131.金髪ギャルのお宅へ訪問
『……そうか。晃生が無事なら何よりだ。すぐに新居と最低限の家具を手配しよう』
「あ、ああ……」
『しかし少し時間がかかるからね。今日中にというわけにもいかない。今夜は誰かの家に泊めてもらいなさい。君の女の子たちなら喜んで受け入れてくれるのだろう?』
「まあ……な」
ぎこちないながらも言葉を交わし、俺は電話を切った。
親父とそんな話をしたことを、俺の女たちに伝えた。
「それなら梨乃ちゃんに電話して泊めてもらえるようにお願いしてみる? さなえさんも喜ぶわ」
「もし誰かが放火していたとするなら、セキュリティ面を考えて夏樹ちゃんに事情を説明した方がいいと思うな」
日葵とエリカがそれぞれ案を出す。
どちらも、まっとうな意見だ。
とくにアパートの火事が俺を狙った放火だった場合、夏樹に事情を説明して警護を頼むのが一番の安全策だろう。
「だが、それはできない」
「え、なんでよ?」
首をかしげる羽彩に、少し苦々しい思いがありながらも理由を口にする。
「……親父に止められたからだ」
俺の女たちの誰かの家に泊めてもらえばいい。親父はそう言いつつも、条件をつけてきていた。
『音無夏樹くん、彼女を頼ってはいけないよ。ああ、黒羽さなえくんは夏樹くんの従者だったね。なら彼女もダメだ。それ以外の女の子にしておきなさい』
とのことだ。
なぜか理由は教えてもらえなかった。隠すようなことなのか?
後継者争いが原因で放火が起こったものだと仮定すれば、夏樹とさなえはその関係者という扱いになるからだろうか?
別にあいつらが後継ぎ候補ってわけでもないだろうに……。関係者とはいえ、直接ではないだろう。夏樹が俺の婚約者ってだけの理由だろうし。
まあ夏樹は郷田グループの後継者争いについて知っていたからな。
まともに参加する気がないから聞いていなかったが、ちゃんと尋ねれば俺や伊織以外の候補者が何人いて、どんな奴がいるのかってのを教えてくれるだけの情報を持っているはずだ。
別に親父の言う通りにしなくてもいいのかもしれないが、こっちが世話になる立場だ。気持ちではムカムカしたものがあるものの、これくらいはぐっと呑み込まなければ筋を通せないだろう。
「晃生くんのお父様が……。でも、それなら今夜はどこで寝泊まりするつもりなのかしら?」
「私の家は荷物が片付いていないし、白鳥ちゃんの家も親が許してくれなさそうなんだよね?」
俺のために考え込んでくれている日葵とエリカの目が、ゆっくりと羽彩の方を向いた。
「……え?」
「そういえば、羽彩ちゃんがいたわね」
「ねえねえ氷室ちゃん。晃生くんが家に行っても親は許してくれるかな?」
「え? え? ええっ!?」
困っている様子の羽彩には悪いが、他に頼るあてもない。
「羽彩、悪いとは思うんだが今夜だけ。今夜だけでいいからお前ん家に泊めてもらえないか?」
俺が頭を下げると、羽彩は「う~」と悩ましい声を漏らしながらも答えをくれた。
「今夜だけなら……い、いいよ」
◇ ◇ ◇
そんなわけで、今夜は羽彩の家で世話になることになった。
道中のコンビニでとりあえずの日用品を揃える。歯ブラシを貸してくれと頼むわけにはいかないからな。
「うちの親は共働きだから。帰ってくるのは夜中になるし、気にしなくてもいいよ」
と、羽彩は言ってくれたが、一晩だけとはいえ寝泊まりさせてもらうのだ。
時間帯的に羽彩の親が帰宅してすぐあいさつするのは迷惑だろうけども。また改めてあいさつとお礼をしておこう。
「あと妹がいるから……」
「羽彩の妹か。似てるのか?」
「まあ姉妹だし……。はっ!? ま、まだ中学生なんだから手を出しちゃダメなんだからねっ」
さすがに手を出さねえよ……。
そんなことを口にしたところで信頼度ゼロなのかもしれないが。俺の女の人数が増えていくどころか、さなえさんにまで手を出してしまったからな。年の差があるからって、我ながら油断できねえ。
「着いたよ晃生。ここがアタシん家」
などと考えていると、羽彩の家に到着したようだ。
羽彩の家はちょっと古風な平屋だった。広くもないが、狭くもなさそうな印象だ。
「古臭いでしょ? 元はおじいちゃんの家だったんだよね。まっ、上がってよ」
「ああ。お邪魔します」
羽彩に促されて、家に上がらせてもらう。
家の中はさっぱりとしているというか、あまり散らかってないというか……物が少ないな。
「なんもないところだけど、気にしないでね」
「いや、こっちこそ急に上がらせてもらって悪いな」
家の中はしんと静まり返っていた。
働いている両親はともかく、妹も帰っていないようだ。
「妹はまだ帰っていないようだが、平気なのか?」
「あー、十羽夏は部活やってるから。いつも遅くまで練習してるんだよね」
部活なら仕方がないか。火事があったせいか、俺もちょっと心配症になっているらしい。
「アタシ着替えてくるから。ついでに晃生が部屋着にできそうな服を持ってくるよ」
「着替えなら手伝ってやろうか?」
「もうっ、晃生のバカ……っ」
羽彩とは着替えを手伝うどころじゃないってくらい濃厚な接触をしているのだが、まだまだ恥じらいを忘れないでくれている。
俺の女たちには羽彩を見習ってほしいものだ。
とくに淫乱ピンクと色ボケ生徒会長。後者に関してはまだスッキリした仲にすらなってねえんだぞ。なんで頭ん中ピンク色になってんだよ。
「ただいまー」
居間で座って待っていると、玄関から女子の声が聞こえた。
羽彩の妹が帰ってきたのだろう。
羽彩にそれを伝えようとするよりも早く、ドタドタとした足音がこっちに近づいてきた。
「お姉ちゃん帰ってるの? あたしお腹ペコペコで……」
ガラッと襖が開いたかと思えば、羽彩と顔立ちがよく似た女子中学生が姿を現した。
確かに彼女は、羽彩と顔が似ている。
けれど、いろいろな部分が姉よりも大きかった。身長とか……おっぱいとか。
「……」
目と目が合う。
瞳が合えば恋に落ちる……なんてことがあるはずもなく。彼女はゆっくりと口を開いた。
「きゃあああああああああああああーーっ!!」
そして絹を裂くような悲鳴が、家中に響いた。
もし突然見知らぬ男が家にいたら……。そりゃあ驚いても仕方がないよな。
叫び声を上げる女子中学生を眺めながら、ぼんやりした頭で納得した。
こうして俺と羽彩の妹、氷室十羽夏との初対面は、最悪なものになってしまったのであった。
2025.9.14(日)は文学フリマ大阪がありますねー。サークル花蜜茶として参加しますので、興味のある方は来てくださると嬉しいです(いつもと開催地が違う?)