第16話 そういうもの
「やられた。
見た感じだと三人、この魔法の発動に巻き込まれている。エリサ、シティーと一緒に誰がいた?」
「えっと、殿下とサフィル様と私です。サフィル様の体調が優れないようだったので私がお水を取りに行ってたんです…申し訳ございません…」
「…そうか。大丈夫だ。」
ふーッ、とご当主様が大きく息を吐く。
これは相当キレているな。
だが今はお嬢様達を探すことが先だ。
「…ご当主様、転移の場所は分かりませんか?」
「うーん、これではいまいち分からないな。
…鍵は、渡してあるんだよな?」
「えぇ。一応。
ただ、使わないだろうと思い開けていなかったのであちらから呼ばれない限り干渉できません。」
「うーん、そうか…」
…こんな事ならさっさと鍵を開けとけばよかった。などと考えながらご当主様に返事をする。
「一応危険があれば呼ぶように言っておいたのですが、…お嬢様が覚えているかどうか…」
「…分かった。ならとりあえず、シティーが呼ぶまではこちらでできることをしよう。
エリサ、今はシティーが居ないから俺と行動してくれ。」
「あっ!かしこまりました!それで、給仕長は?」
「私は…お嬢様が呼ぶまで待機、でしょうか。」
「そうだな。直ぐに駆けつけられるよう、移動しても構わない。
あと、出来ればシティー達を転移させたヤツが何者なのかを調べておいて欲しい。」
お嬢様だけでなく、殿下や今回の主役までどこかへ消えてしまったのでご当主様は報告にでも行くのだろう。
なら、その間ご当主様はエリサに任せてお嬢様が呼ぶまで調べ物にするとしよう。
「わかりました。」
「よろしく頼んだ。」
「はい。
じゃあエリサ、ご当主様の事よろしく。」
「はい!お任せください〜!」
そうしてエリサの返事を後にご当主様達はまたホールの方へ戻って行った。
◆○◆
さて。
ご当主様から言われた通り、誰が転移魔法を使ったのか調べよう。
と言っても、大体検討は付いている。
お嬢様の言っていた主魔獣だろう。
そもそも、このパーティ会場内では許可がないと魔法が発動出来ないよう結界が張られている。
なので会場内からの可能性はほぼナシ。
そして、会場外からの可能性としては、転移魔法の特性から推察できる。
転移魔法は風属性で中位の魔法だ。
魔法を発動させる場合、自分を中心として大体半径3m程の距離に対象がいないと魔法を発動出来ない。
しかし、事前に対象に印を付けておくと遠距離からでも魔法を発動することが出来る。
まあ、ここまで魔法の有効範囲を広げるなら印もかなり強力でないといけないが…サフィル様の呪いを印として見るなら、十分機能するだろう。
つまり、サフィル様がメインの対象として発動した魔法であるだろう。多分、そこに殿下とお嬢様は巻き込まれた感じだな。
…だが、今彼を呼び寄せる理由が分からない。
お嬢様の話では、魔獣はサフィルの視力を欲しがっていて、このまま待てば手に入るということだったはずだ。
何か呪いに不具合が起きたのだろうか?
色々考えてみるが納得のいく答えが見つからない。
分からないことを考えても仕方ないので、ほかのことを考えながら、会場外に移動して映らずの森の方向へと進む。
森がどこだか分かっても、お嬢様の場所は分からないんだよなぁ。
…お嬢様達は、無事だろうか。
…
……
………
ふわり、と片眼鏡に付いた薄紫の水晶が弱々しく光る。
…お嬢様に渡した鍵からの反応。
思い出してもらえたようで何よりだ。
その反応を頼りに森に飛び込みお嬢様を探す。
座標が安定しない、転移中か?
はじめの反応から離れた場所で、ギュッと目をつぶったお嬢様と巨大な派手色の鳥を見つける。
お嬢様の右腕に、切り裂かれたような傷があった。
そのままお嬢様を庇うように前に立ち、鳥をしっかり認識する。
よく見ると、鳥もボロボロだ。これはお嬢様達がやったのか?
