15.午前0時13分
今回はイレギュラーなモッチン(クラモチノミコ)視点です、如月視点は次回から!
「はーあ......本当に今日は忙しい一日だったなあ」
自分の部屋のドアを開けて早々、ベッドに寝っ転がり体の力を抜いていく。机の上に置いてある蓬莱の玉の枝を見ると自然と笑顔があふれてきた。如月の意味の分からないツッコミを思い出したからだろうか。その次に時計に目をやると、気づけば午前0時を回っていた。如月たちが帰ってからもうそんなに時間が経ったのか。
「しかし、なかなか今夜は眠れないな。久しぶりにはっちゃけすぎただろうか」
僕はとりあえず夜風にあたることにした。ドアを開けてリビングを通り、そこから家の外へと出る。昔も眠れないときはよく夜風にあたっていたことを思い出した。
僕は昔と違って結構変わってしまったかもしれないが、夜空は全く変わらず僕の前で佇んでいた。無数の星々が夜を照らし、綺麗な満月を引き立てているように見えた。それを見るのが、僕の一番好きな時間であったりする。
「いやー本当に星は綺麗だよな。見惚れてしまうのも無理ない」
「分かる分かる!私もそう思うよ!」
「お、お前もよく分かってるじゃーん......ってうかんるり!?まだ寝てなかったのかよ」
独り言をぽつりとつぶやいた瞬間、背後から突如としてうかんるりが現れた。心臓が飛び出るかと思うほどびっくりしたし、独り言を聞かれたという羞恥心も僕を襲ってきた。本当にこの幼馴染は厄介な奴だ。
「いやはや、私もなかなか寝れなくってさ。昔みたいに夜風にあたろうかなって思ったらクラモチノミコがいたってわけよ!」
「そうか、僕たち二人でよく夜に待ち合わせしてたもんな。なんだか懐かしいよ」
うかんるりが急に一言も発さなくなる。冷たい風が僕の体に当たり、木々はざわめきはじめた。その場の空気が一変した。そして、沈黙を破る一言。
「クラモチノミコってさ、明日にはもう都の方に行っちゃうの?」
「.......そうだなぁ。蓬莱山の方にはあくまで”蓬莱の玉の枝”を取りに来たわけだし長居する理由も特にないね。なんだよ、寂しいのか?安心してって、僕はいつでも帰ってくるし、ちょっと暇になったら――」
「好きだよ。クラモチノミコ。ずっと昔から、今も」
風の音が止まった。そして、うかんるりは僕の目をじっと見つめてはにかみながら笑っていた。満月が僕らのことを照らして。二人きりの時間みたいだった。
「え、あ......」
「本当にクラモチノミコは鈍感で困っちゃうんだよね。こちとら保育園の頃からずっと好きだったっていうのにさ。色々とアピール頑張ったんだよ?」
彼女の雰囲気はいつも通りのはずなのに。でも、僕は、
「でさ、私の告白にどう応える?幼馴染からの告白だよ」
心臓の鼓動が早くなる。どくどくと流れて痛む。
僕は、僕は。彼女の告白に、
「ごめん。君の期待に応えることはできないよ」
「っ!......」
うかんるりが一瞬見せた表情は、どこか切なく淋しかった。でもそんな自分を隠すかのように、うかんるりはすぐに笑顔で取り繕った。
僕の心臓は鳴りやまなかった。痛くて、痛い。
「......なーんだ。やっぱりそうだったかー。まあ元々勝ち目のない勝負みたいなもんだったし」
「まさか知って――」
「知ってるに決まってるじゃん。”蓬莱の玉の枝”を取りに来た理由は、都一番の美人の”かぐや姫”への求婚を成功させるためでしょう?仙人の勘みたいなもので分かっちゃうっての。あんたに好きな人ができるなんて信じられなかったけどね」
彼女は僕から顔を背けて星空を見つめていた。そして手を満月にかざして、
「はーあ、十数年間の私の初恋は今日で終わりなんだね。やっぱり私の手は届かなかったみたい」
「......じゃあ、俺はもう寝るわ。体冷やさないようにな」
「なんでクラモチノミコにそんな心配されなきゃいけないのよ。君は私のお母さんかなんかなの?」
僕ら二人は少しの間笑いあって、僕はその場から立ち去った。静かな夜に玄関のドアの開閉音だけが鳴り響いた。うかんるりは僕にはついてこなかった。何か喋っていたようだが、聞こえなかった。
「......好きだよ。本当に大好きだよ。クラモチノミコ」
「......ははっ。なんで涙なんてあふれてきちゃうんだろうなぁ。クラモチノミコの前では隠しきれたのに、一人になった瞬間に出てくるなんてずるいよね......ああ、本当に。ずるいよ。」
「私はあなたのことが好きでした。幸せになってください」
午前0時13分だった。
続きが気になる!面白い!って思ったら、ぜひお試しでもいいからブクマと評価お願いします。これからもジャンジャン投稿していきますよ。(あと今回は字数少なくてすみません......)