第12話 森にて
少しの気持ち悪い浮遊感を感じ、視界が暗転する。
「…てて、こ、ここは…?」
辺りを見回すが、確実に先ほどまで居たパーティ会場ではないことを示すかのように木ばかりが目に入る。
足元の方も見ると、見覚えのある輝金と蒼玉の頭が転がっている…
「きゃあ!ち、ちょっと!
アル!サフィル様!だっ、大丈夫ですか!?」
慌てて2人の肩をゆすり、叩き起こす。
やば、ちょっと手荒だったかも。
「ゔ、ううん…」
「いたたたた!」
あ、起きた。
◆○◆
「それで、ここはどこなんだ?」
先程気持ち悪いやつでグロッキーになっていた所を揺すったせいか少し顔色の悪いアルにそう聞かれる。
「…ごめんなさい、分からないわ。
さっき魔法陣が見えたと思って慌てて声をかけたと思ったらここにいたの。」
「そうか、見たところ森のようだが…」
「…多分、映らずの森、だと思います。この辺りの森と言ったらそれしかありません。」
「なるほど、ありがとう。
なら、さっきの浮遊感からしておそらく転移魔法か何かで飛ばされた、と言った所か。
転移魔法なら距離の制限もあるし、そこで間違いないな」
「でも、一体どうして急に魔法が?」
ここが映らずの森ということは分かったが、一体何故転移魔法なんて言うものが発動したのかわからない。
「普通、魔法は何者かが発動させようとすることでしか使われることはありません。
考えられるとしたら、あの会場に居た何者かが僕たちに対して何か危害を加えようとした、などですが…」
「しかし、会場には魔封じの結界が展開されていただろう?」
「はい、殆どの貴族家で展開しているものの他にパーティ用に強めのも張っていました…」
そうなのだ。
ガーデナー家でもそうだが、貴族の屋敷には普通、攻撃魔法などの悪意ある魔法の発動を阻害する結界が張ってある。
それを潜り抜けるのはかなり困難だ。
「もしかしたら結界を張る前に印をつけられていて、その場所に任意の人物が立ったら発動する…などのトラップタイプの魔法かもしれません。
あとは、外からの干渉…
あっ」
そこまで話し、サフィルが何か気づいたように声を上げる。
そして、段々回復してきたと思った顔色が、また真っ青に変わっていく。
「?どうした?」
「い、いえ、もしかしたら、彼女の仕業かも知れないと、思いまして、」
「「彼女?」」
「…転移の直前に、僕が話そうと思ったことに関係があるんです。」
転移の直前…つまり、おそらく彼のトラウマに関係する話だろう。
「彼女とは、この、映らずの森の主魔獣の事です。
僕は、幼い頃にここに迷い込んで、彼女に呪われた。」
「「!?」」
驚き顔の私たちを見たサフィルは、そのまま話を続ける。
「なんで迷子になったのか、などはもう覚えていません。かなり前の事ですから。
…知っての通り、この森の魔物達は皆目が見えません。それはボスでも同じでした。
そして彼女は、たまたま迷い込んだなんの力もない子供一人に契約を取り付けました。
『お前の光を寄越せ』
そう言われて僕は、恐ろしくて、恐ろしくて、頷くことしか、出来ませんでした。」
「サフィル、無理をしないでも、」
みるみる顔色が悪くなり、青を通り越して白くなっている彼を見かねたアルが、そう声をかける。だが、
「いえ、大丈夫です。
それに今まで、殿下にお教えしていなかったのは、呪いがあまり進行していなかったからでもあるんです。
いつか、呪いによって視力が失われる事は、分かっていたんです。
なにか対策出来ることは、と思い討伐隊を出してボスを倒そうともしました。結局、彼女を見つけることすら出来なかったけれど。
でも、もしかしたら、大丈夫なんじゃないかって、思って。
小さい頃は眼鏡がなくったって見えていたから、
でも、段々だんだん、視界がぼやけるようになって、最近じゃもう、手を伸ばしたら届く距離に居る人の表情さえも、分からなくて、
…申し訳ありません、あまりしっかりお話できなくて。
でも、この呪いをかけた彼女なら、屋敷に魔法を送れると思うんです。契約という繋がりのある僕を印にすれば、結界をすり抜けられる。」
「…分かった。ありがとう、話してくれて」
「えぇ、サフィル様のお話、聴けてよかったですわ。」
会場にいた時も思ったが、考えていた以上にサフィルは呪いに対するトラウマを持っている。
ゲームでは、“トラウマ持ちの眼鏡キャラ”という属性付けの為だった呪いは、こんなにも彼を苦しめていた。
ここはゲームじゃない。
彼らの、キャラクターとしての魅力は、彼らが苦しんでいるから生まれたのだろうか。分からない。
限りなくゲームに近いここは、苦しんでいる人が大勢いる現実なのだ。
その事実を、サフィルの呪いに対する思いで、分かりやすく実感してしまった。
でも、
「…あの、サフィル様。
なにか、私に出来る事はありますか?」
それに気付けたのなら、悪役令嬢でも、変えられることはあるんじゃないか。
「ガーデナー嬢が?…同情して欲しくて話した訳ではないから、大丈夫だよ」
「っ、えぇ。
私は、貴方に何かしてあげたいわ。
でも、同情なんかじゃない。私が、貴方を助けたいと思ったから言ったのよ!」
「…サフィル、多分、
シティーは本心から言っているぞ。
サフィル、私たちにできることは何も無いか?」
同じ気持ちなのか、アルも一緒にサフィルに聞いてくれる。
「…ありがとう、ございます…」
そう言い、サフィルが瞳を潤ませる。
よし!
「…じゃあとりあえず、ここから出ましょう!」
「あっ、ふふふ、そうだったね。
サフィル、屋敷に戻ったらもう一度戦力を整えてボスを倒しに行こう。
私も協力するから、そうすればきっと、呪いが解け」
『そんなカンタンに倒されてアゲル訳ないでしょ〜???』
「「「!?」」」
唐突に声が聞こえる。
明るい女性の声、そこに混ざった悪意の色が、私達の耳に大きく響いた。




