魔王、料理に目覚める
(夕方。部屋。キッチン。主人公が買い物袋を置く。魔王様はエプロンを“王の装束”のように身につけている)
「……そのエプロン、どこで覚えたの」
「宝物庫で見た。料理は生活の王道だ」
「王道って言うな。あと約束。包丁は“征服の剣”じゃないから」
「承知。小剣は、切るためにある」
「切るため……合ってるけど言い方が怖い」
(主人公が材料を並べる。卵、玉ねぎ、鶏肉、ケチャップ、炊いたご飯)
「赤く甘酸の液……血ではないな」
「ケチャップ。血って言うな」
「では、儀式を始めよう」
「儀式やめて。料理!」
(魔王が包丁を持つ。やけに堂々とした構え)
「ちょっと待って。猫の手。指はこう」
「猫の手……我が世界では猫は神だ」
「今関係ない。指切るから」
「王の指は切れぬ」
「切れる!普通に切れる!」
(玉ねぎを切る。しばらくして魔王が固まる)
「……ぬ」
「泣く? 玉ねぎは泣くよ」
「泣いてはおらぬ」
「目、真っ赤」
「これは……威厳の涙である」
「威厳で涙出すな!」
(背中がもぞっと動く)
「出るな出るな……!」
「出ぬ。涙は出ても羽は出ぬ」
「涙も止めて!!」
(フライパンを置き、IHのボタンを押す)
ピッ
「ぬっ」
(羽がピクッ)
「耐えろ!」
「耐えておる。音が鋭いだけだ」
「また音のせい!!」
(油をひく。ジュッ)
「……火の声」
「焼けてる音」
「音が多いな、料理は」
「だから“静かな家電”から始めるべきだったのに」
(鶏肉を入れる。ジュワァ!)
「ぬぅっ!?」
(羽が半展開)
「羽しまって!!料理中に出すな!!」
「跳ねた!油が跳ねたのだ!」
「そう!だから落ち着いて!!」
「落ち着いて跳ねを受け止めておる!」
「受け止めなくていい!下がれ!」
(主人公が火を弱める。魔王は悔しそうに羽を畳む)
「……料理は戦だな」
「戦じゃない。段取り」
「段取り……王の采配」
「采配でもいいけど、羽はしまえ!」
(ケチャップライス完成。卵を溶く)
「次、卵。これは難しい」
「王に任せよ」
「任せたくない」
「主よ、信じよ」
「信じたいけど、通知音で羽出る人だよ?」
「それは……別の問題だ」
(卵を流す。とろとろに広がる)
「……美しい」
「今は感動していい。羽出すなよ」
「出ぬ。出ぬとも」
(魔王が慎重にケチャップライスを包む。少し歪だが成功)
「……え、できた」
「王の包容力だ」
「包容力で包むな」
(食卓。オムライスが並ぶ)
「いただきます……」
(ひと口)
「……おいしい」
「当然」
「当然じゃない、すごい」
「主が喜ぶなら、我は何度でも焼こう」
「……急に刺すな」
「刺してはおらぬ。風の音だ」
「室内に風はない!!」
(キッチンタイマーが鳴る)
ピピピ
「ぬっ!?」
(羽がバサッ!!)
「羽しまって!!魔王様!!!」
「……料理の勝利を告げる鐘だ」
「勝利じゃなくてタイマー!!しまって!!」




