第9話 お着替え
「えっ、えぇっと、エ、エリサと申します!
今日の午後からお嬢様のメイドとしてお手伝いさせて頂きます!
よろしくお願いいたします!!!」
そう言って深々とお辞儀したのは今日の午後、私の専属執事の代わりをしてくれるメイドさんである。
亜麻色の長髪に少しタレ目気味な茶色の瞳、そしてそばかすが特徴的な可愛い女の子だ。
派手なシティアとは真逆の素朴な子だが、愛嬌があるのでシティアよりモテそうかも。
「えぇ、よろしく。
とりあえず、ドレスの着替えを手伝って貰えるかしら?」
「はっ、はいぃ!」
どうやらかなり緊張しているらしい。
それもそうだろう。私は悪名高きわがままご令嬢なのだから。
現在、私、シティア・ガーデナーは絶賛お着替え中だ。
と言うのも、攻略対象のサフィル・ヴォリアの呪いを解くために流れでお誕生日会に参加させてもらったからである。
お貴族様というのは大変で、パーティではなんと三着もドレスが必要なのだ。
まあ、日本の乙女ゲームだから、というのもあるだろう。主人公に色んなお洋服を着せるのに都合がいい。
ドレスに着替え、ヘアセットやメイクをして貰いながら、サフィルについて考える。
ゲーム内でサフィルにかかった呪いは"盲目の呪い"と称され、主人公が彼のルートに入ると解かれる。
ゲームでは、「主人公が聖なる力で呪いを解き、彼を救った」ということに重きを置く。
そのため彼のルートに入らないとサフィルは徐々に視力が悪くなり、見えなくなるギリギリで呪いの進行を止める薬が開発されて、それにより呪いを解決して王太子の右腕として宰相になる、とされている。
サフィルは幼少の頃、森を挟んだ所にある彼の祖父母の家に訪れた。
里帰りの途中、たまたま休憩した場所が森の近くだったらしく、彼は「森には入らないように」と言われていたのにも関わらず、興味本位で入ってしまったらしい。
そして魔獣に出会い、無事に森から脱出するのと引き換えに視力を取られた。
なぜ魔獣が一気に視力を取らなかったのだろうか、というのはゲーム内で明言されていない。
まあ、徐々に見えなくなる方がゲーム的に都合がいいのだろう。
呪いの進行速度は不安定で、幼少期呪いをかけられた直後はあまり分からなかったそうだ。
しかし、中等部二年…14歳の時から急に視力が悪くなり出したようだ。
そして主人公に助けられる頃では眼鏡なしだと人の輪郭がぼんやり分かるぐらいに悪くなっていた。
他の攻略対象者達にもあるが、サフィルルートにおいて主人公が初めて聖女の力の片鱗を見せるイベントが、彼の呪いを解くことなのだ。
だが、主人公が入学してくる前に彼の呪いを解ければ、ある程度ましなくらいの視力で終わりにしてあげられるのでは無いだろうか?
あと一年もいつか来る暗闇に怯えないで済むのじゃないか?
もしそうなら、私は彼の呪いを解いてあげたい。
そう思ったのだ。
悪役令嬢の私でも、人の役に立てるのなら、できる限りなんでもやりたい。
せめてこれまでの私がかけた迷惑分位は人の為に何かしたい。
それでチャラになるとは考えていないけれど、せめて少しでも彼を救いたいのだ。
主人公は彼に直接魔法を掛け、呪いを解いた。
そのため呪いを掛けた魔獣の見た目なんかの情報はない。
でも、とりあえず地道にでもサフィルと関わり、今年中に呪いについて教えてもらおう。
「…の…えと…あの、お嬢様?」
「えっ、ええっと、ごめんなさい、何かしら?」
「髪飾り、どうしますか?」
一旦の方針が定まったところでエリサが話しかけてきた。
目の前にいくつかの髪飾りが置かれている。
どうやら熱中しすぎて声が聞こえていなかったらしい。
申し訳ないな、と思いながら髪飾りを選ぶ。
どれも可愛らしく、ドレスにも合っている。
そして迷いながら一つの髪飾りを手に取り、エリサに渡す。
アメジストをあしらったティアラだ。
「これですね!…よいしょっ、できました!
お嬢様、お似合いです!」
「ありがとう、エリサ。」
ティアラを付けてもらい、姿見の方へ移動する。
午後からは、紫色のグラデーションの掛かったロングスリーブドレスだ。
あまり肌を露出させないが、タイトな形によりシティアの雰囲気を損なわない。
膝まで伸びた蜂蜜色の髪にいくつもの編み込みがあり、しかし決してゴテゴテには見えないように工夫されている。
選んだティアラも激しすぎないくらいに主張していてとても綺麗だ。
全体的にシティアの瞳と同じ紫水晶色で統一されており、大人っぽい。
「…綺麗ですねぇ」
少し見蕩れてしまったが、エリサの言葉でハッとする。
黙っていれば完璧な容姿を持つシティアなので、彼女の言葉にも共感出来るが、今の私はシティアだ。
自分に見蕩れるなどかなりのナルシストになってしまう。
「ありがと、じゃあそろそろホールに戻りましょう?」
「あっ、はい!」
慌てて話を変え、更衣室を出ようとする。
その時、ふと、首にかけたネックレスに目が行く。
透明なビー玉のようなものが一つだけ付いたデザインをしている。
「ねぇ、これ、」
「あぁ!そのネックレス、先程お嬢様が給仕長から受けとったものですよ。
シンプルですけど綺麗だったので、合うかなって思って付けてみました。
…嫌でしたか?」
「いいえ、大丈夫。さ、行きましょ。」
そういえばさっきドレッサーに置いたかもしれない。
すっかり存在を忘れていた。
そうして更衣室を出て、ホールへ向かう。
「やぁシティー!
さっきぶりだね、アフタヌーンドレスの君も美しいよ」
で、でた!




