1ー5 救いたい
放課後、気づいたら桐ヶ谷くんが教室にいなかった。
あれ?
私、放課後に話したいって言われなかったっけ?
あ、もしかして、私が桐ヶ谷くんのこと好きすぎて見た幻だったとか?
そうだとしたら、もう自分が怖いんだけど...
ムムム、と考えていると、後ろから
「ごめん、待たせちゃって」
という桐ヶ谷くんの声がした。
バッと振り向いて、彼に駆け寄る。
「ううん!全然大丈夫!」
会えるだけで嬉しいので!
いくらでも待ちます!
そんな意味を込めた...つもりで、桐ヶ谷くんを見てニコニコ笑みを浮かべる。
そうしたら、すっと目を巡らされてしまった。
「...ちょっと、場所を変えようか」
桐ヶ谷くんは、私をチラッと見てから、歩き出す。
私もカバンを片手に、後をついて行くけど、歩調を合わせてくれてるのが分かる。
そういうことされると惚れちゃうよ...?いやもう惚れてるけど!
階段を登って、重そうな扉を開けると、そこは屋上だった。
「ここなら、誰も来ないから」
桐ヶ谷くんは、手すりの前の段差に腰かけて、横のスペースをポンポンと叩く。座っていいのかな...?
私は、おずおずと彼の隣に座る。
うわああ、私、桐ヶ谷くんの隣に座ってる!1人でドキドキしていると、桐ヶ谷くんが話し始めた。
「高橋さんも、見たんだよね?あの夢」
「うん、『予知夢』…だっけ?」
私が尋ねると、彼はうなづく。
「そう。さっきも言ったけど、ただの夢ではないと思う」
「私も...そう思う」
桐ヶ谷くんがこっちに首を向けて、じっと私を見てくる。
その瞳がすごく綺麗で、また心臓が跳ねる。
「高橋さんは、どんな夢だった?」
「えーっと、私の見た夢は...」
説明が下手な私の話を、桐ヶ谷くんは最後まで、静かに聞いてくれる。
こういうところ、好きだなぁ…
と、再確認してしまう。
私が話し終わると、彼は口元に手を当てて、ゆっくりうなづく。
「なるほど。俺の夢と、視点が違うのか」
「視点…ってことは、もしかして」
「うん。告白をしてた側…多分、『未来の俺』じゃないかな」
未来の桐ヶ谷くん…そのことを、桐ヶ谷くん本人の口から聞くと、すごく現実味がでてくる。
でも、もし本当に、あれが『予知夢』なら。私は失恋確定だし、何より…桐ヶ谷くんは、無事じゃない、よね?
そんなの…
「…嫌だ」
「え?」
目を見開く桐ヶ谷くんを、私は真っ直ぐ見る。
彼の顔が、夢の中の…未来の桐ヶ谷くんと重なって、ズキリと胸が痛む。
「私、桐ヶ谷くんを救いたい。未来を…変えてでも」
桐ヶ谷くんはもっと目を大きくしてから、ゆっくりとうなづく。
「未来を変えられる方法があるなら…俺だっ て、救いたい」
「…救いたい?」
首を傾げてから、私は思い出した。
あれは桐ヶ谷くんが告白する未来だった。
ってことは桐ヶ谷くんは、告白される誰かを救いたいって言ってるんだ。
そう思ったら、心臓がぎゅっと痛んだ。
うう…やっぱりこれって、遠回しの失恋だよね!?私、立ち直れるかなぁ…
私がすっと目を伏せると、桐ヶ谷くんが口を開いた。
「高橋さん、一緒に未来を変えよう」
桐ヶ谷くんは、にこっと微笑む。初めて真正面から笑顔を見た気がして、鼓動が早くなる。
でも、桐ヶ谷くんが、私を通り越した誰かを見ている気がして、振り返る。
でも、誰もいない。
「…?あ、もしかして、幽霊とか…」
青ざめる私に、彼は大きなため息をつく。
「わからないな...なんで俺は高橋さんなんかに…」
「え?」
なんか、すごい幻滅されたような気がする!?
高橋さんなんかって何!?
私何かしたっけ?
「いや、なんでもない」
「ええ??」
すごく聞きたかったけど、目を逸らされてしまって、これ以上何も聞けなかった。