第10話 トラウマ
「やぁシティー!
さっきぶりだね、アフタヌーンドレスの君も美しいよ」
で、でた!
気障なセリフと共に私の前に現れたのは現在私の婚約者であるアルフレッドと、今回のパーティの主役、サフィル・ヴォリアだった。
サフィルはアルの台詞に少し顔を顰めながらこちらを見ている。
「ありがとう、アル。貴方のスーツも素敵よ
…サフィル様、お誕生日おめでとうございます。
貴方の特別な日にお呼び頂いて光栄ですわ」
とりあえず、アルに返事をしてからサフィルに改めてお祝いを伝える。
先程お父様と一緒に挨拶したが、直接はできていなかったので丁度良かった。
「あぁ、ガーデナー嬢。パーティの参加、こちらも感謝するよ。」
端的に返事された。
サフィルからの私の好感度は地の底についているので、返事があるだけマシかも知れないが、ゲーム内での甘い顔を考えると少し面白い。
「シティー、今、素敵って言ったかい?」
「?えぇ、とっても素敵よ?」
「…ふふ、そうか、ありがとう」
サフィルと話していたせいかアルが私に話しかけてきた。
自分が無視されたと思ったのかもしれない。
アルは王子様だからか、少し褒められたがりな所がある。今も、彼に言った「素敵」の言葉でとってもニコニコ笑顔だ。
アルはその立場のせいで人と友人として関わるのが苦手で、なんでも気兼ねなく話せる間柄に憧れていた。
だからか、最初は大嫌いだったシティアでも、少し関わっていくうちに心を開いてくれるようになった。
勘違いさせるような発言をよくするが、一国の王太子殿下なら令嬢に対して紳士的と言って差し支えないだろう。始めの方はいちいちドキドキしてしまったがもう慣れた。あっちも仲のいい友達くらいだと考えているだろう。
でも、初めての友達だからか少しテンションが上がっているようで、私の一言に一喜一憂している。そこがちょっと可愛らしいと思ってしまうがしょうがないだろう。
「あっ、そうだわ!
この後のパーティ、一緒に回りましょ?
アルは午前中も一緒だったけれどサフィル様は先程いらっしゃらなかったですし、どうかしら?」
今回のパーティはホールと中庭のふたつの会場でいつでも行き来できるようになっている。
午前中は雑談、昼間は会場に歌劇団やオーケストラを呼んでちょっとしたイベントを楽しめる様になっている。日が落ちたらまた着替えた後ダンスをするらしい。
上位貴族パネェという感じだが、昼間のイベントのうちにサフィルとも少し仲良くなれたら…という下心を隠して誘ってみる。
「!いいのか!
私もシティーとあのオーケストラを観たいとおもっていたんだ!」
「…分かった。僕も一緒に観に行こう。」
「えぇ!
では、参りましょう」
そう言い、オーケストラがいるであろう中庭へ移動する。
アルは多分、一緒に回ってくれるだろう、と思っていたけれど、サフィルがあっさり着いてきてくれたのには少し驚いた。
…移動中会話が無いのも気まずいし、どうせなら少し踏み込んで話してみよう。
「そういえば、サフィル様はどうして眼鏡をお掛けになっているのですか?」
「!」
「私も気になるな、いつの間に掛け始めたんだ?
入学した時には掛けていなかっただろう?」
質問をした時、少しだけサフィルの肩が跳ねた。
やはりトラウマになっているのだろうか。
しかしできることならなるべく話して欲しい。なにか解決の手がかりになるかもだから、と考えているとゆっくりと話し始めた。
「…中等部の、二年生頃からです。もともと、あまり視力がいい方とは言えなかったので、段々、目が悪くなってきて、それで、」
「お、おい、顔色が悪いぞ、大丈夫か?」
「ごめんなさい、話したくないなら無理して話さないで大丈夫よ。
…エリサ、なにか飲み物を持ってきてくれる?」
「あっ、はい!」
エリサが飲み物を取りに行くのを横目に、サフィルに向き直る。
顔が青白くなり呼吸が荒い。カタカタと震えている。
…まずい、ここまでだとは思っていなかった。
かなりの罪悪感を感じながら彼の背中をさする。
「お嬢様!お水!持ってきました!あと、タオル」
「!ありがとうエリサ!
はい、サフィル様、お水です、飲めますか?」
コクリ、と頷き彼がコップを受け取る。
「エリサ、お水もう一杯お願い。
アル!ごめんなさい、オーケストラはあとで、今はサフィル様の介抱をしないといけないわ」
「そんな事は全然気にしてないよ、それよりなにか私に出来ることは無いか?」
オロオロしていたアルに話しかけ、オーケストラが無理そうなことを伝える。
「じゃ、じゃあもう一人誰かヴォリア家の給仕を呼んできて、今はエリサしか居ないから。
ここは私が--「いや、いい、大丈夫です、放っておいて、」
「!?だ、だが、顔色が、
「いいんです!人に見られないようにだけ、してください。大事な僕のパーティですから、主役がこんなザマじゃ、いけない。」
真っ青な顔に強気に振る舞う彼は、心底辛そうな表情をしていた。
私が、こんな話題を振ったせいで、
やめておけば良かった、
「…こんなところ見られてしまったなら、話した方がいいですね、僕の呪いの話。」
「「!?」」
そう考えているとサフィルが意を決したかのように、話出そうとする。
「の、呪いって…」
「えぇ、僕の視力の呪いです。
僕は小さい頃、」
「!危ない!!!」
その時、私たちの足元に魔法陣が現れた。
咄嗟に声を出したが、ーー間に合わない!
こうして私達三人は魔法陣により転移してしまった。
そう、彼のトラウマの場所、映らずの森に。




