132.お姉ちゃん大好きっ子
妹の悲鳴を聞きつけた羽彩が慌てて駆けつけてきた。
慌てていたせいで羽彩の格好は扇情的なもので……。それでまた悲鳴が上がり、もうこれ収拾がつかないんじゃないかって諦めそうになったものである。
しかし俺は挫けそうになる心を叱咤して、恥ずかしさでパニックになっている羽彩を宥めて妹さんに事情を説明してもらった。
「氷室、十羽夏……です」
「俺は郷田晃生だ。よろしくな十羽夏……ちゃん?」
そうして、ようやくちゃぶ台を挟んで羽彩の妹と落ち着いて自己紹介ができたのであった。
「気安く名前で呼ばないでください」
「わ、悪い……」
全然受け入れてはもらえていないようだけどな。
「コラッ、十羽夏! 何ツンツンしてんのっ。初対面なのに失礼でしょ!」
「だって~、お姉ちゃん~」
俺にはツンツンしている十羽夏ちゃんだけど、羽彩には甘えん坊な顔を見せる。
「晃生ー、この子を十羽夏って呼んでいいからね。この家で氷室って呼ばれると誰のことかわかんなくなるし。十羽夏もわかったよね?」
「う~……わ、わかったってば~。だから怒んないでよお姉ちゃん……っ」
十羽夏は涙目になりながらも、大きい身体を羽彩に擦りつける。
姉には甘えたい年頃なのだろう。中学生は反抗期のイメージがあったが、姉はきっと別に違いない。
ていうか本当に中学生か? 羽彩よりも随分大きな身体は、本当に妹なのかと疑ってしまいそうになる。
姉妹だけあって顔はよく似ている。羽彩がメイクをしていない時よりもほんのちょっとだけ幼くした感じだ。
だが身長は姉との違いを大きく見せつけていた。
羽彩は女子の平均身長くらいだが、妹は一七〇センチをゆうに超えているだろう。
何より胸がでかかった。この俺が思わず二度見してしまうくらいにはでかかった。
俺の女たちは全員巨乳だ。大きさに差はあれど、みんな良いものを持っている。
だがしかし、羽彩の妹はその全員と比べても明らかに大きかった。エリカが一番の巨乳だと思っていたものだが……まさか彼女を超える逸材がこんなところに現れるとは想像もしていなかった。
巨乳を超えた……まさに爆乳と呼べるほどの大きさだ!
などと脳内でおっぱいについて考えている間も、姉妹の仲良しぶりを見せつけられていた。
「それよりもお姉ちゃん。あたしお腹空いた~」
「はいはい。今用意するからちょっと待ってな」
羽彩に頭を撫でられた十羽夏はふにゃ~と緩み切った表情をする。
この顔を見るだけでも姉が大好きなのだろうなと伝わってくる。
フニャフニャした表情で台所に向かう姉を見送った十羽夏は、ここではっとした顔をする。……どうやら気づいたようだな。
羽彩が飯を作ってくれる間、俺と十羽夏は二人きりで取り残されてしまうことに……。
「…………」
空気が、重い……。
そりゃそうだ。これだけの警戒心を向けられると、こっちだって気さくに会話を振ったりもできねえ。
一晩だけとはいえ、急に知らない男が家に泊まりたいときたものだ。しかも凶悪面で図体のでかい年上の男子。まっとうな女子なら警戒して当然だ。
「あの、郷田……さん、は……お姉ちゃんと付き合っているんですよね?」
質問はいいんだけどよ。苦虫を噛み潰したみたいなものすげえ顔してんぞ?
お姉ちゃん大好きっ子って感じだったからな。俺のことを自分から姉を奪った奴と思われているのかもしれない。
「ああそうだ。俺は羽彩の恋人だ」
だけどこの関係だけは嘘をつかないと決めている。
羽彩の妹だろうが関係ねえ。俺は堂々と胸を張るだけだ。
「くっ!」
何その反応? 俺のことを親の仇みたいに睨むんじゃねえよ。
ここまで敵視されていると、こっちだって敵対心が芽生えてくる。
「羽彩は尽くすタイプだからな。俺によく弁当を作ってくれるんだぜ。羽彩が作る飯は美味いもんばっかでよ──」
「だよね! お姉ちゃんの料理はどれも最高だよね!」
十羽夏がいきなり前のめりになって表情を輝かせた。
「お、おお……?」
突然の態度の急変に、俺は戸惑いを隠せなかった。
こっちは彼女自慢をして「お前の姉はもう俺のもんなんだよ!」と知らしめてやりたかっただけなんだが……。
なんか想像していた反応と違う。中学生相手にマウントを取る気満々だったのに調子が狂わされる。
そんな俺に気づく様子もなく、十羽夏は姉の料理がどれだけ美味しいのかと語り始めた。
さっきまでとは打って変わった明るい表情。
「……」
俺は楽しそうに姉のことを話す十羽夏を、穏やかな気持ちで眺めていた。
これは止められる雰囲気じゃないな。黙って相槌を打ちながら耳を傾ける。
早口で語る十羽夏が、なぜここまで大きく成長したのか察せられた気がした。
9月14日(日)に文学フリマ大阪に参加します!
詳細は活動報告にて(今作のサイン本プレゼントもあるよ~)
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