魔王、バイトを志す
「“ばいと”とは何だ」
「短時間の仕事。お金もらう」
「金があれば宝物庫で供物を得られる」
魔王が真顔。
「我も働く」
「やめて!」
「主の負担が減る」
「……急にいいこと言うのずるい」
在宅仕事を試す。
パソコン起動。
「ぬっ」
羽ピク。
「出さない!」
キーを押す。
カチャ。
「押した」
「えらい」
次の瞬間。
カチャカチャカチャ(誤爆)
ピコン。
「ぬっ!?」
バサァッ!!
「羽しまって!!!」
「敵襲である!」
「誤操作!!」
深呼吸。
「結論:機械ムリ」
「異議あり」
「却下」
魔王が閃く。
「顔を隠す仕事が良い」
「顔を隠す…?」
翌日。
着ぐるみスタッフ募集。
「ほんとにやるの?」
「征服より、生活だ」
面接。
「声出さない方がいいので」
「最高です!」
着ぐるみ装着。
完全防御。
「……完璧」
「我は今、無敵だ」
「それ言うな」
子どもが寄ってくる。
「かわいいー!」
魔王が固まる。
「……かわいい、とは何だ」
「褒め言葉。手振って」
無言でめちゃくちゃ丁寧に手を振る。
そして。
背中のファスナー。
ふわっ。
「羽!!」
「出ておらぬ!」
「出てる!!」
押し込む。
「収納!」
「主よ背中が…」
「今言うな!」
勤務終了。
汗だくの魔王。
「……暑い。だが達成感がある」
「今日一回もバレてない。すごいよ」
魔王が小さく笑う。
「主が笑った。それで良い」
不意打ちで胸がぎゅっとなる。
「我は征服せぬ代わりに、主の暮らしを守る」
「……いいこと言うのずるい」
帰り道。
「着ぐるみの中で羽出すのやめてね」
「努力する」
「努力じゃなくて確実に!!」




