34.野坂純平は気づいた
今回の話を読む時は気をしっかり持ってお願いします(警告)
郷田晃生は危険人物……。俺が最初に抱いた印象は正しかった。
「ううぅ……。こんな、ひどい……こんなことがあっていいはずがない……っ」
大きすぎる被害を受けてから、俺はそのことにようやく気付いた。
気づくのがあまりにも遅すぎた。郷田に日葵を奪われ、彼女らしくない言葉が俺の心を抉る。その痛みで郷田の本性に気づいたころにはすべてが終わっていたんだ。
そう、すべてだ……。日葵は俺のすべてだったのに。ずっと昔から好きな女の子だったのに!
「日葵が……俺に、あんなこと言うはずがないんだ……。ないんだ……あり得ない……っ」
涙がとめどなく流れる。全身が悲しみに支配されていた。
郷田と日葵が去ってからも、俺は階段の踊り場で立ち尽くしていた。壁に顔を押しつけて、現実を否定しようと額を何度も壁に打ちつける。
けれど夢から覚めることはなくて……。じんじんとした鈍い痛みが、これは現実だと突きつけてくるようだった。
「あの嘘つきが悪いんだ……。俺を油断させて、その隙に日葵を……なんて卑怯な……っ」
あの凶悪面を思い浮かべるだけではらわたが煮えくり返る。
郷田は確かに約束したんだ。日葵には手を出さないって……。少しは優しい表情をしていたものだから信じてやろうって思っていたのに……っ。
「クラスで孤立していたから、こっちは不憫に思って優しくしてやったのに……っ」
恩を仇で返された。厚意を踏みにじるなんて人間のすることじゃない。
クラスのみんなが郷田を怖がっている。そんな奴に恐れを抱かずものを言えるのは俺だけしかいない。
だから俺は郷田に誘われるまま勉強会に出てやった。あのクソ音痴相手でも一緒にカラオケで盛り上げてやった。
そんな俺の優しさを踏みにじりやがった。これが不良のやり方か。いや、これはもう詐欺師のやり口だ。
「詐欺師……騙された……?」
そこで俺は気づく。そうだ、日葵は騙されているのだ。
日葵は優しくて思いやりのある女の子だ。俺のことを一番に考えてくれて、いつだって俺のために行動してくれていた。
もしかしたら俺に危害が及ばないように、危険人物の郷田に接触したのかもしれない。奴を抑えようとして、逆に騙されてその身を蹂躙されてしまったのだ。そう考えれば納得できる。
「そうか……。それなら、すべてが繋がる……日葵があんな風になった辻褄が合う!」
日葵が俺に向けて放った言葉の暴力。普段なら絶対に口にしないはずだ。
でも、それが郷田に強要されたものならどうだ? それなら日葵が言ったとしても仕方がないのかもしれない。
あれだけひどいことを言ったのだ。きっと心の中で泣いていたに違いない。日葵は俺が心配でたまらないだろう。
「また、気遣われてしまったんだな……」
それだけに、こんなことになるまで気づけなかった自分を許せない。
日葵は傷ついている。きっと自分を責めているに違いない。俺の幼馴染はそういう女の子だから。
「……でも、やり方を間違えすぎだ」
俺のためとはいえ、その身を犠牲にするだなんて間違っている。せっかくの綺麗な身体が台無しだ。
日葵は汚れてしまった。勃たなかったと言われたが、それこそもうそんな風に日葵を見られるか自信がない。
「……いや、今度は俺が日葵を気遣ってやる番だよな」
郷田に寄り添う日葵の姿が脳裏をよぎる。怒りが込み上げてくるとともに、ムスコがムクムクと立ち上がった。
日葵はもう処女ではないのだろう。郷田に純潔を散らされてしまった……。ただの哀れなビッチに成り下がってしまったのだ。
そこまでして俺を守ったのだ。だったらこれからも俺に奉仕するしかない。それしか、日葵に生きる道はないはずだ。
股間が熱く滾る。汚れた彼女を受け入れる。それが俺の気遣いだった。
「……なら、どうする?」
郷田は俺の大切な日葵を汚したのだ。ただ恥をかかせるだけでは済まされない。済ましていいはずがない!
「……そもそも、あんな危険人物が学校にいたからいけなかったんだっ」
あんな奴は学校にいていい人種じゃない。郷田の存在そのものが間違っている!
郷田晃生という男がいる限り、女子はずっと危険にさらされているようなものだ。なら、危険を排除しなければならないだろう。
少し痛い目に遭わせるだけじゃダメだ。孤立させるだけじゃあ強引な手段に出る可能性を高めるだけだ。それではなんの解決にもならない。
やるなら徹底的に。郷田を学校へ来られなくするような……。学校から追放できれば最高の結果だ。
「……そうだ。郷田を退学させればいいんだ」
先生だって郷田のことを嫌っている。いや、まずあいつを入学させたこと自体がいけなかったんだ。これは学校側の責任と言っていいだろう。
間違えた判断をした大人のせいで、俺は被害を受けた。ちゃんと働かなかった先生に代わって、俺の手で正義を行ってやろう。
「……これは、正義の執行なんだっ」
郷田への憎しみが膨らんでいく。この怒りを抑えられそうにない。それだけ、日葵への気持ちが強かったのだ。
この俺を本気で怒らせた。その罪は万死に値する。
地獄に落ちてから後悔したってもう遅い! 俺を怒らせたらどうなるか……。その腐った脳みそでもわかるように、その身に叩き込んでやる!
「あ、あの……野坂くん、ですよね? こ、こんなところでどうしたんですか?」
女子の声に振り返ってみれば、クラスメイトの黒羽梨乃が心配そうにこっちを見ていた。
「午後の授業に出ていなかったですけど、大丈夫なんですか? なんだか目が怖いですし……保健室に行ったんですか?」
「……午後の授業?」
「はい。もう放課後なんですけど……」
郷田をどうしてやろうかという考えに没頭していたせいで、チャイムの音にも気づかなかった。授業を欠席してまずいとは思ったけど、郷田をなんとかする方法を考える方が先決だ。
「ねえ黒羽さん」
「は、はい?」
黒羽さんは日葵の中学の頃からの親友だ。
つまり、幼馴染である俺も黒羽さんと話すことが多かった。彼女なら協力者として信頼できるだろう。
「……」
「あ、あの……なんですか?」
俺に見つめられているのが恥ずかしかったのか、黒羽さんは身をよじる。
今まで日葵のことばかりで、黒羽さんのことをよく見てあげられていなかった。じっくり観察すると、眼鏡をかけて地味な印象ではあるが、顔立ちは整っている。
それに、小柄ながらに胸がでかい。よく見れば日葵に負けないくらいの巨乳じゃないか。
隠れ美少女ってやつか。魅力的なスタイルなのに、男っ気を感じさせない態度がとても良いと思えた。
「日葵を助けるために、協力してほしいことがあるんだ」
俺は笑って切り出した。口元から「ニチャァ」と粘着質な音が聞こえたが、たぶん気のせいだろう。
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