第3話 王太子殿下
専属執事とは、貴族一人につき1〜2人付いて身の回りの世話や仕事の手伝い、護衛等を行う者のことだ。
その為、主との信頼関係やその貴族家に仕えた年数が多い者が選ばれやすい。
「んで、ご当主様?貴方、専属執事私しか居ませんよね?仕事大丈夫なんです?」
「…いやぁ、そのぉ、ね?」
「なんです?」
「あの〜、ね?お前なら、俺とシティーの専属執事兼任できるかな〜って思ってね?」
舐めている。この人絶ッッッ対に専属執事の仕事量を舐めている。
「無理ですよ!!今ご当主様の世話だけでかなりヘトヘトだというのにどうするんですか!?」
「わ、分かった、分かった。じゃあ、平日はシティーの専属執事、休日は俺の専属執事、ってことでどうだ?もちろん、今平日やってもらっている分の仕事は俺がやる。だから、休日だけでも手伝ってくれないか?」
「……私の休日は?」
「…お前、休日取ったことあったっけ?」
「取りたいけど忙しくて取れてないんですよ!!」
コイツ……!!
「あぁっ、ごめんごめんごめんなさい!
……分かった。じゃあ、俺からシティーに専属執事を貸し出す、という形にしよう。シティーが学校へ行く間はお前も学校へ行く。帰ってきたら俺の執事。
今のスケジュールで学校のある時間している仕事は、誰か代理を立ててやる。どうだ!?これなら今と日程は同じだ!」
「分かりましたよ、分かりました!いいですよそれで」
とまぁこんな感じで、新たな仕事が加わったのだった。
◆○◆
一週間後。
今日からお嬢様の専属執事として働く。
簡単な紹介は昨日のうちにご当主様が終わらせておいて下さったのであとは顔合わせだけだが、お互い見たことある顔なのであまり面白味もなく終わった。
これから学園へ行くので馬車に乗り込み向かいへ座る。
「……」
「……」
気まずい沈黙が馬車の中で流れる。
そりゃあそうだろう。今の今まで執事が居なかったのに、自分の父の執事が急に自分の専属執事となるのだから。
「わ、わぁー…お外綺麗ねー…」
「えぇ。」
お嬢様が気を遣って話題を振ってくる。
毎朝見ているだろうに、その話題を選ぶとは、相当混乱しているのだろう。
「……」
「……」
話が広がらずお嬢様は馬車の中を見渡し、話題を探している。
正直、無言でも構わないのだが、流石に可哀想なのでこちらから話題を振る。
「お嬢様はいつご当主様から専属執事が付くとお聞きになったのですか?」
「!えっ!うん、えぇと、昨日よ!」
「はい?」
「昨日!」
「…そうですか、それは、さぞ驚かれたでしょう。
どうぞ、私は小間使いとしてお嬢様に付けられたようなものですので、あまり気にせずに自然にして頂いて結構ですよ。」
「…えぇ、わかったわ、ありがとう」
昨日、昨日か…ご当主様め、一週間以内に伝えていただくよう言ったのにもかかわらず昨日まで話していなかったのか、可哀想に。
気にしないでいいと言ったからか、お嬢様も時々こちらをチラチラ見るくらいで先程よりも落ち着いているようだ。
そうこうしているうちに、学園へ到着した。
先に馬車から降りて、お嬢様に手を差し出す。
「お嬢様、お手を。」
どうしたのだろうか。お嬢様が降りてこない。
それどころかこちらの顔と手を交互に見ている。
…もしや、降り方がわからない?
そう思い、降り方がを教えようとすると、意を決したようにお嬢様が降りてくる。
手を触れる面積は最小限で。
おかしい。
やはり絶対おかしい。
今までのお嬢様は絶対こんなことしない。
◆○◆
学園へ着き、お嬢様が授業を受けている間、侍従は主人の下で身の回りの世話をするため側にいなくてはならない。
しかし。
正直、あまりする事がない。ぶっちゃけ暇だ。
たまに、お嬢様が何か物を取ろうとする時に働くだけでやる事がない。
侍従クラスもあるが、それは見習い侍従が通う所であり、あまり関係がない。
暇だ。暇すぎる。こんなに暇でいいのか?働かなくていいのだろうか?嗚呼、屋敷に置いてきた仕事が呼んでいる…
なんて、危険な思考に沈みかけた直後、授業終わりの鐘が鳴る。
これで午前中の授業は終わりな筈なので、次は昼食だ。
助かった、昼食時なら紅茶を淹れたり、教室の掃除をしたり、とにかく、やる事がある!
表情には出さず、内心うっきうきでいると、こちらへ向かって面倒ごとがやってきた。
「やぁ、シティー。
二日も君に会えなくてどうにかなりそうだったよ。
…ところで、専属執事が付いたんだって?」
ミスター砂糖菓子こと、我らが王太子殿下だ。
いつの間にかお嬢様を愛称で呼んでいる。
そしてこちらを敵意マシマシの目で睨んできている。
…うーん、大変面倒だぞ?
とりあえず、頭を少し下げておくとお嬢様が殿下へ返事をする。
「えぇ、そうなの。今日から、専属執事になってくれたのよ。前はお父様の専属だったからアルも見たことあるんじゃない?」
「あぁ、そういえば先週君に会いに行った時に見た気がするよ。先週の君は………」
お嬢様が軽く紹介したが、おそらく殿下の耳には入っていない。
見た気がするよ、と言っているが本当は覚えていないだろう。
と言うか、お嬢様も殿下のこと愛称で呼んでるし。
殿下にとって専属執事の話はただのとっかかりだったようで、今は先週のお嬢様の素晴らしさを今週のお嬢様へ語っている。
一介の執事如きでは王族の許可なく発言もできないので、黙って突っ立っているしかする事がない。
どうでも良いからさっさと働かさせてくれ……