第5話 説得
屋敷に着き、早速ご当主様の元へ行く。
「…!帰ったか!
助かったよ、仕事が多くて多くて仕方なかったんだ!やっと休める…」
帰って早々、ご当主様は仕事を押し付けようとするが、こちらの報告が先だ。
「仕事は後で手伝いますので、一旦今日の報告をしても?」
「!あっ、あぁ。分かった。
今日、シティーはどうだった?」
「午前中は特に何も無く終わりました。
ですが昼食時、王太子殿下とヴォリア公爵家の令息であるサフィル様と共にいらっしゃいました。
その時、お嬢様はなにやら考え込んでいるような様子を見せていました。」
「そうか、それで?」
「午後の授業で大声を上げ、その後はずっと上の空。さすがに無視できるようなものでもないので馬車の中でお嬢様に話を聞いてみたのですが……」
「おぉう、」
ウーム、どう伝えたものか。お嬢様には予知能力の事はなるべく秘密にと言われたが、それを言わないと意味不明な話になる。いや、言ってもそうなんだが。
と、一人考えあぐねていると、
バァン!!!!!!!!
「お父様!!これには訳が!!!!」
「シティー!?」
……お嬢様、支度、早すぎませんかね。
◆○◆
「…おほん。それで?シティー。君は本当にヴォリア公爵家の息子が呪われているとでも?」
お嬢様が執務室に乱入してから少し経った。
もうしょうがないのでご当主様も巻き込んでやろうという考えから、二人をソファへ座らせ紅茶を出す。
「ええ。彼は魔獣の呪いにより今この時も視力を奪われています。お父様、私、彼を助けたいんです!
無茶だってわかってる。でも、これまで迷惑をかけていた罪を償いたいんです!」
「…あのね、シティー。もちろん、お父様は信じてあげたいけれどね、君の話が本当の事なのか俺達には判断がつかないんだ。
それに、お父様は公爵家の当主。もし、シティーの話が本当で、ヴォリア公爵家の弱味だったとしたら、それをカードにすることだって出来るんだ。
それをお父様に話すというのは悪用されることも考えなきゃあいけない。」
「え、っと、」
…別に、ご当主様は今の話が本当だとしてもそれを使ってなにかすることは無いだろう。
彼はそんな人じゃあないし、花園公爵として相応しくない。
花園公爵は平和の象徴でないといけないのだ。
それでも、悪意を持つ者に致命的な情報が渡らないとは限らない。
だから彼はお嬢様にわざと脅すような言い方をしたのだ。他の貴族に軽々しく確証のない話をさせない為に。
「でも、この事を話したのはお父様達だけだろう?」
「えっ、えぇ」
「うん、ならばよし!
そしたら、シティーの好きなようにしなさい。
なにかお父様達に隠しているんだろう?
それは俺たちには話したくないこと。
ならいいよ、話さないで。話したくなったら話してくれればいい。」
「!ありがとう!お父様!」
「あっ!でもでも心配だから絶対一人にはならないでね!?シティーに何かあったらお父様泣いちゃう」
「あはは、はい!わかりました!本当に、ありがとうございます!」
そう言うとお嬢様は慌ただしく部屋から出ていった。アレ、後で呼び出すって話忘れてるよな…
「…よろしいんですか?」
「いいさ、今まで進んで人の為に動こうとしない貴族らしかったシティーが、花園公爵家の子としてこの上ない行動をしようとしてくれているんだよ?いい事じゃないか。」
確かにそうだ。だが、
「お嬢様が別物かもしれない、という話については?」
「あぁ、それについてはこれからも見守り続けて貰いたい。
先程、シティーは"これまで迷惑をかけていた罪を償いたい"と言っていただろう?
…本心かも、しれないからね。とりあえずは今まで通り接してあげてくれ。」
「…かしこまりました。」
少し紅茶が冷めたの新しく注ぎなおし、ご当主様のデスクから書類の束をいくつか貰う。
「では、あまり夜更かししすぎませんように。」
「!ありがとう!心の友よ!!!!」
◆○◆
翌日の馬車。
昨日とは違いお嬢様と会話をしながら登校する。
というのも、結局昨日の夜呼び出しすることを忘れていたのらしく、作戦会議が出来なかったからだ。
「さて、ではお嬢様。
とりあえず、私に情報をください。」
「えっ?」
「ですから、情報!
お嬢様の中では辻褄があっているのかもしれないですけれど私あんまりよくわかってないんですよ!
・なぜ呪われているのか
・何に呪われているのか
・いつ呪われたのか
・どんな呪いなのか
位はしっかり知らないとできる対策も立てられません!」
「あっ!あぁ!そうよね!ごめんなさい
ええっと、彼の呪いについて簡単に言うなら"魔獣に羨まれたから"ね。」
魔獣に羨まれた?
「彼は幼い頃親の里帰りに付いて行った事があったのよ。そしてその道中、一瞬目を離した隙に迷子になっていた。
運悪く、迷子になった場所は映らずの森。」
映らずの森というと、生息する魔物は皆盲目で凶暴だったはずだ。
「盲目の森に一人なんの力もない子供が放り込まれてきたら真っ先に魔物の餌になっているのでは?」
「いいえ、彼は幸か不幸か森の主魔獣と出会ってしまった。
そして呪われる。光を求め、景色を求めた盲目の魔獣に、生きて帰りかければ呪いを受けいれ視力を寄越せーってね。
呪いは少しづつ進行し、やがて完全に視力を失うわ。期限は二十歳の誕生日。その日、サフィル・ヴォリアは完全に光を失う。」
「…なるほど。ありがとうございます。それで、お嬢様は魔獣の種類は何だったかご存知ですか?」
正直、思っていたよりもハードな話が出てきてしまったが、知りたい情報はだいたい知れた。
あとは、魔獣の種類が分かれば弱点なども分かるだろう。
そう思い、お嬢様の方を向くとやたらと冷や汗をかいた彼女と目が合った。
嫌な予感がするぞ
「…わ、わかんない……」