鉄の巨獣は鳴く
「最初に言う。電車は挑戦じゃない。移動手段」
「承知。移動の儀式であるな」
「儀式って言うな」
駅前。
遠くから「ピッ」。
魔王が固まる。
「……門が、音で通す者を選んでおる」
「改札。ICカード」
「見えぬ契約板……」
「契約って言うな」
券売機の光る画面を見てまた固まる。
「主よ、あの板は生きておる」
「タッチパネル!」
ピンポン。
「ぬっ」
羽がちょい出る。
「出た!!」
「姿勢を正しただけだ」
「姿勢が羽で出るな!」
改札。
「止まらず通るよ!」
「王は流れを止めぬ」
切符を取り忘れて詰まりかける。
「止まるな!!」
「ぬぅ!?」
バサッ。
「羽しまって!!!」
「礼儀である」
「礼儀多すぎ!」
ホーム。
ゴォォォォ……
風。
鉄の塊が滑り込む。
魔王、目を見開く。
「……鉄の巨獣」
「電車!」
ドアが開く。
「口が開いた」
「乗る!」
車内。
「この輪は捕縛具か」
「つり革」
「揺れるのか」
「揺れる」
発車。
ガタン。
「ぬっ!?」
羽、半展開。
「羽!!」
「威厳が揺れただけ」
「揺れるのは車体!」
天井からアナウンス。
「見えぬ語り部……」
「自動放送!」
隣の人のスマホをガン見。
「小さき板に魂が……」
「動画!」
カーブ。
羽ビクッ。
「しまって今すぐ!!」
「……我は静かにしておる」
「羽が静かじゃない!」
「次で降りる。成功体験だけ持って帰る」
到着。
ホームに降りて深呼吸。
「……理解した」
「なに」
「汝らは日々、鉄の巨獣に喰われ、吐き出されて生きておる」
「言い方最悪!」
その瞬間。
踏切。
カンカンカン。
「ぬっ!?」
バサァァッ!!(全開)
「羽しまって!!魔王様!!!」
「警鐘だ。王の出番である」
「ただの踏切!!」
マフラーでぐるぐる巻き。
「緊急収納!!」
「王を縛るとは大胆だな」
「羽だけ!!」
帰り道。
「結論:電車はまだ早い」
「1駅は征服した」
「征服って言うな!!」
魔王、少し得意げに笑う。
「……だが主よ」
嫌な予感。
「次は“れんじ”で供物を温めたい」
「家電に手出すな!!!!」




