表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
忘却の勇者  作者: 蒼崎シキ
4/12

第1話 勇者は異世界でも自由に生きたい

唐突だが、僕は自由が好きだ。

なんで自由が好きなのか、きっかけは全く覚えていないし、心当たりもない。

物心がついた時からとにかく自由が大好きだった。

僕のすることに口出ししてほしくないし、横やりを入れられるのも好きじゃない。

僕の自由を妨害する者は何人たりとも許さない。

あ、あとは平和も好きだ。

僕は平和主義者で自由が好き。

自分の人生だもの、ラブアンドピースの精神で好きに生きていいじゃない。

そんなこんなで僕は今日まで自由奔放な生活を謳歌してきた。

でも、だからと言って怠惰は嫌いだ。

充実した人生を謳歌して、何事にも全力投球。

それが僕のポリシーだ。

格闘技や球技なんかの個人競技は全国大会で優勝するまで極めたし、学業も全国模試で一番になるまで努力した。

まだまだ挑戦したいことは山ほどある。

ありきたりだけど、芸術とか、創作にも興味はあるし、僕の身体能力と頭脳が活躍できる舞台は多岐に渡っていると確信している。

そんな感じで挑戦したいことはまだまだあったのに……。

気づけば僕はどことも分からない森の中にいて、目の前には見たことのない無数の黒い影が蠢いていた。

さっきまで僕は誰かと一緒に下校中じゃなかったっけ?

急に場面転換した原因は、はてさてなんでだろう。

あと、一緒に下校していた人物は一体誰だったのだろう。

肝心の誰かが思い出せない。

記憶が欠落している気がする。

日本一優秀な僕の頭脳に欠落が――ッ!!

まあ、いいや。今はそんなことよりも目の前のことだ。

人間と頭身の変わらぬ黒い影は今にも僕に襲い掛かってきそうな勢いで前傾姿勢の構えだ。

であれば全力で迎え撃つのが僕のポリスィー。

できるできないではない、何事にも全力で。

それはもちろん生きることにだって例外じゃない。

次の瞬間には死ぬ運命だとしても最後まで懸命に抗い、生き抜いてみせると……誰かに誓った気がするんだけど、誰に誓ったんだっけ?

まあいいや、忘れた。

新天地を目指して、さあ行こう。


「くさっ!!?」


出鼻をくじかれる僕。

鼻を突く強烈な腐臭。

それは黒い影たちから漂っていた。


「お前ら臭過ぎるだろ!!」


正直腐乱したものを触りたくもなかったけど、背に腹は代えられない。

抵抗しなければきっといたぶられるだろうから、それは断固として避けなければならない。

迫ってきた黒い影を一体、また一体、ばっさばっさとなぎ倒していく僕。

横目には楽勝に見えるだろうけど、いかんせん数が多すぎる。

十数体を跳ね退けたところで僕の体力に限界が来てしまった。

ああ、これはさすがに死んだかな、いやまだだ、まだ死にたくない、最後の最後まで抗ってやる、と腹を括ったのも束の間、視界が急に暗転して気づけばまたしても景観が変わっていた。

眼前に広がっていたはずの森は跡形もなく消えて、周囲一帯には焦土が拡がっていた。

黒い影もいつの間にか全部消えている。

一体何が起こったのか、呆然と佇んでいる僕の下に、またしてもお呼びでない来訪者が訪れる。

馬車とともに現れた彼らは黒い影と違って真っ当な人間だった。

しかし何だろう……違和感しか感じない。

何故彼らは騎士のような恰好をして、馬車に乗っているのだろうか。

いつの間にか僕は元居た日本を出国して欧州の王国にでも不時着してしまったのだろうか。

思考が定まらない僕を他所に、彼らは僕を囲い始めた。


「貴様だな、この魔力放出の正体は?」


連中の一人が僕に問いを投げる。

はてさて魔力放出とは、一体何ぞ?

疑問符で脳内が埋め尽くされる中、そんなことはおかまいなしに彼らは僕の両腕をがっちりとホールドすると、僕を馬車に乗せてどこかへ連れて行ったのだった。

―。

――。

―――。

馬車から降ろされて、連行された場所は王城っぽい場所。

石畳の路面にレンガ造りの建物。

やっぱり現代の日本では考えられない光景が僕の目の前に広がっている。

しかしここが欧州なら何故、僕に言語が通じているのだろう。

英語によるコミュニケーション程度ならば、全国模試で一位を獲った僕にかかれば朝飯前ではあるけれど、さすがに日本語との違いは分かる。

彼らが話している言語は紛れもなく日本語だ。

自分の現状について考えれば考えるほど泥沼にはまっていく。

捕らえられてから延々と思考し続ける僕などお構いなしに、僕の両脇を固定している大の男二人は玉座の間らしき部屋まで僕を連行すると、部屋の中央に僕を投げ捨てた。


「ぐびゃっ」


地面に叩きつけられると同時に情けない声が僕の口を突いて出た。

くそ、あんな奴ら……僕の体力が万全だったらコテンパンに返り討ちにしてやるところだったのに。

僕の両脇を羽交い絞めしていた彼らのことはモブA、モブBと名付けよう。

僕は地面に這いつくばったまま、モブAとモブBを脳内でフルボッコにした。

そこへ――。


「貴様か。先ほど巨大な魔力を放った人族は」


――頭上から傲岸不遜な声が聞こえてきた。


「だから魔力って何だ!?」


訳の分からない現状も相まって声を張り上げながら顔を上げると、そこには銀色の鎧に身を包んだ中世的な顔立ちの女傑がいた。

彼女は足を組んで、金と赤で装飾された立派な高座に座っている。

かわいいというよりかっこいい。

男装の麗人という言葉がぴったりと当てはまるような御仁だ。

玉座らしき上座に座っているのだから女王様なのかな。

よしっ、彼女のことは女王様と呼ぶことにしよう。


「いきなり怒号か……言い方を変えようか、貴様が魔力放出によって森を全焼させた原因だな?」


このやり取りはもう三回目だよ……。

魔力ってロールプレイングゲームや異世界ファンタジーの創作でよく聞くあれのことかな?

