我らが汝を評価する尺度は、汝を映す鏡と規則が異なる
朝の教室。
ざわめきはいつも通りだが、どこか空気が張り詰めている。
黒板の横、電子掲示板に数字が並ぶ。
── 月間承認ポイントランキング
1位 諏訪之 愛凛
2位 馬体 力
3位 東雲 蓮
……
そして、
17位 肥後 全
坂田「おい肥後、見たか?今年も愛凛ぶっちぎりだぞ」
佐藤「東雲も地味にすげえよな。勉強と読書会の貢献ポイントだろ?」
肥後は無言で席に座る。
(我らが汝を評価する尺度は、汝を映す鏡と尺度が異なる)
学園では、行動が数値化される。
発言、成績、部活、ボランティア、SNSでの反響。
すべてが“承認ポイント”になる。
だがそれは、
「他者から見た自分」だ。
諏訪之「全くん、17位おめでと」
肥後「微妙だな」
諏訪之「上がってるよ?」
肥後「それが問題なんだよ」
諏訪之「え?」
肥後「俺は何も変えてない」
東雲が静かに言う。
東雲「変わらなくても、周囲の見方が変われば評価は変わります」
肥後「つまり俺は、誰かの鏡に映っただけか」
東雲「ええ。本当の自分と、映る自分は違います」
諏訪之は少し眉をひそめる。
諏訪之「でも評価されるのは、いいことじゃない?」
肥後「評価は、安心材料だ」
東雲「でも依存にもなります」
一瞬、空気が凍る。
坂田「なあ愛凛、今度の公開討論出るんだろ?」
教室がざわつく。
公開討論。
それは全校生徒の前でテーマを語り、
拍手と投票でポイントが決まるイベント。
諏訪之「うん、出るよ」
坂田「さすが1位!」
視線が集中する。
愛凛は笑う。
完璧な笑顔。
だが、
肥後は気づく。
(あの笑顔は、鏡の前で作られたものだ)
放課後、図書館。
東雲「肥後くんは、出ないんですか?」
肥後「公開討論か?」
東雲「はい」
肥後「出れば順位は上がるだろうな」
東雲「それでも出ない?」
肥後「俺が語る言葉が、拍手で価値を決められるのは嫌いだ」
東雲は本を閉じる。
東雲「では、私が出たら?」
肥後「……意外だな」
東雲「怖いです。でも」
少し間を置く。
東雲「鏡ばかり見ていると、自分の顔を忘れてしまいそうなので」
肥後は小さく笑う。
肥後「想定外だな」
東雲「それが、あなたの望みでしょう?」
窓の外。
校庭では、愛凛が囲まれている。
拍手と歓声。
肥後はその光景を見つめる。
(我らが汝を評価する尺度は、汝を映す鏡と尺度が異なる)
(だがもし)
(鏡を壊したら、何が残る?)
翌日。
掲示板に新しい文字が表示される。
── 公開討論参加者一覧
諏訪之 愛凛
東雲 蓮
……
そして、
肥後 全
教室がざわめく。
坂田「おい肥後!?出るのかよ!」
諏訪之は目を見開く。
東雲は静かに微笑む。
肥後(全部、想定内じゃつまらない)
肥後(なら、鏡の前に立ってやる)




