1ー6 キーホルダーと声
「…でもさ」
未来を変えるって言ったけど。
「そんな簡単なことじゃないよね!?」
だって、未来を変えるなんてこと、魔法でも使えなきゃ無理そうだよ…!?
私の言葉に、桐ヶ谷くんはまたため息をつく。
こういう仕草も、大人っぽくてかっこいい…じゃなくて!
つかせてるのは私だからね!?
もっと反省しようね!?
「だからと言って、何もしないわけにいかないだろ?」
そう言うと、桐ヶ谷くんはノートとシャーペンを取り出す。
「とりあえず、『予知夢』について考えようか」
彼は、ノートに「予知夢」と書いて、丸で囲む。
わぁ、字キレイ~!性格出てるなぁ~!
私が目をキラキラさせていると、
「…とはいえ、情報が少ないな」
桐ヶ谷くんはシャーペンをアゴに当てて、考え込む。
うぅ…絵になる。
真剣そうな桐ヶ谷くんを見て、私も考えてみる。
うーん、まったく出てこない!
働け、私のポンコツ頭!
桐ヶ谷くんと同じくらい!あ、それは無理か…
悩んでいると、桐ヶ谷くんが私のカバンを指差す。
「高橋さん、そのキーホルダー…」
「あ、これ?」
私は、キーホルダーを持ち上げて、桐ヶ谷くんが見やすいようにする。
これ、桐ヶ谷くんに拾ってもらったやつで、私の家宝なんだ〜!
私がニコニコしていると、キーホルダーを見ていた彼が口を開く。
「同じもの、俺も持ってるんだ」
「え!?」
それって、おそろいってことだよね!?
ぱぁっと顔を輝かせると、桐ヶ谷くんに目を逸らされてしまった。
「…よく考えてみたら、『予知夢』を見るのは、このキーホルダーの近くだけだった気がする」
「あ、確かに!」
私は、『予知夢』を見る前のことを思い出す。えーっと、夜、寝ようとして、キーホルダーは家宝にしよう、とか考えてたら、声が聞こえて...
「あ!声だ!」
「...は?」
いきなり叫んだ私に、ノートに「キーホルダー」と書き足していた彼が冷たい視線を向けてくる。
そんな目で見ないで!?ってそれよりも!
「声!夢を見る前に声が聞こえたの!」
「声?」
首を傾げる桐ヶ谷くんに、声のことを説明すると、彼は静かにうなづいた。
「なるほど、声…か」
「うん。桐ヶ谷くんは聞こえたことないの?」
彼は首を横に振る。
ってことは私だけ..?
何だか不安になって、カバンをぎゅっと抱き締めると、キーホルダーが落ちてしまい、転がっていく。桐ヶ谷くんがそれを拾って、苦笑する。
「前も、落としてたよな」
「う、うん….」
覚えててくれたんだ…嬉しいなぁ。
あ、でも、あの出来事の私の印象って、「ドジッ子」だよね!?それはなんかやだ!
ニコニコしたり、慌てたり、一人百面相をしていた私に、桐ヶ谷くんがキーホルダーを差し出す。
「はい、どうぞ」
「あ、ありがとう」
思い上がりかもしれないけど、桐ヶ谷くんの私を見る目が、出会った時よりも暖かい気がして、ドキッとしてしまう。
心臓の音がバレないようにしながら、差し出されたキーホルダーを受け取った時、
『一返して!』
という叫び声が、また脳を響かせた。
ビクッと肩を震わせた私を見て、桐ヶ谷くんが口を開く。
「声聞こえた?」
「…うん」
私がコクリとうなづくと、桐ヶ谷くんはノートに書かれた「キーホルダー」の横に「(声が関係?)」と書き足す。しばらく1人で何かを考えていた彼が、ふいに立ち上がる。
「…もう少し情報がほしいな。高橋さん、今から時間ある?ちょっとつきあってほしいんだけど」
つ、つきあう!
ぼん!と顔が熱くなる。
心臓に悪い言葉すぎる!
そう思いながら、私は即答する。
「も、もちろん!どこまでも行っちゃうよ!!」
桐ヶ谷くんと一緒なら、行かないなんて選択肢はないです!
そんな私を見て、桐ヶ谷くんは苦々しい顔をして、本日最大のため息をついた。
「…よく知らない人に、簡単について行かない方がいいよ…危ないから」
な、なんか呆れられてる!?
「で、でも!私、桐ヶ谷くんのこと、よく知ってるよ!?すごく優しくて、賢くて…眠くても授業では絶対寝ないよね!あと、みんながやりたがらないことも、嫌な顔1つせず、さらっとやってくれて、そういうところもすごくカッコよくてー」
勢いで言った後、慌てて口を押さえる。
うわああ、本人の前で好きなところを語っちゃったよ!
私、もう完全に脈なしなのに、めっちゃ迷惑じゃん!!
「と、とにかく!桐ヶ谷くんは危なくないよ!絶対!えーっと、それで、どこ行くの?」
ごまかすように言うと、桐ヶ谷くんは少し類を赤くしてから、目を逸らした。
「…図書館、だ」