第4話 気付き
王太子殿下の愛の囁きがひと段落した所で、茹で蛸状態のお嬢様が食堂へフラフラ向かい出す。
やっと、やっと終わった…!
そう思いながら今にも壁にぶつかりそうなお嬢様を支えようとすると殿下が敵意マシマシの目でこちらをみてきた。
そしてお嬢様をエスコートしながら、食堂へ行ってしまった。
えぇー……っ
◆○◆
食堂へ着いた。
お嬢様と王太子殿下は一緒に昼食を食べる様なので、王太子殿下の侍従と共に準備をしに行く。
食堂で頼んだメニューと紅茶をティーワゴンに乗せ、席まで運ぶともう一人増えていた。
しかもなんだか面倒なことになっているようだ。
「ですから!殿下、一体どうされたのですか!?
この女に今までずっと悩まされてきてたというのに!どうして急にそんな……」
あれは…
サフィル・ヴォリア公爵令息か。
あの様子だと未だに王太子殿下のトンデモ変化についていけていないようだ。
超わかる。
「サフィル、この女とはなんだ!
何度も話したろう、私は今までシティーを誤解していた。しかし、今は違う。
彼女は気高く、私の心を救ってくれた恩人なんだ!」
「し、しかし……」
言い合いをしている所申し訳ないが、そろそろ紅茶が苦くなるので急いでお嬢様の所へ向かう。
昼食を置き、ふとお嬢様の顔を見ると何らや考え込んでいるようだ。
少しの違和感を感じながら支度を終え、お茶会の背景となる。正直面倒なので関わりたくない。
なんで好き好んで若人の痴話喧嘩に首を突っ込まにゃあならんのだ。
そうこうしてるうちに殿下の勝利で言い合いの決着が着いたらしく、いつの間にか仲良くテーブルを囲んでいた。何故か昼食もある。
なんでだよ。
◆○◆
結局、殿下とサフィル公爵令息とともに昼食を食べ、午後の授業へ向かった。
殿下は別クラスなのでいないが、代わりにサフィル公爵令息が後ろの席からお嬢様をじっとり睨み付けている。
なお、お嬢様は全く気付いていない。
また暇になってしまったのでぼぉっとお嬢様を眺めていた時だ。
「あぁっ!!!!!」
突如としてお嬢様が大声を上げて席を立った。
いくつもの視線かお嬢様に突き刺さり、教師の咳払いによりお嬢様はしょぼくれた様子で席に座り直す。
虫でもいたのだろうか、と一瞬考えたが、あの表情は違う。
何かに気付いた表情だ。
その後の授業ではお嬢様はどこか上の空な様子で、ノートのメモもまっさらのままだった。仕方がないので代わりにメモしておいたが後でもう一度復習しないと理解できないだろう。
放課後になり、2人で馬車に乗り込む。
お嬢様は未だ思考が空中を漂っているようだが、午後の授業でした表情について聞くため、話しかける。
「お嬢様、午後の授業での事ですが…」
「えっ!あぁ!あー、えーとね?いつもは叫んだりしてないのよ?たっ、たまたま、虫?がいて驚いただけなの」
…誤魔化そうとしている。なにか不都合があるのだろうか。
「…本当ですか?なにか隠してません?」
「そそそそぉんなことはないわよ!!」
「…なにか、気付いたんじゃないですか?」
「!」
お嬢様の表情があからさまに変わる。
やがて、観念したのかお嬢様が語り出す。
「…仕方ないか
あのね、最近私、予知能力的なのに目覚めて…」
「予知能力?」
お嬢様が意味のわからないことを言い出した。
「そう!予知能力!と言っても限定的なものなんだけど…
それでね、授業中、サフィル公爵令息の事について予知したのよ」
「なるほど」
「予知によると、彼は魔獣の呪いによって段々目が悪くなり、最後には盲目になる…ということだったわ」
予知能力とやらがあると言い出したお嬢様は堰を切ったように事情を話し出す。
正直、半信半疑だが、お嬢様の顔は真剣そのものだ。
「…それで、お嬢様はどうなさるのですか?
まさか、彼を助けるとでも?」
「…ッ!それは…」
「お嬢様、そもそもあなたの予知能力が本当であるかも私にはわからないのですよ?
それに、以前の貴女はそれを知ったからと言って助けるような人ではなかった。」
もとより、ご当主様の命によりお嬢様の専属執事をしている身としては余りにも変な行動をされると面倒なのだ。
ご当主様としては護衛の役割も期待しているだろうしお嬢様について行かないということは出来ないだろう。
…それにガーデナー公爵家以外の事は、正直、どうでもいい。
「…それでも!私は彼を助けられるなら助けてあげたい!アルの友達が苦しんでいるなんて、私には耐えられない!」
「…はぁ、仕方ないですね。とりあえず、屋敷に着いて支度を終えたら私を呼んでください。ご当主様に私を呼んで欲しいと言えば呼んでくれるはずです。」
正直なとこ、面倒臭いことこの上ないがそれがお嬢様の望みだというなら従わないわけにはいかない。
なのでお嬢様に協力する旨を伝える。
「!ありがとう!
……あと、このこと、お父様には内緒にしてくれる?
お父様っては心配性だから、私がすること許してくれないかもしれないし。」
「…それは、できかねます。
そもそも私はご当主様の命によりお嬢様の専属執事をしているので。
お嬢様に何かあれば、私、首を切られてしまいます。」
少しおちゃらけた感じでお嬢様に伝える。
お嬢様もわかって下さったのか、うなずいて
「わかったわ。
じゃあお父様の説得は私がするわ」
と言った。
「でも、予知能力については後で報告に出来ない?」
「……」
一番報告しなきゃ行けないやつなんですが。