だとしたら、この場所はゲームの世界なのかな?

はえー、よくできた世界観だな。

体験型のゲームの存在は知っていたけど、まさか僕がプレイすることになるとは思っていなかった。

ん、待てよ?

でも僕がここに来る前に記憶しているのは下校途中であって、ゲームをしようとした記憶なんかないぞ?

より現実感を追求する為に、このゲームをプレイする時は前後の記憶が消えたりするのかな?


「落ち着きがない様子だが……質問を変えよう。貴様は転生者で間違いないな?」


辺りをきょろきょろしたかと思えば、急に物思いに耽る僕を訝りながら、女王様が再度問う。

転生者……なるほど、このゲームの中で僕はそういう設定なのか。

それならば――。


「ご推察の通りです。女王陛下」


――僕は姿勢を正して騎士然とした振る舞いで応じる。

どうだ、見たか、女王の側付きのモブども。

これが全国模試で一位を獲ったパーフェクト超人の力だ。

学校で習わないことにも即座に対応できるのが、この僕だ。


「やはりか。挙動不審な言動は転生者によく見られるものだ」


勝手に優越感に浸っている僕を満足げに見下ろしながら女王様は言葉を続ける。


「では魔力の説明をした方が良いな。いや、その前にこの世界観について説明した方が良いか」


女王様は側付きの一人にこの世界の成り立ちに関する説明をするよう指示した。


「では、私の方から説明しましょう。この世界は――」


なるほど、ここはかつて世界滅亡を目論んだ魔王とそれを阻止しようと立ち上がった六人の英雄が戦った末に新しく構築された世界とのことだ。

しかし六人の英雄の力をもってしても魔王は倒せず、今は地下に封印されているらしい。

六人の英雄はお互いに相容れない性格だった為、世界を六等分にして各世界を自分の領地と定めた。

それから紆余曲折あって今は九つの世界が存在する。

九つある世界の内、三つは天上にあり、第一界層。

四つは地上にあり、第二界層。

二つは地下にあり、第三界層と呼んでいるらしい。

僕たちがいる世界は第二界層にあり、僕たち人間をここでは人族と呼び、人族の世界を『ミズガルズ』と呼ぶ。

その上で、魔力とは地下……つまり第三界層に封印されている魔王の肉体から漏れ出て、地上に溢れ出た魔王の因子――通称『魔素』を自分の内に取り込み、己の力として行使できる状態のことを指す言葉らしい。

側近の説明がぐだぐだだったので、かいつまんでみたが、それでもゲームにしては面倒な設定だと、僕は思う。


「ここの世界観についてはよく理解できました。ならば――」


『魔王』と『英雄』が出てくるゲームの世界において、王様が主人公に求めることなど一つしかない。

僕は一瞬だけ間をとってから、目を見開きながら女王様に問いを投げる。


「――私がすべきことは魔王の討伐ですね?」


ここがゲームの世界ならば当然の流れだ。

魔王の封印がもうすぐ解けるとか言ってゲームの主人公である僕に少ない金貨を持たせて魔王の討伐を指示するに違いない。

どうだ、この一を聞けば十を理解する僕の頭脳。

流石だろう、とドヤ顔で恭しく頭を垂れている僕に女王はこう告げた。


「いや全然違うが」

「えっ!!!!?」


馬鹿なっ、僕の推理が外れただと!?


「で、で、で……では、一体……私に何を求めているのでしょうか?」


動揺を隠すように振舞ったものの、口を突いて出た声音は少々震えて、上ずっていた。

そんな僕の様子を歯牙にもかけずに女王様は続けた。


「君には転生者専用の学び舎に通い、スパイを見つけた際に捕縛してほしいのだ」

「へっ?」


聞けば、この世界には僕以外にも転生者がいて、その人たちは非常に優れた知識を持っているとのこと。

このゲームの世界観が欧州を舞台にしているのならば、現代日本の知識や技術は重宝されるだろうから、整合性はとれている。

そして彼らの助言のもと、転生者の才能を最大限活かす為に集団で切磋琢磨できる機関として学校を設立したのだが……。

転生者は何故か人族しかいない為、他の種族が転生者の知識を盗もうと学校へ潜伏している可能性が極めて高いとのことだ。

そこで転生者かつ巨大な魔力放出という荒事における素質を見せた僕に、スパイ捕縛の大任という白羽の矢が立ったらしい。

ようするに学校に所属しながら、他国からの不法侵入者を見つけては、武力で制圧して捕らえろってことか……。

この博愛主義者の僕に?

はっ、嫌だね。

絶対やらねぇ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