあるだろうが、やはり優しいのだと思う。

 だって、どんなに腹を立ててもあそこにまだ置いていてくれる。出て行けと言われなくてどれだけ安堵したか。

「それって二日目の話だよね、あと二日どうしてたの?」

「何もなかったよ」

 希海の質問に対する答えに、また三人は顔を合わせる。侑莉の話は疑問点が多すぎるのだ。

「んー私はどっちもバイト入ってたし、香坂さんは出掛けてたり寝てたりで全然時間合わなくて」

 そう言って笑った侑莉に希海は違和感を覚えた。どう考えても笑って済ます話じゃない。

 それに普通もっと同居人に対して怯えたり警戒するものなんじゃないだろうか。まず二人の同居する所から普通じゃないのだ。

「侑莉さん無防備すぎるよ」

「そうだよ。この前は大丈夫でも今度いつ襲われるか分かんないよ!」

「大丈夫ですよ」

「侑莉さんのその自信はどこから来んだ?」

 実際に押し倒されたというのに。そう思って当然だろうが、侑莉はほんの少しも心配する必要がないと思っている。

 凌のこれまでの女性付き合いがどんなものだったのか知りはしないが、あれだけカッコ良ければ周りの女性が放っておかないだろう。

 黙っていても向こうから寄ってくるに違いない。そんな人が、わざわざ自分のような子どもっぽい子は相手にしないだろうと確信を持っていた。

 恋人は作らないと言っていたが、それは自分の気が向いたときに適当に見繕う、という意味だろう。

「四日目の朝、香坂さんの服がリビングのソファにかけてあって。すっごく女物の香水の匂いがしてたの」

 笑って「だから大丈夫だよ」と言ってのける侑莉。

「……侑莉さんの話で私が分かったのは、その人が最低だって事くらいなんだけど」

「安心出来る要素ゼロだよ?」

「あれぇ?」

 それでも、侑莉は「平気です」の一点張りで譲らないから、三人はそれ以上何も言えず、バイトを終えて帰っていくのを見送るしかできなかった。

「希海ちゃん、本当に侑莉ちゃんって大丈夫なの?」

「分からない。感情の浮き沈みがかなり激しいみたいだから……」

「あれで!?」

 頼からは、終始笑顔の侑莉はいつだって穏やかにしか見えない。

 沈んでいるとは思えなかった。

「無理矢理にでもここの上のマンションに連れてくる?」

「侑莉さんがああ言ってるんだから、こっちが下手に動いたら逆効果だよ」

「うーん、難しい子だねぇ」

 今のところ、香坂という男のマンションにいる事事態は苦ではないらしい。気持ちが不安定なのはもっと別に問題があるようだ。

 それが消失するのか増長するのかの鍵は同居人が握っているのかもしれない。



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