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4.物語の結末を変えるために動き始めました

 さすが竹取物語の世界といったところだろうか。満月が現代の日本と比べて桁違いに綺麗に見える。あそこから月の使徒がやってきて、かぐや姫を月の都まで連れていく......めちゃくちゃワクワクする話じゃん!まあ、結末には断じて納得してないけど。


「それにしても、月が綺麗だなー」

「!?!?!?!?!?」


 俺がそう口にした瞬間、柊が慌てふためいてしまった。まさか、月が嫌いだったのか?こんなに綺麗な月を嫌いだなんて、どんな逆張り狂犬なんだこいつは。顔を真っ赤にして......そんなに俺の発言が気に入らなかったのか。やっぱりこいつとは馬が合わない。


(今、翔也はこう言ったわよね。「月が綺麗だな」って!夏目漱石先生が言っていたわ。月が綺麗って言うということは、I love youを意味する......つまり私のことが好きってこと!こんな状況になんでこいつは告白してきてるのよ......は、嬉しすぎてついついニヤケが止まらなくなってきたわ。そして、私はこの前ネットで見たことがある。「月がきれいですね」に「死んでもいいわ」と答えるのが正解だということを。何かよくわからないけど、「死んでもいいわ」は、I love you too......つまり、私も好きってことと同じ意味らしいの。翔也にいつ言われてもいいように用意しておいてよかった!よし、言うぞ柊!頑張れ柊!)


「し、しぬ、死ぬのがいいわ......?」

「どうした?お前病んでるのか?別に月が綺麗でも死ぬ必要はないだろ」


「そうね、お前が死んだほうがよかったわ」


 それから俺は数分間ぼっこぼこにされた。別に悪いことは言ってないのに。ただ、綺麗な満月を眺めていただけなのに。本当に世の中というものは理不尽である。急に「死ぬのがいいわ」なんて願望を言ってくる病んでる狂犬も近くにいるし......


「さて、如月を殴る手も痛くなってきたしそろそろ作戦会議を始めましょう」


「何そのDV彼氏みたいなの。殴ってる手の方が痛いんだよ!ってやつと同じニュアンスだろ。まあいいや、作戦会議つっても何すんのよ」


「この世界からどのようにして抜け出せばいいのかを話し合うのよ。精神年齢赤ちゃんの如月君にも理解できるでしょ」


 うーん、学校の定期テストでは俺の方が好成績なんだけどね。だって、柊さんは定期テストの点数が学年ワースト10に入ってるから!それに、俺はこの世界を終わらせる方法を一つ思いついている。ここが竹取物語の世界である以上、あれが起これば......


「”めでたしめでたし”、つまりこの物語が幕を閉じればいいんだ」


「幕を閉じる?」


「例えば、ここは竹取物語の世界だろ?だから、かぐや姫が月に帰るというイベントを終わらせれば竹取物語の世界は幕を閉じる。そうすれば、俺たちもこの世界から元の世界、つまり現代へと転送されるのではないだろうか......と考えたんだ」


 ただし、この方法には一つだけ難点がある。この難点がかなり大きいので、この策はほとんど通じないといっても過言ではない。俺は別にいいのだが、柊が気にするだろう。


「ちなみにさ、竹取物語の世界が幕を閉じるまでどれぐらいかかるの?三日とか?一週間とか?一ヶ月は流石にないかー!」


「三年です」


「は?」

「三年です」


 そう、かぐや姫が翁に育てられ、八月十五日の夜に月に帰るまで三年かかるのである。つまり、俺たちはこの方法で帰るとすると、少なくとも三年この世界の中で耐えていくことになってしまう。しかも、この方法で本当に元世界へ帰ることができるのかも怪しい。物語が閉じたとしても、俺たちはこの物語の中に閉じ込められてしまうのではないだろうか......そんな不安も頭によぎっている。


「三年って......いくら何でも長すぎない!?そんなに長い間学校に行けなかったら先生や友達に心配されちゃうよ......というか、親!もう捜索願とか出されてそうなんだけど。どうしよう......」


「そっか、柊は箱入り娘のお嬢さんだもんな。両親も心配していることだろう。三年も娘が行方不明になったら海外まで探しに行きそうな親御さんだもんな」


「くそぉ......それをあながち否定できないのよね」


 そういえば、今頃学校ではどうなっているのだろうか。俺たちが休み時間に突然消えてしまったのだ。大事になっていてもおかしくない。先生にも親にもかなりの迷惑をかけているだろうな......



 ——一方、そのころ学校では


「せんせーい!如月君と、柊さんがクラスにいませーん!」


「何だと!あの二人......まさかサボりで学校から抜け出したのか!?俺の数学の時間に抜け出すとは......いい度胸してる奴らだな。しっかりと補習プリントを用意しておこう」


 俺らはサボり扱いされ、補習プリントまで用意されてしまっていた。




「で、どうするのよ。三年なんて待ってられない、でもそれ以外に帰る方法はない。私たち詰んでるんじゃない?」


「別に俺は待ってられるんだけどな。まあいいや、ほかの方法でも模索するかー......いや、もう寝ようか。結構夜遅くになってきてるしな。明日もまた慣れない忙しい一日になるだろうし、体を休ませたい」


「それもそうね。実は私も結構眠かったし、もう寝ることにしましょう。さあ、寝室まで競争するわよ!」


「しないけどな」


 俺たちはそんな一抹の不安を抱えながら、ゆっくりと眠りについた。まあ、柊のいびきがうるさすぎてなかなか寝付けなかったんだが。俺も三年は無理な気がしてきた。





「もう朝ですよお二人とも。いつまで布団の中でひきこもってるんですか......そろそろこの朝の儀式にも慣れてきてしまいましたよ」


 朝から起こされるなんて久しぶりだ。柊か?にしては声の感じが違うような......おばあさんか、お爺さんが起こしに来てくれたのかな?いや、それも違う。あの二人はこんなに若々しい声じゃない。じゃあいったい誰なんだ——


 俺が目を覚ますと、そこには綺麗な服を着た少女が立っていた。その姿はとても可憐で美しく......数秒間見惚れてしまった。まるでかぐや姫のような......ってかぐや姫!?


