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8.自分の弱さを自覚します

一応、用語解説です。

オルタリング:竹取物語内で使える固有能力の総称。厨二病の如月が名付けた。如月は”月光”。柊は”月食”。

 イッシーの”仏の御石の鉢”を見つけて満足してしまっていたが、まだまだやることは残っていた。そもそも、五人の貴公子の求婚のうち、成功させることができたのは現時点では一人だけ。「全員の求婚を成功させてみせます」と豪語した以上、あと四人分の要求されている宝物を見つけなければいけないのか。


 そう考えた瞬間、悪寒が立った。竹が揺れてさわさわと音を立てている。”仏の御石の鉢”の場合、なぜか俺たちと同じ転移者である奴が持っていたので、何とかなったが......ほかの宝物の場所は全く想像がつかない!どうすればいいんだよおお!


「あ、あのー......いきなりですみません。僕はかぐや姫へ求婚した五人の貴公子のうちの一人、クラモチノミコといいます!かぐや姫からは、”蓬莱の玉の枝”を要求されています!」


 ”蓬莱の玉の枝”。竹取物語の原文によれば、はるか東の海に位置する「蓬莱山」に存在する、根は白銀、茎は黄金、実は真珠でできている木の枝のことだ。


 だが、そもそも「蓬莱山」がどこにあるのかもわからない。「蓬莱山」を見つけることができたとしても、本当に”蓬莱の玉の枝”があるのかはわからない。こんなの......無理じゃないか!まあ、だからこそかぐや姫は要求したんだろうけど。



「モッチーさん......単刀直入に言わせてもらいますが、僕たちには到底出来っこな――」


「ちっちっちっ......如月君はあだ名をつけるセンスってものがない......○っ○ーって形のあだ名だと、イシヅクリノミコさんのイッシーと被るでしょ?だから、ここはモッチーじゃなくて、モッチンの方が適していると私は思うの!」


 柊が眩しい視線でこちらを見つめてくる。さっきまで体調を悪そうにしていたのが、嘘のように元気になったな。まあ、やかましさが戻って少し安心した。俺のハッピーエンド主義を壊そうとしてくる、例の転移者については後々考えることにしたんだろうな。まずは、目の前の問題を解決することが最優先だ。



「モッチンというのは、もしかして僕のことでしょうか......あだ名で呼ばれるのは初めてなのでどのような反応をすればよいのか。まあ、悪い気はしませんね!」


「そしてモッチンさん!さっき如月が言いかけてたんですが、私たちには蓬莱山の場所が分かりません。ですので、”蓬莱の玉の枝”を探すのは現時点では無理です。しかし、あなたが蓬莱山の位置を調べてくれれば――」



「あー、知ってますよ。ここから船で一時間ほどです」


「は?」


 うーん?今聞き捨てならない言葉が聞こえたような......だって、竹取物語でイシヅクリノミコは蓬莱には行かず、偽物と作り話を用意してかぐや姫を欺こうとした。それは、蓬莱山の位置が分からないからだと思っていたのだが......こいつは今、場所を知っていると言ったぞ?嘘かな、嘘なんでしょ。嘘だと言ってくれよ!?


「あれ?聞こえませんでしたか。蓬莱山の場所はよーく知っています。なんなら、僕の生まれた場所でお母さんとお父さんがいるんですよー......」


「なら、何で”蓬莱の玉の枝”の偽物を作ろうとしたんですか!?場所が分かるなら、一人で取りに行けばいいじゃないですか!」


「なぜそれを君が知っているんだい!?......いやー、如月君っていうのかな?君は勘が鋭い子だ!でも、僕が取りにいかない理由までは分からなかったみたいですねー......そう!僕が取りにいかない理由はただ一つ!」


「ごくり......」


 これは竹取物語でも記されていなかった、クラモチノミコが”蓬莱の玉の枝”を偽物で代用しようとした、本当の理由。それを俺と柊の二人が聞くことができるんだ。歴史的快挙を、目の当たりに!......



「家族と顔を合わせるのが気まずいんですよー!あはは!」


「は?」


「いやね、僕の生まれである蓬莱山は仙人の住処なんです。ですから、あそこで生まれたものは修行と鍛錬を積んで、仙人にならなくてはいけないのです。実際、僕のお父さんとお母さんは仙人なんですよ!でもー......僕逃げ出してきちゃったんです。修行と鍛錬が一週間ほどで嫌になっちゃって......だから、顔を合わせずらいんです!わかってくださいよおー!」


 竹取物語にでてくるクラモチノミコが、”蓬莱の玉の枝”を偽物で代用した本当の理由。それは、クラモチノミコの生まれが蓬莱山であり、修行から逃げてきて、実家である蓬莱山に帰りづらいから......


