魔王、コンビニに行きたがる
「出陣したいのだが」
「却下。羽しまって」
昼下がりのワンルーム。
窓辺で外を見ながら、魔王が当然みたいに言った。
角はフードで隠してる“つもり”。
羽はしまってる“つもり”。
なお、どっちも全然隠れてない。
「都の視察である。征服は……今日はせぬ」
「“今日は”が怖いんだってば!」
昨日は洗濯機を“封印装置”扱いして儀式を始めた前科がある。信用ゼロだ。
「我は学んだ。歯磨きも覚えたぞ」
「うん」
「“はぶらし”は口内の魔を祓う小剣」
「解釈が物騒」
胸を張る魔王。無駄にかっこいいのが腹立つ。
「ゆえに外も怖くはない」
「怖いのは外じゃなくて、あなたが外で目立つこと」
私は指さす。
「角」
「帽子で押さえれば」
「押さえるな」
「……ならば交換条件だ。“こんびに”なる宝物庫に行きたい」
「コンビニは宝物庫じゃない」
でも、少しだけ考える。
近所だし、昼だし、人も少ない。
……いけるか?
「条件付き。フード深め、角隠す、羽出さない、征服しない」
「④は余計である」
「余計じゃない。あなた魔王」
渋々うなずく魔王。
玄関で靴を履かせ、インターホンにビビって羽が半分出て、私は絶叫した。
「出た!!羽!!しまって!!」
「礼儀である」
「礼儀で広げるな!!」
なんとか畳ませ、エレベーターへ。
「この箱は罠か?」
「ただのエレベーター」
「雷を飼い慣らしておるのか……」
「電気ね」
いちいち感動しないで。羽出るから。
やっと一階。
自動ドアを前に、魔王が固まる。
「……扉が、勝手に開いた」
「自動ドア」
「自動が多すぎぬか、この都」
ウィーン。
扉が開く。
魔王の目が、きらきらした。
「……あれが、“宝物庫”か」
私はため息をつく。
「だからただのコンビニだってば」
――嫌な予感しかしない。




