142.鈍感になれない竿役
十羽夏をさらったガラの悪い男どもは夏樹に任せて、俺たちは羽彩たちと合流した。
「お姉ちゃああああぁぁぁぁぁぁんっ!」
「十羽夏! 無事で良かった……むぐっ」
大きな妹に勢いよく抱きつかれる羽彩。顔が爆乳に埋まって、姉の方がピンチに見えるぞ。
「羽彩ちゃんの妹さんって……大きいのね」
「お、大きいですね……」
日葵と梨乃は羽彩の顔を包み込む爆乳に釘付けだった。目線を逸らすとかさ、もうちょっと隠す努力をしろよ。
それから二人して自分の胸に両手を当てて、無駄に考え込んでいるような顔をする。君らも充分巨乳なんだから比べるんじゃありません。
「ぷはっ。コラ十羽夏っ。落ち着きなさいっての」
「だって、だってぇ~~」
えぐえぐと泣いている妹を慰める羽彩は、ちゃんとお姉ちゃんってやつをしていた。
「本当に何もされなかった?」
「うん……晃生お兄ちゃんが助けてくれたから平気だよ」
十羽夏はそう言って俺に熱っぽい視線を向ける。
頬もほんのりとピンク色に染まっていた。恐怖からか肌が青白くなっていたものだが、血色が戻ったようだ。
「晃生、十羽夏を助けてくれて本当にありがとね」
「あ、ありがとうっ」
頭を下げる姉に倣ってか、十羽夏もぺこりと礼をした。
「気にすんな。羽彩の妹は俺の妹みたいなもんだからな。頼まれなくたって助けてやるよ」
「か、格好いい……」
十羽夏の目が輝く。こういう表情をされると、身体が大きくても精神年齢は年相応なんだなと感じさせる。
「あれは落ちたわね……」
「ピンチを救われて、特別な想いを抱かないわけがないですからね……」
日葵と梨乃はうんうんと訳知り顔で頷いていた。何を納得してんだよ……。
俺だって十羽夏から向けられる感情が変化したことに気づいている。
来る者拒まず。その精神でハーレムを築いてきたものだが、さすがに相手は中学生。それも中一である。
たとえ同意があったとしても、手を出せば犯罪である。……エロ漫画世界なら法律を歪めている可能性があるかもしれないがな。
そういうわけなので、今回ばかりは美少女の好意を無視させてもらうことにする。
俺に女がいなければ竿役の意識が暴走して、気づけばスッキリしていたなんて展開もあったかもしれない。
だけど俺の女たちのおかげで、竿に意識が持って行かれる事態にはならない。俺の頭はいつもスッキリしていてストレスが溜まらないからな。
「あ、晃生お兄ちゃんっ」
「どうした十羽夏?」
十羽夏が俺との距離をがっと詰めてくる。
近い近いっ。女子中学生の距離感どうなってんだよ。
「お、お礼っ。また今度……お礼させてね?」
高身長女子の上目遣い。顔立ちはあどけないが、なかなかにぐっとくるものがある……。
って、何考えてんだ俺!
俺はロリコンではないのだ。
顔はロリなのに身体は育っていて最高だとか、親子丼が最高だったから姉妹丼もさぞ美味いだろうとか、この年から俺好みに教育できれば最高だろうとか……全然思っていないのだ!
仮に頭にそんな不埒な考えが過ったのだとすれば、全部郷田晃生の残った意識がそう仕向けているに違いない。
「ああ。また今度な」
俺は無難に返事する。頭の中で怒鳴り声が聞こえた気がした。
◇ ◇ ◇
平気そうに見えるが、あんなことがあったのだ。十羽夏のショックはすぐに癒えるものではないだろう。
妹のことは羽彩に任せて、先に家に帰した。
二人を見送ってすぐに、夏樹から電話がかかってきた。
『連中はやはりただのチンピラだったよ。相手が晃生くんの女の妹だから手を出そうとした、というわけではないらしい』
「無関係か……。わかった、ありがとうな」
十羽夏を襲った連中は、気に入った女をあの廃墟に連れ込んではよからぬことをしていたらしい。
ここでもエロ漫画的展開が行われていたのか……。
とにかく郷田グループの後継者争いとは無関係だった。まああの連中の頭の悪さを見ていれば予想できたことなのだが。
まったく、下半身でしかものを考えられないなんて嘆かわしい。
『それで、連中はどうする? もう用はないというのなら、こっちで処分しておくけれど』
処分って……。また物騒な単語使ってんじゃねえよ。
夏樹なら上手いこと警察に引き渡してくれるはずだ。後は任せよう。
「ああ、好きにしてくれ。二度と女を襲えねえようにしっかり教育してから、な」
『ふふふ、任せてくれたまへ。調教は私の得意分野なんだ』
「調教」じゃなくて「教育」だからな? 似ているようで印象が全然違うぞ。
男たちの悲鳴が響いていたが、俺は構わず電話を切った。
「ふぅ、これで一件落着なのかしらね」
日葵は一仕事終えたとばかりに伸びをする。「やってやったわ!」みたいな表情をしているが、今回何もやってねえだろうが。
「それにしても昨日は火事で、今日は誘拐ですか……。急に事件が続きますね」
梨乃の言う通りだ。
滅多に起こらねえようなことが立て続けに起こった。これは偶然なのか?
「不幸を届ける少女、か……」
「なんですかそれは?」
「ああ。梨乃はいなかったんだったな」
俺は夏樹から聞いた伊織の情報を話した。
「伊織さんと仲良くした人に不幸が降りかかる……ですか」
「ああ。そういやあいつに出会ってから事件が続いていると思ってな」
特別伊織と仲良くなった覚えはないのだが、関連性がないとも言い切れない。
ただでさえ後継者争いがあるのだ。あいつが裏で手を引いていたとしてもおかしくないと思える程度には疑っている。
とはいえ、火事の原因は判明しているし、十羽夏を誘拐した犯人も捕まえた。
そこに関連性がないのは証明されている。事件だけを見れば伊織はまったく関わっていないのだ。
「うーん……まだ判断材料が少なすぎますね。音無先輩が知っているのなら、お母さんも伊織さんを知っているかもしれませんし、一応聞いておきますよ」
「ああ、頼む」
後継者候補も、現時点で俺と伊織しかわからない状況だ。
だったら、とりあえず伊織の情報を集めて損はないだろう。
そう決めたところで、ようやく親父から電話がかかってきた。





