139.穏やかな一日になると思った?
校舎四階からダイブするという、伊織のとんでもアクションを目の当たりにした俺は、とてもスッキリするような気分になれなかった。
「そ、そんなぁ~……ま、またお預けなのか……」
夏樹が情けない声を漏らしていたが、とくに心は痛まなかった。
「はぁはぁ……晃生くんはひどい人だ……。でも、それが良い……♡」
むしろ喜んでいるようだからな。夏樹との初体験はまたゆっくりできる機会に取っておこう。本人も焦らされている方が興奮するっぽいしな。
そんなわけで、俺たちは学年の違う夏樹と別れて教室に向かうことにした。
「あの伊織って子、本っ当にわけわかんないね。なんか明らかに怪しいって感じだしっ」
教室に向かう途中でも、羽彩はプリプリと怒っていた。
羽彩はアパートの火事の件に伊織が関わっているのではないかと疑っている。
俺の心配をするあまりに、心穏やかではいられないのだろう。
「まあまあ羽彩ちゃん。まだ伊織ちゃんが犯人だと決まったわけではないのよ」
「でもさー、一番怪しいのはあの子で間違いないじゃん。犯人じゃなかったとしてもさ、人の不幸を笑ってるのって失礼でしょ」
日葵が宥めようとしても、羽彩の機嫌は直らなかった。
羽彩にしては珍しく怒りが長引いてんな。俺は彼女の肩を抱いた。
「おいおい、スッキリできなかったからって不機嫌になるんじゃねえよ羽彩。また昼休憩の時間にでもスッキリさせてやるから、な?」
「んなっ!? べべべべ、別にそういうことで怒っているんじゃないんだかんねっ!」
からかってやれば、金髪ギャルはぼんっと顔を真っ赤にさせた。
「そ、それにアタシじゃなくて晃生をスッキリさせるためなんだからっ。大事なのはアタシじゃなくて晃生だかんねっ!」
「あらあら羽彩ちゃん。晃生くんのことが大事なのはわかっているわ。でもね、そんなに大声でハッキリ言うと聞いているこっちが恥ずかしくなるわよ」
「わわっ!? むぐっ……」
日葵からもからかわれて、羽彩は自分の口を両手で塞ぎながら涙目になった。それが可愛くて、日葵にくすくすと笑われてしまう。
そんなからかわれ上手の羽彩を眺めていると、火事や後継者争いの件がどうでもよくなっていたのだった。
◇ ◇ ◇
教室に到着すると、先に来ていた梨乃に昨日の火事の件を説明した。
「アパートが火事!? とんでもない事件じゃないですかっ! もっと早くあたしに知らせてくれればよかったのに……」
「悪いな梨乃。俺も気が動転しちまって、そこまで頭が回らなかったんだ」
「そう……ですよね。アキくんが一番大変な目に遭っていたんですもんね」
しょぼんと肩を落とすふわふわ緑髪の眼鏡美少女。俺の力になれなくて不甲斐ないとでも思っているのだろう。
だが、これは親父に夏樹とさなえには頼るなと言われたからだ。梨乃は悪くない。
親父の言う通りにするのは悔しいが、生活を立て直すためには仕方がなかった。自立していない自分が本当に歯がゆい。
「あたしが音無先輩で遊んでいた間に、まさかそんなことがあったなんて……っ」
「んん?」
なんか梨乃の口から聞き逃せない呟きが聞こえた気がするんだが?
「おい梨乃。昨日は部活が終わってから生徒会室にいた夏樹を解放してやったんだよな?」
「ええ。もちろんそうですよ」
俺を見上げる梨乃の目に嘘はなさそうだ。
しかし、彼女の眼鏡がキラリと光を反射し、可愛らしいはずの目が見えなくなった。
「ただ、音無先輩があまりにもあられもない格好をしていましたから……少しだけ遊び心をくすぐられてしまいました」
「んん?」
あられもない格好? 身動きは取れなかったかもしれないが、あられもない格好ではなかったはずなんだが……。
ま、まさか!? エロ漫画世界らしく、身動きの取れない美少女を発見した竿役が、夏樹にあんなことやこんなことをしてしまったのか!?
なんという油断をしてしまったんだ俺は! もし俺の女を寝取られていたとすれば……正気を保っている自信はねえぞっ。その男を見つけたらグロい意味でR指定が入るような目に遭わせてやる!
「どうやら音無先輩はアキくんに放置プレイされたのだと思ったらしく、どうしようもないほど発情していましたよ。制服がはだけてはしたない有様でした。あたしもこのままだと可哀想だとスッキリさせるのを手伝ってあげたんですよ。道具がありましたしね」
「そ、そうっすか……」
発情して勝手にあられもない格好になっただけかよ。焦らせやがって。
梨乃はできるだけ表情を変えないようにしていたが、口元がにまにましているのを抑えられてはいなかった。随分お楽しみだったらしい。
夏樹は俺の女たちとの相性がそれほど良くないと思っていたのだが、日葵のSっ気を引き出すし、エリカにはからかわれるし、梨乃にも遊ばれていた。
けっこうMっ気があるので、俺の女たちの性癖を刺激するのだろう。
「まあ、お前らが楽しそうでよかったよ」
仲良くやれるのはいいことだ。それが俺の女ならなおさら。
俺は変態性癖に目覚めそうな眼鏡女子の頭を、優しく撫でるのであった。
◇ ◇ ◇
本日はあれから伊織から接触がなかったこともあり、穏やかな学校生活を過ごせた。
学業に打ち込み、クラスメイトと談笑して、隙を見て俺の女たちにスッキリさせてもらった。
とても充実した一日だった。
放課後になり、そろそろ親父から連絡がくるだろうと考えていた頃。
「何これ……? あ、晃生……晃生ぉっ!」
「そんなに慌てて、どうしたんだよ羽彩?」
スマホの通知をチェックしていた羽彩が、顔を真っ青にして俺の制服の袖を掴んだのだ。
その力は強くて。なのに震えていて弱々しさを感じさせた。
羽彩が震えを止められないまま、なんとか俺にスマホの画面を見せてきた。
「……あ?」
羽彩のスマホの画面に映っていたのは、柄の悪そうな男たちに囲まれ拘束された十羽夏の姿だった。
今作の2巻の発売まであと一週間(カウントダウン開始!)
てなわけで(?)、各店舗の特典SS紹介です(とらのあな編)
・とらのあな
https://ecs.toranoana.jp/tora/ec/bok/pages/all/item/2025/08/28/00005/
「熱中症ってゆっくり言ってみて」
※ヒロインズが「ねっちゅうしょう」に興奮する話
通常特典:書き下ろしSSリーフレット
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