第5話 勇者は希望の光を見出す
……聞けば人族は、魔素を体内に取り込むことで魔力を知覚することができるらしい。
通常の人族であれば、城下のように魔素の濃度が薄い場所でも魔力を知覚できるのだが、王国騎士などの魔力容量が大きい者は魔素の濃度が濃いダンジョンで魔力を知覚できるとのことだった。
だから教官は僕をダンジョンへ連れて行ったらしいのだが――。
「……今回もダメか?」
「……ダメですね」
――魔力を知覚することは叶わず、徒労に終わっていた。
「今回で四回目か……」
はぁ、と落胆の息を吐く教官。
こんな屈辱は初めてだ。
まるで”無能な社員の失態に意気消沈している上司”の図じゃないか。
僕にできないことがこの世にあるだなんて……。
「あの、今度から僕一人でダンジョンに行ってみますよ。要領はある程度得ましたし、教官も忙しいでしょうし」
赤面した顔が見えないように俯き気味に僕は教官に提案した。
今のところ僕は、囚われの身よろしく単身では王城の外に出ることができない。
だから教官に一人で外出する許可をもらえないかどうか提案してみた訳だが……。
教官は考え込むように右手であごを擦りながら――。
「そうさなぁ……女王様に進言してみるか」
――僕の提案を受け入れたのだった。
―。
――。
―――。
次の日、自室で待機していた僕の部屋の扉がノックされて、教官が入ってきた。
「おう、女王様にお前の単独行動を認めてもらえないか聞いてみたんだがな……」
何やら歯切れの悪い様子。
やはり断られてしまったのだろうか。
もともと可能性の低い提案だったんだ。
これは仕方のないことだ。
内心で勝手に結論付ける僕を他所に、教官は話を続ける。
「実はな……お前にこの任務を遂行するように言付かってしまった」
「ふえ?」
予想外の答えに思わず変な声が口を突いて出てしまった。
そんな僕を気に留めるわけでもなく、教官は一枚の紙を僕の目の前に差し出した。
そこには――。
「……街中に突如出現したダンジョンの攻略及びボスの討伐?」
――任務の概要とダンジョンの位置を示す地図が記されていた。
「一応まだ早いとは言ってみたんだがな……強情なお姫様に押し通されてしまった」
任務の概要を見てみると、ダンジョンが街中に発生した背景が記されていた。
それによると、魔素の研究をしていた施設の人族が人体実験に手を出していたらしく、数十体の魔獣の魔素を一人の人間に吸収させた結果、ダンジョンボスクラスつまりは幻獣を生み出してしまったらしい。
その幻獣が研究施設を丸ごとダンジョン化したとのことだった。
人体実験には多数の人族が利用されており、幻獣となった人族は魔力が知覚できていなかった少年らしい。
僕の任務はダンジョン化した研究施設を正常に戻すこととダンジョンボスを討伐することの二つだ。
任務の概要についてはおおよそ把握したし、そんなに複雑な内容でもない。
それより気になったことは他にある。
「教官、数十体の魔獣の魔素を取り込んだだけで幻獣になるのですか?」
「詳しいことは分からん。何せ、非人道的な研究に携わっていた研究者はみんな殺されちまったからな。あくまで推定の話だ。幻獣と同等の力を手にしたことを考慮すれば、そのくらいの魔素を取り込む必要があると王国は結論付けている」
「つまり、魔獣数十体の魔素を取り込める人族のキャパは一般的な人族よりも多いでしょうか?」
「それは当然だな。普通じゃ考えられん」
「僕も同等の魔素を取り込んできたはずですよね?」
「そうだな。お前に魔力を扱う才能がないのか、あるいはバカでかい魔力容量を有しているかの二つに一つだと思うぞ」
「なるほど……ダンジョンボスになった少年も僕と同じく魔力の知覚ができていなかったとのことですけど、どうやってそれを知ったのですか?」
「王国民の情報は全てこの城に保管されている。騎士団が下見に行って犠牲になった人族をそれらの情報と照らし合わせた結果、得ることができた結論だ。まあ、あくまでもその可能性が高いってだけだがな」
「そうですか……」
なるほど、ようやく答えを得た気がする。
僕に魔力知覚の才能がなかったんじゃない。
僕の魔力容量が想像以上に大きかっただけだ。
僕に魔力を扱う才能がないなんてありえないし、きっとそうに違いない。
「いいでしょう。受けますよ、この任務……」
「えぇ、いやでも……危険なんだぞ?」
「構いませんとも。ええ、構いませんとも」
僕は決意を新たに、教官が言うところの危険な任務を即断即決で承諾した。