 いや、バカみたいな理由すぎる!もっと、神秘的な理由を求めてたんだけど!?例えば、あそこには天人が住んでいてなかなか近づくことができないとかさ、そういうのを期待してたってのに......ただの実家に帰りずらい息子かよ!


「ちょ、ちょっと待ってくださいモッチン。なら、部下たちを蓬莱山まで送ればいいじゃないですか。あなた自身が親に顔向けしにくいなら、部下に全部任せれば......」


「僕もそうしようと思ったんですけどー......それが無理なんです。蓬莱山はあくまで伝説上の山であって、一般人に存在していることを知られたら困ります。仙人たちの修行や鍛錬に支障が出ますからね。親から口酸っぱく言われ続けました。あはは......」


 なるほど、だから竹取物語では蓬莱山の位置を知らないかのように描かれていたんだ。決して、一般人にはそのことを知られてはいけない......って俺ら一般人ですよね。この人矛盾タイムアタックしてませんか?大丈夫ですか?


「じゃあ、何で僕たちにはそのことを教えてくださったのですか。僕たちは一般人――」


「君たちは一般人じゃありません!だって”仏の御石の鉢”を手に入れることができた。あれは、蓬莱山の仙人でもなかなか手に入れることができない代物なんですよ。蓬莱山の仙人の中で、熟練度が極めて高い、限られた一人しか持てないんです。代々、受け継いでいます。今の代は......イシヅクリノミコの護衛である、隊長のはずです」


 あの隊長も蓬莱山生まれだったのか!?しかも蓬莱山の中で、一番強い仙人であったみたいだな。だから、隊長にオルタリング”憑依”を使ったあの転移者は、”仏の御石の鉢”を持っていた......というわけだ。


「あの隊長の名前は、知らないんですけど......蓬莱山の中の仙人同士の決闘で負けたことがないそうなんです。そんな彼に君たちは勝ったんでしょう?むしろ、恐怖すら感じてますよ!」


 いや、俺らは例の転移者に憑依されていない隊長には勝てなかっただろう。きっと、隊長はもっと強かったんだ。でも、オルタリング”憑依”で体を乗っ取られた隊長は、正直めちゃくちゃ弱かった。剣の振り方も、重さに手が取られるような感じで、隙も多少見えた。


 きっと、例の転移者のオルタリング”憑依”は、あくまで対象の体を一時的に乗っ取るだけであって、対象者の能力などは引き継げないのだろう。つまり、俺たちが戦ったのは一般高校生。最強の仙人ではなかったんだ。


 ――でもそれを説明することはできないんだよね!俺たちは最強の仙人に勝った二人の子供ってことになってるんだよね!最悪だ!


「い、いやー、私の方は何もしてませんよー?そうだ、そうです!そこの如月君って子が隊長を倒したんですよ。私は怖気づいちゃって、何もできませんでしたー」


「てめえ柊!自分だけ面倒ごとから逃げてるんじゃねえぞ?そういえば、こいつは”月食”という技を使うことができるんですよ。僕なんかより全然強い能力でー......困りますよー!あはははは」


 そこから数分ほどお互いのことを褒め合い続けた。相手のことを貶めたいがあまりに褒め合うだなんて、今までにあっただろうか。”最強の仙人に勝った、真の強者”という名誉ある称号をお互いに譲り続けた。面倒ごとに巻き込まれたくないから。



「お二人とも、この名誉を謙遜して譲り合うとは......心まで綺麗な方たちなのですね!この際、二人とも蓬莱山まで連れていきましょう!最強が二人いれば、怖いものなしです!」


「なんでよおおおおおおお!私やだあああああああ!」

「俺は物語の結末を改変できるなら、良いような気がしてきたわ。それがそもそもの目的だったし」


「え!マジ?私の代わりに行ってくれるの?」



 柊が期待を込めたような目でこちらを見つめる。この、自分が楽しい話題の時だけキラキラを送ってくる癖止めてくれねえかな。正直、めちゃくちゃ眩しいんだけど。


 まあ、その期待に応えることにはなる。俺の目的は竹取物語の結末の改変だし、蓬莱山に行くことを断る理由はないな。それに対して柊は、元の世界に帰ることが目的だから、わざわざ蓬莱山に行く必要はない。柊がいた方が安心だが、無理に連れて行くのは気が引けるな。


「ありがとう如月、じゃあ私、かぐやの朝ごはん食べてくるから!夜までには帰ってくるのよ!」


「え!?柊さん蓬莱山行かないんですか!?でも、もう無理ですよ!転移術の準備が整ってしまいましたあ!すみませーん!」


「え?」


 気づけば、俺らの下に魔法陣が展開されていた。しかもモッチンは転移術と言ったから、これはテレポート系の魔法陣?蓬莱山生まれの仙人にはこういった能力が使えるのか......やっぱり、俺らより断然強いじゃん!


