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133.氷室さん家の今日のご飯

「お姉ちゃんが作るご飯が美味しいのは当たり前なんだけど、食べる人のことを考えてくれるっていうかさー。彩りや風味で楽しませてくれるし、カロリーや健康だって計算に入れてるんだよ。すごいよね! それにあたしが体調悪い時とかあっさりしたものを食べさせてくれるし、元気ない時なんかは味が濃いめの料理でガツンと気合いを入れてくれるんだよ。あたしが何も言わなくても察してくれてさ……すごいよね!」

「ああ。十羽夏の姉貴はすごいな」


 十羽夏は姉を褒められて嬉しいらしく「だよね!」と笑顔で力強く頷いていた。

 笑顔の感じが羽彩と重なる。顔が似ているとは思っていたが、こういう何気ない表情も似ているんだな。


「十羽夏がそんなにはしゃいでるなんて珍しいね。人見知りだから初対面ではそんなにしゃべんないのにさ」


 羽彩がひょっこりと顔を出す。

 十羽夏がお姉ちゃんが作ってくれる大好き料理レパートリーを夢中で話している間に、料理が出来上がったようだ。


「べ、別に人見知りじゃないしっ」

「はいはい。わかったから料理運ぶの手伝ってねー」


 羽彩は妹の扱いに慣れた様子で台所に戻っていく。

 俺と十羽夏は彼女の背中を追いかけて配膳を手伝った。

 生姜焼きの匂いが食欲をそそる。味噌汁にサラダもつけて、普通に定食屋にでも出てきそうな完成度だ。


「十羽夏は部活終わった後だし、晃生もがっつり食べられるものがいいでしょ? ちょっと手抜きしたけど早く食べたいかなと思って急いで作っちゃった」


 羽彩は「味が悪くても許してね」と言うが、俺からはまったく手抜きをしているようには見えなかった。

 眺めているだけでも美味そうで、香ばしい匂いは食欲を刺激する。

 いろいろゴタついていたから忘れかけていたけど、俺も腹が減っていたのだと思い出す。

 よだれが溢れそうになるのを我慢して、三人で「いただきます」と手を合わせた。


「んっっっっまぁ~い!!」


 十羽夏は早速白飯と豚の生姜焼きをかき込んでいた。

 彼女の美味そうな食いっぷりに影響されて、俺もメインの豚の生姜焼きに箸を伸ばす。

 口の中に豚肉を放り込んだ瞬間、考えていたはずの面倒なこと全部がどうでもよくなった。


「美味い! やっぱり羽彩の料理は最高だぜ」

「えへへ、褒めてくれてありがとね晃生ー♡」


 羽彩の家のちゃぶ台を囲んで食事する。

 なんか、ここの家族にでもなったみたいだ。そう考えていることを嬉しく思っている自分がいる。


「そういや見かけねえけどよ。羽彩の親はどうしたんだ?」

「うちは共働きなんだよねー。ママはもうすぐ帰ってくるっぽいけどさ」

「お、俺がいて驚かせねえか?」


 さっき十羽夏に悲鳴を上げられたばかりなんだが……。さすがに相手が大人だと速攻で警察を呼ばれやしないかと不安になる。


「大丈夫大丈夫。ちゃんと今晩晃生が泊まるってメッセ送ってあるから」

「お姉ちゃん? あたしそれ知らないんだけど?」

「ちゃんと十羽夏にもメッセ送ってるって。アンタが見てないだけでしょ?」

「えー?」


 十羽夏が口をもぐもぐさせながら鞄を探る。スマホを手に取ると「あっ」と声を漏らした。


「ほ、本当だ。全然気づかなかった……」

「どうせお腹空きすぎて注意力散漫になってたんでしょ。部活で疲れてんのはわかるけど、気ぃ抜きすぎだっての。気をつけな」


 そう言って羽彩は味噌汁をすする。まさか金髪ギャルからお姉ちゃんの風格を感じる日が来るとは思わなかったぞ。


「部活って、十羽夏は何の部に入ってんだ?」

「バレー部だよ。こうビシッてアタックするポジションなの」


 十羽夏はバレーのアタックの動作を見せてくれる。バレー部ならポジションの説明くらいちゃんとしてくれよ。


「コラッ、食事中なんだから危ないでしょ!」

「ご、ごめんなさいお姉ちゃん……」


 羽彩に叱られて、十羽夏はしゅんと縮こまる。

 こうしてみると姉と妹なのだが、大きな身体を縮こまらせている彼女を見ているとなんか不思議な感覚だな。この光景になかなか慣れる気がしねえ。


「晃生ー? その目は何よ?」

「んー? いや、羽彩もちゃんとお姉ちゃんやってんだなーって思ってな」

「な、何よそれー……」


 羽彩は照れ臭そうにご飯を口に運ぶ。

 改めて見るが、羽彩って食べ方が綺麗だよな。

 それを言うと恥ずかしがるのだろうが、むしろそんな彼女が見たくて口を開いた時だった。


「ただいまー」

「あっ、ママが帰ってきた」


 玄関から声が聞こえてきて、俺に緊張が走った。

 さっきの十羽夏みたいに悲鳴を上げられたらどうしよう。いくら男子高校生が家に泊まると事前に聞いているとはいえ、俺みたいな凶悪顔までは想像していないのかもしれない。

 十羽夏の時よりも控えめな足音が近づいてくる。俺は箸を置いて姿勢を正した。


「あらー? あなたが羽彩が言っていた晃生ちゃん? 思っていたよりも可愛い顔をしているのねー」


 襖を開けて居間に入ってきたのは、黒髪をまとめたふくよかなおばちゃんだった。

 さなえみたいな母親がいたものだから、この世界の女は年齢が外見に出にくいのかと思っていたものだが……。この人は普通のおばちゃんって感じだな。

 おっと、失礼な考えはやめろ俺。

 にこやかな笑顔からは俺を恐れる感情がまったく感じられない。まずはそれにほっとする。


「初めまして、郷田晃生です。羽彩さんのお気遣いで一晩厄介になりますが、できるだけ迷惑をかけないようにするのでよろしくお願いします」


 俺は羽彩の母親に頭を下げる。


「あ、晃生? そんなにかしこまってどしたん?」

「あ、あれ? 晃生さんって実は真面目な人だったの?」


 姉妹揃って困惑を表情に浮かべる。こうしてみるとやっぱり羽彩と十羽夏って似てるんだな。

 しかし問題は羽彩母の反応である。

 いくら羽彩が許可してくれても、親から了承を得られなければ家に泊まらせてはくれないだろう。


「あっはっはっはっ! 頭なんか下げなくてもいいよいいよ。羽彩の初恋の相手を野宿なんかさせられないよ」


 一応初対面だからと緊張していたものだが、羽彩の母親は快活に笑いながら俺の肩をバシバシと叩く。

 ん? ていうか今なんて言った?


「初恋? 俺が、羽彩の?」


 俺が初めての彼氏かもしれないが、高校生で初恋というのは遅すぎだろう。

 大げさだなぁと思っていたら、羽彩が立ち上がりそうな勢いで前のめりになる。


「ちょっ、ママそれ以上は──」

「むしろやっと恩返しの機会が巡ってきてあたしは嬉しいんだよ。あの時、娘を助けてくれてありがとうねー」


 なぜか羽彩の母親に頭を下げられて、俺は困惑してしまうのであった。



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