「ま、まさか......かぐや姫なのか?」


「そうですけど......いきなり改まって何ですか如月さん。もう私たち三ヶ月ほどの付き合いですよね?そんなに見つめられると照れちゃいますよー。それに、かぐや姫って呼ぶのもやめてください。かぐやと呼べとこの前言いましたよね!」


「あ、ああ」


 おかしい。昨日までかぐや姫は三寸ほどの大きさだった。なのに、もうこんなにも成長しているだなんて。しかも、彼女は俺と三ヶ月の付き合いがあると言った。状況をうまく飲み込むことができない。とりあえず柊を起こそう。


「あ!あそこに石油の温泉がある!柊、早く起きないと取られちゃうぞー」


「どこよ!どこどこ!私のものよ!」


「はい、起きた」


 金には容赦がないなこの女は。さすがの俺でもこんなにがめつくないぞ。俺は柊の布団を引きはがした。服とかはいつも通りの制服のようだ。さすがにこの時代に合わせた服を着てみたいな。


「もう、朝からビックリさせないでよ......ってそこのべっぴんさんはどなたですか?」


「柊さん、いつまで寝ぼけてるんですか。私はかぐやです。いつになったら名前を覚えてくれるのですか?」


 柊も俺と同じみたいだな。しかし、かぐや姫は俺らのことを知っている、なんなら三ヶ月の付き合いがある前提で話を進めてくる。ここから導き出される答えは。


「あー、柊がいつもごめんねかぐや!俺ら今から朝の散歩行ってくるから。朝ごはんは後でいいよ!」


「うふふ、お二人はやっぱり仲がよろしいんですね。朝からおデートなんて......私憧れちゃいますわ!」


「で、で、で、で、デートなんかじゃないわよ!私が如月とデートなんてぇ......絶対無理!無理無理無理無理......」


 なんで朝から俺はこんなに拒絶されなければいけないのだろうか。俺は前世に世界でも滅ぼしたのかな?それぐらいの天罰を毎日受けている......俺は上を向いて涙をこらえながら、柊と外へ出かけた。この涙は、怒りや悲しみなんかじゃない。多分、悔しみだ。



「いつまで泣いてんのよ......朝は言い過ぎたと思ってるから泣き止んでくれない?」


「別に泣いてねえよ......目が水分補給をしたいと言っていたから水を与えてやっているんだ。それよりも、今の状況について整理しよう」


「あんたが泣いてるから整理できなかったんだけど......まあいいわ。まず、私たちが話し合うポイントはズバリ一つ。時間が勝手に進んでいるということよ」


 そうだ、昨日俺たちは確かに竹取物語の世界へ転移した。そして、かぐや姫はまだ三寸ほどの大きさで、物語は始まったばかりだった。しかし、目覚めたらかぐや姫はもう成長しきっていたのだ。俺らが三ヶ月間眠っていたというのも考えられるが、それだと辻褄が合わない。なぜなら、かぐや姫は俺たちの三ヶ月の付き合いがあるかのような言動だったから。ということは......


「物語の強制力といったところだろうか」


「強制力?」


「竹取物語では確かにかぐや姫が三ヶ月かけて成長したと記述されている。だが、その三ヶ月間について詳しく明記されていないんだ。"かぐや姫は三ヶ月もたてば成長しきって......"のように一文で場面を飛ばすように描かれている。だから、その三ヶ月間は空白になっているはずだ。しかし、その三ヶ月間が存在したかのように竹取物語の時間は進んでいくんだ。俺たちはそんな物語の強制力によって、その空白の三ヶ月を過ごしたことになっている......ということだな」


「なるほど......そういうことだったのね。それはまるで将棋みたいじゃない!」


「お前理解してないだろ。まあ、とりあえず俺らは寝ている間に三ヶ月後にタイムスリップしたってわけ。まあ、帰るまでの時間が短くなったから良かったんじゃないか?」


 確かに三ヶ月の短縮には成功した。しかし、これから竹取物語にとって最大のイベントが起こる。このイベントをどのように潜り抜けるか......いや、このイベントをどう利用するかだ。このイベントでの俺らの行動によって、物語の結末は大きく変わる。物語改変において最も大切な期間に入る。


「ふへへ......ふへ!」


「どうしたのよ如月。笑い方がくそキショイんだけど」


「柊、お前は違うかもしれないが、俺は竹取物語の世界にきてメリットが一つある。それは物語の改変、リライトができるってことだ。俺は今から、物語の改変のために動く。まずは一つ目のイベントだ」


「はあ......さすが授業中におとぎ話の結末に納得がいかないからって奇声を上げる変人ね。いいわ、私も少しは協力してあげる。一度見たことがある結末をたどる数日間も飽きちゃうと思うし。で、そのイベントってのは何よ?」



 そう、そのイベントとは。



「五人の貴公子からの求婚だ。そして俺はその五人の求婚を成功させる。もちろん、全員な」

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