「ごめんなさい、柊さん!あと数秒後に蓬莱山へと転送されますう!この術は途中で解除することができないんです。魔法陣の上に乗っているものは、無条件に転移されます!」


「なんでこうなるのよおおおおおおおおおおおおおお!」


 ――柊の悲鳴とともに、辺りが光に包まれた。体が浮く感じがする......転移しているのか?




「......如月君と、柊さん。いったいどこに行ったんでしょうか。私、かぐやが直々に布団をはがしてあげたのにいないなんて、失礼すぎます!朝からデートなら、私に言ってくれたっていいじゃないですか!」


「まあまあ、かぐやよ。二人もまだ若い。あやつらの恋を陰ながら応援するのが、わしらの役目じゃ。そこまで首を突っ込む必要はありゃせんよ」


「それはそうですけど......朝食も食べに来ないし!せっかく木の実を使ったタピオカミルクティーと、ドラゴンフルーツを使ったマリトッツォを作ったのに。如月さんの”外来語を使うな”って謎のツッコミがないと満足できません!」




 そのころ、俺たちは蓬莱山の入り口にいた。辺りの光が弱まると、目の前に富士山よりも大きい綺麗な山が見えてきたのだ。それよりも、隣で文句を言っている柊の方が気になったのだが......


「あー!なんで私が蓬莱山に来てるのよおおおおおお!私は行きたくなかったああああああ!」


「すみません、すみません!それほどのお力があれば、安心して親と顔合わせができるかと思って、無理やり連れてきてしまいましたぁ!本当にずびばぜん!」


 モッチンは涙目になりながら柊に謝っていた。まあ、元はといえば”蓬莱山に行きたくない”とはっきりと意思表明をしなかった柊が悪いと思うけどな。それに、俺の手伝いをすると言ったんだし、蓬莱山に無理やり連れて行くのも妥当か。


 そんなことを考えていると、山の麓に眩い光が降ってきた。次から次へと、何なんだ?この世界は。普通の日本が舞台となっていると思っていたのに、ファンタジー異世界みたいじゃないか。さすが、”世界最古のSF小説”と称されるだけあるな。


「この光は......まさか!」


 モッチンが足を震わせている。まさか、この光は天人なのか!?確かに、竹取物語内の世界でクラモチノミコはかぐや姫にこう言った。”山中から天人の服装をした女が出てきた”と。あれが、作り話ではなく実話であるとするのならば――


「ようこそ、蓬莱山へ。私の名前は”うかんるり”。蓬莱山の案内人を務めております。お客様の数は三名ですね?右から、女子、男子、男子......ってお前!クラモチノミコじゃないか!」


「ひ、ひい!ごめんなさい!」


 天人の”うかんるり”さんは、モッチンを見た瞬間、態度を豹変させて怒鳴りつけた。でも、本当に綺麗な人だな。怒ってる姿も美しいー......


「ゴミラギ君ー?なに見惚れちゃってるのかな?すぐ横に美少女がいるというのに?ねえ、こっち向いてよ。ねえ、ねえ!」


 やっぱり、女性って恐ろしい。外見がどれだけ美しくても、可愛くても。男を怒鳴りつける時はみんな一緒なんだな。なんか安心したよ。


「ところでモッチン。”うかんるり”さんはどういったご関係で?」


「幼馴染です......家が隣同士で家族ぐるみで仲が良く、昔はよく遊んでいました。しかし、中学生になって修行と鍛錬が始まってから、僕の方が逃げ出してしまいましてね。そこからは連絡が途絶えていて、気まずい関係って感じです」


「あー、僕と柊の関係と似てるんですね。僕も柊とは幼馴染なんです。でも、中学生になってからは柊が冷たくなっちゃって。そこからは喧嘩が絶えない日々って感じです!ほんと、外見だけで内面は短気な女って嫌ですよね」


「おお、如月君は分かってくれるんですか!ほんとにそうです!毎日困らせられますよー。あはは......」


 モッチンとは気が合いそうだ!心の友って感じがするし、俺と似たような性格をしている。本当に短気な女ほど面倒くさいものはないよな。そう思っている人が俺以外にもいてよかったぜ。よし、このまま二人で食事にでも――


「クラモチノミコ......」


「ゴミラギ......」


「「いい加減しろや!このクズがー!」」


 それから、俺とモッチンは数分間ぼっこぼこの刑に合った。最後まで、似た者同士だった俺ら。来世は、現実世界で友達になれたらいいな。そんなことを考えながら、ゆっくりと意識を失った。

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