第7話 出発
ヴォリア公爵家は、ガーデナー家と同じく五公のひとつで、大海公爵と呼ばれる。属性は水で、外交の象徴として扱われる家だ。
その証拠に代々国の責任ある職務に関わっており、現在の当主はこの国の宰相をしている。
余談だが、ヴォリア家の者は代々真面目できっちりした人が多いため、割とぽやぽやした方が多いガーデナー家とはあまり反りが合わない。
「さて、いよいよ明日がパーティ当日ですが、お嬢様、ヴォリア公爵令息と仲良くなれました?」
「…」
学園から下校する馬車の中、先程から頭を抱えているお嬢様に質問を投げかける。
この様子を見れば分かるように、お嬢様はまぁ〜サフィル様に嫌われまくった。
なんなら前より好感度が下がっている気すらする。
最初、お嬢様はサフィル様に近付き、質問することから始めたようで、好きな食べ物〜だとかなんだとかで話していた。
だが、サフィル様は絶対零度な対応でお嬢様との会話のキャッチボールを全て避けていた。
それでもめげずに話しかけたり、殿下を通して話してみたりしていたが、めげな過ぎてちょっとウザがられていた。
「お嬢様、めっちゃ避けられてましたね。」
「もう!分かってるわよ!なんでわざわざ言うの!?
あぁぁあもうどうしよう魔獣の情報なんにも無いよ…」
「お嬢様避けられてましたからね。」
「なんで何回も言うのよ」
「いや、避けられっぷりがおもし…見事だな、と思ったので。」
「今面白いって言おうとした?というか変えてもフォローできてないからね?」
お嬢様、前より弄りがいがあるかも知れない。
「…それはともかく、明日の話です。
情報に関しては始めからあまり期待していなかったのでいいとして、
明日ですが、私、お嬢様の執事としては付いて行けません。」
「えっっ!!!?
なっ、なんで!?」
「今回の誕生日パーティですが、お嬢様はあくまでガーデナー家の令嬢として参加します。
つまり、ご当主様の付き添いですね。
そして私はお嬢様の専属執事である前に、ご当主様の専属執事です。
公爵家の当主ともあろうお人が専属執事なしで、その娘には付いている、となるとあまり宜しくないので。」
「た、確かに…」
「一応、パーティには行きますよ。
ただ、いつもみたいにお世話があまり出来ません。」
肝心な時なのに、とは思わなくもないが、丸一日ずっとご当主様にベッタリしていないといけない訳でもないので、もし護衛が必要な時は呼んでもらえればいい。
「念の為、信頼できるメイドを付けるので恐らく大丈夫だと思いますよ。
ただ、あまり危険な行動をしない様にして頂けると嬉しいです。」
「そっか、分かったわ。」
そうこう話していると馬車が屋敷に到着したようだ。
お嬢様を下ろし、屋敷へ入る。
明日の朝は早い。
これからのことを考えながら、今日の仕事を終えた。
◆○◆
翌日・早朝。
「よーし!
今日はヴォリア公爵家のパーティ!ウーン憂鬱!」
元気よく嫌がっているのは我らがガーデナー公爵殿である。荷物を馬車に積み込んでいたらやって来た。
「そんなこと言わないで、ほら、今日はお嬢様の素敵な素敵なパーティドレス姿が見られますよー。
今日の為に仕立て直させたんでしょう?」
「そうだけどー、やっぱ今日もフランは来ないって?」
「フラディード様でしたら、『今日は、愛しの子猫ちゃん達と愛を育むという重大な予定が入っているから、心苦しいけれど僕は行かないでおくよ』と仰っていました。要は、野郎なんかの誕生日祝ってる場合じゃねぇと。」
「声真似似てるな。あと相変わらず失礼だ。」
フランとはお嬢様のお兄様であるフラディード様の事だ。
顔が良く、頭も良く、魔法の才能もあるが、いかんせん軟派で令嬢と遊んでばかりいる。
滅多に屋敷に寄り付かず、お嬢様と違い寮で生活しているため、ご当主様はあまり顔を見ていないだろう。
「はーあ、せっかく久々に顔を見れると思ったのに…
まぁ、シティーのパーティドレスを見る為だ。
よし!お父さん頑張っちゃうぞ!」
キモイ。
ルンルンで部屋へ帰るご当主様の背中を見て心底そう思った。
この国の国民は、子供の年齢が7歳、12歳、15歳、18歳になる年は大規模な誕生日パーティを行う。
7歳になると、大人の仲間入りのお祝い。平民等は働くことが出来るため、そのお祝いも兼ねられる。
12歳はお酒を飲めるようになったお祝い。
15歳は親元から巣立っていけるようになったお祝い。
18歳は1人前の大人と認められたお祝い。
というような感じだ。
今回のヴォリア公爵家のパーティも、サフィル様が15歳になった年という事でいつもよりも多くの貴族を招待し、パーティも長くやるそうだ。
普段なら、関わりの濃い家を誘い、暗くなってから始まるところを、今回はあまり仲の良くないガーデナー家や他の五公、殿下達も招待して朝からパーティを開催している。
つまり、パーティが長くなるということはドレスも用意する量が増える訳で。
誕生日プレゼントなどもあり、とてつもなく大荷物になってしまった。
荷物の積み込みを終えたので、お嬢様とご当主様を呼びに行く。
2人を見つけ、馬車に乗せたあと、使用人用の馬車に乗り込みヴォリア公爵家へ向かう。
さて、鬼が出るか蛇が出るか。
出来れば何も出ないで欲しい。そう思った。
活動報告の方におまけのキャラプロフィールを載せておいたので興味のある方は覗いて見てください。