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忘却の勇者  作者: 蒼崎シキ
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第3話 勇者はチュートリアルを早く攻略して自由になりたい

「いやだ、いやだぁああああああああ!!」


泣き叫び、駄々をこねる僕の抵抗も虚しく、女王の側近であるモブAとモブBに両脇をしっかりと固められ、引きずられながら訓練場へと連れていかれた。

しかし、これは悪い流れではない。

これからようやく本格的にチュートリアルが始まるのだ。

チュートリアルを終わらせて、僕は一刻も早く自由の身に――。


「そげぶッ!!」


――訓練場に到着するや否や、僕はいつぞやの時と同じように放り投げられた。

くそっ、また僕を雑に扱ったな!!

僕は脳内で彼らをぼこぼこにしたが、気づけば彼らは消えていた。

代わりに僕の目の前には、白い道着を身に纏ったご老体が立っていた。

彼は据わった視線を僕に投げかけながら、静かに口を開いた。


「貴様、王城で悪戯を働いたというのは本当か?」

「は……はひ……」


恐る恐る答える僕に、ご老体は目をくわっと見開いて――。


「たるんどるッ!!」


――空気が震えるような怒号を放った。

訓練場で実戦経験の仕合を行っていた数多くの騎士達が、思わず視線をこちらに向ける。


「貴様のようなクソガキはわし手ずから引導を渡してやるッ!!」

「あ、あなたが僕の訓練教官ですか?」

「その通りだッ!!」


覚悟せいっ、と構える教官を前に、僕はまだ地面に伏せたままだ。

しかし、教官はそんな僕の状態などお構いなしに伏した僕に踵落としを仕掛けてくる。


「きえぇええええええ――ッ!!」


奇声とともに繰り出される踵落としに、僕は命の危険を感じて飛び起きた。


「あっぶねぇ……あんた、俺を殺す気かッ!?」


心臓の音がバクバクと鳴り止まぬ中、僕は人差し指を向けながら、教官を非難した。


「……チッ」


教官は何事もなかったかのように構えなおす。


「聞こえたぞ、聞こえたからなッ。お前が僕に舌打ちしたのッ!!」


僕も相対する形で教官を前に構えて、攻撃に打って出た。

僕は色々な武術で全国一位を獲ったことのある天才だぞ。

そんな僕を敵に回したことを後悔するが良い!!


「――ッ!?」


思いの外、良い動きをする僕に動揺を隠せない教官。

このまま一気に畳みかけてやる!!


(とど)めだ!!」


僕が教官の横顔目掛けて、上段の回し蹴りを繰り出した、その直後――。


「――あれ?」


――僕の体は宙を舞って、気づけば地面に叩きつけられていた。


「ひでぶッ!!」


顔面を地面に強く叩きつけて、悶絶する僕。

そんな僕を見下ろしながら、教官が得意顔で語り出す。


「わしを出し抜いたつもりだったのだろうが、何もかもが甘い!!今日知ったばかりの小僧に勝ちを譲ってやるほど、わしの『業』は安くないのでな」

「……業?」


聞き慣れない言葉に僕が首をかしげていると、教官は目を点にして口を開いた。


「『業』すら知らんのか、小僧。そんな貴様がわしを倒すことなどありえん!!」

「だったら教えてくださいよ!!」


再び攻勢に出る教官に僕も抵抗するが、反撃虚しく軽くいなされ、またしても地面に叩きつけられた。

しかし、今度は僕に畳みかけるような真似をせず、教官は僕に座るように指示した。

そして、お互いに向き合って座ったところで教官が語り始める。


「『業』とはすなわち、己が宿業を意味する。己が何の為に生まれて、何を為して死んでいくのか。その根源が『業』である」

「???」

「例えば『業』が"農業"であれば、農家を営むことでその才が開花する。"剣士"であれば騎士になることでその才を活かすことができる。俗的な表現であるが、どの分野の才能を有しているのか、理解することが重要なのだ!!」

「じゃあ、業とやらを理解する方法を教えてくださいよ」

「『業』を理解する為に必要なことは魔力を制御すること」

「おお……それじゃあ魔力を制御する方法をこれから教えてくれるのですか?」

「ふっ」


一拍溜めて教官が静かに呟く。


「それはできん」

「はぁあああああああああッ!!?」

「魔力を制御する為には外に出ることが必要なのだ」

「じゃあ今の俺に勝ち目はないってことですか?」

「その通り。貴様はわしから一方的に嬲られるのだ」

「ふざけるなぁあああああああッ!!」

「ひでぶッ!!」


くっはっはっは、と笑い、油断していた教官に、僕は一撃を浴びせた。

業や魔力がなくとも――。


「ふんッ!!」

「あべしッ!!」


――武術の天才である僕ならば――。


「うわらばッ!!」


――空手、柔道、テコンドー、太極拳……あらゆる武術を混ぜ合わせて――。


「はうッ!!」


――自分に合った独自の武術を生み出すことだって――。


「あわびゅッ!!」


――できるんだッ!!


「あおおえええええええ!!」


世紀末を彷彿とさせる雄たけびを上げながら、教官が吹っ飛んでいく。

そして壁に叩きつけられた教官は、壁にもたれかかりながら弱々しい視線を僕に向けた。


「見事……己に合った武術を早くも会得したか。ならばわしが教えることはもうない……がくっ……」

「いや、魔力とか業とか肝心なことを教えてくれよ」


僕はチュートリアルがまだまだ終わりそうにないことを悟った。

あと、自分でがくっ……とか言わないでほしいとも思った。

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