でも、いい気味なので煽るように話しかける。
「おや、鬼でも蛇でも無く可愛い小鳥さんでしたか。」
『……は???
なんですって???』
「!?ち、ちょっと貴方!何言って、」
お嬢様が慌てたようにこちらを止めようとしてくる。
「お嬢様、アレが、貴女の言っていた主魔獣ですか?」
「えっ、えぇ、そうだけど」
『ちょっと???
アタシのことをバカにしてるの???
……アナタもその女の味方なんでしょどうせ。
アタシのことそんなに嫌いなら死んじゃえばいいんだわ!』
そんな言葉とともにボスが攻撃を開始する。
「随分思い込みが激しいようで……お嬢様、危険ですから、下がっていてください。」
「!えぇ分かったわ、でもちょっと気になることが……きゃっ!」
なにか言おうとしたお嬢様のすぐ側にボスの魔法が当たる。
だから危ないと言ったのに!
「ちょっと失礼しますよっ!」
「えっ、うわっ、わわ!」
お嬢様に近付いてそのまま持ち上げ肩に担ぐ。
どこか流れ弾の当たりにくい所は……
いいや、このままやってしまおう。下手に離れられても逆に危険かもしれない。
給仕服に付いた隠しベルトに挟んだ短剣を三本一気に引き抜く。
お嬢様に万が一も当たらないよう細心の注意を払いながら、ボスめがけて全て投擲。
二本は開いていない両目目掛けて飛ばし、あとの一本は喉の辺りに向かう。
よし、当たった…があまり深くないな。
次の短剣を出して投げ、身体のどこかにでも新たに傷がつくよう攻撃する。
いくらか攻撃を繰り返したその時、
「ね、ねぇ!ボスのこと、殺さないで捕まえられたり、しないかしら」
「はっ?どうしてです?」
突然、担がれたお嬢様が変なことを言い出した。
「詳細は省くけど、彼女、サフィル様に惚れてるのよ」
「はぁっ?」
「だから、彼女を殺さないで呪いを解かせられたらそうしたいなって……」
えぇ〜
「待って下さい!もしその話が本当だとしても、ヴォリア公爵令息に呪いをかけたようなヤツが安全と言い切れない以上野放しには出来ません!」
「でも!」
「それに、惚れているからなんでもしていいという訳じゃあありません。
それがまかり通ったら好きの押し売りでしかない。」
「そ、それは……」
刺さったままの短剣へ向かい、そこにある剣をより深くねじ込む。
戦闘中なのに恋愛のお説教をするという、奇妙なことが起きている。
「……お嬢様、それはヴォリア公爵令息は承知しているのですか?」
「……いいえ……」
「まぁ、そうでしょうね。」
何本か剣を回収し、またそれを足元や翼の根元目掛けて投げつける。
「……もし、それが命令だと言うなら、一応身動き出来ない状態にはしますよ。」
「!ほ、本当……?」
「えぇ。ですが!
ヴォリア公爵令息に許可を取らない限り、野放しには出来ません。」
「分かったわ!命令よ!彼女を拘束して。」
目に突き刺さった剣をグリグリしてから引き抜き、
「かしこまりました。貴女のお望み通りに〜」
「なんかゆるいわね」
『痛い!
アナタ一体なんなのよ!!!!
後から急にやってきて!誰なワケ!???』
さて。
こちらからの認識は、さっきした。
相手は今、認知欲求をこちらへ示した。
傷も十分付けた。
「……《施錠》」
『!?』
呪文を唱えると共に、ボスの動きがピタリと止まる。
『はぁっ???
どおして???動けない!!』
「どっ、どういうこと……?」
「そういうものだと思ってください。」
「えぇ……?」
お嬢様の困惑した声が森の中に響いた。




